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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
四章【異世界から来た女騎士と】

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第16話〔この女たらしめっ 恥を知れ!〕③

「しゃーないのう。次、忘れたら承知せんからな」


 そう思いの外あっさりと得心する相手に、思わず――。


「――え、いいんですか?」


「いいもなにも、忘れたなら仕方ないでしょ」


「そうですけど……――」


 ――なんか急だな、助かるけど。


「だいたいアンタの迂闊(うかつ)さと頑固は前世からだからね。アタシャもう諦めたよ」


 正直、謝るべき事なのかは分からないけれど。


「なんかスミマセン……」


 と、一方的に話が進む二人の茶会(ほう)を見て、言う。


 そして話題を変える為に。


「そういえば、部屋に入った時のアレは、なんだったんですか?」


「アレ? ――なんのコトじゃ?」


「なんのコトと聞かれても困りますけど……。どういうコトか説明してって言ってたじゃないですか?」


 改めて相手を見、聞く。すると首をひねりながら考え込む身体が、首の傾きとは反時計回りに動き出す。


 おお、なんか凄い。


 そして一周半ほどしてから、ぐるんと勢いよく正位置に戻り――同時に。


「そうじゃったッ思い出したぞよ!」


 連動して、奥に居る二人がこっちに振り向くのが横目に映る。


「……それはよかったです。ちなみに、内容は?」


 と聞いた途端に聖女の指先が奥の机で魔導少女とクッキーを食べて口の周りを汚している騎士を差す。


「ソナタは以前、あの者と(つがい)いであると言ったではないかっ何故ワレを(たばか)ったのじゃ!」


 へ。


「しかも聞くところではよりによってあの鬼娘と契りを交わした仲と評判ではないかッ」


「……評判というか、事実ですけど……?」


「な、なな、なっ――なんたる裏切りじゃッ! その上っ平然と述べおってからにぃいいイイイっッ!」


 その()で頭を抱えてグルンぐるんと、悶え苦しむ様に円を描き、聖女が叫ぶ。


 おお、なんか凄い。――て思ってる場合ではないか。けど……。


 すると其処に、口の周りを食べかすで汚した騎士がやって来る。


「なにやら大変なコトになってますねぇ」


 次いで数枚のクッキーを手に持った少女が来て、自分のそばで足を止める。


「あの、自分が居ない間に何かあったんですか? 話が見えてこないんですけど……」


「――んーと、ヨウジどのが留守の間に女神さまから奇妙な質問をされたので、お答えしたのですが、それが原因かもしれませんねぇ」


 考え込む感じで腕組みをし、次いで推測するように顎先を指で掴み、告げる。


「その質問の内容は?」


「ええっと、――突然ワタシとヨウジどのが夫婦(めおと)だと申されたので直ぐに否定しました。そしたら奥方は誰と聞かれたので、アリエル騎士団長だと答えたら、急にヨウジどのを問いたださねばと騒ぎ出したところに、ヨウジどのが帰ってきたかんじですよ?」


「なるほど……――」


 ――なら、先ずはそう思っていた理由を問いたださないと。


 と、壊れた羅針盤みたいになっている聖女を見る。






「要するに、女神様はホリーさんと自分が夫婦だと思っていたので驚いたと」


 回るのを止めて、やや落ち着きを取り戻し、食い入るように自分を見る相手に聞き返す。


「そうじゃっ、以前ソナタがこの者と夫婦仲であると言ったではないか!」


 がたりと短髪の騎士が身動ぐ。


「……――ええと。ジャグネスさんと、夫婦だと言ったはずなんですけど……」


「じゃから、この者がジャグネスであろう?」


 そう言って自身を差す指を見て、騎士がエと戸惑いの声を出す。


「いえ、ホリーさんです」


 というか仮に勘違いしていたとしても、最近よく一緒に居るんだから普通は気付くと思うのだが。


「だとすれば結局はあの鬼娘がソナタの相方となるではないかッ」


 というより、最初からそう言っているのだが。――あと鬼娘はなんかイヤだっちゃ。


「まぁでも、勘違いしていたのなら、これを機に覚えていただければと」


(たわ)けたことを言うでないっ。ワレはこの者と夫婦であると聞いたゆえに暫し様子を見ると言ったのじゃ! それがッあのような残虐非道な女と――! ええい、なんたる裏切りじゃッ!」


 すると怒りに震えるような唸り声を発して聖女の輪郭が揺らぎ始める。


 ム。


 前回の事を踏まえ、部屋の様子に目を向ける。と似た感じで状況を見ていた魔導少女と目が合い。


「ワレに忠誠を誓わずッ、あのような者とイチャラブするなど断じて許容できヌゥ!」


 途端に神を中心に激しい風が巻き起こる。


「だいたいソナタは警戒心がなさすぎるのじゃッ、若いオナゴにやたらめったら優しくしおって! この女たらしめっ、恥を知れ!」


 吹き荒れる風の音を縫い、(いわれ)れのない非難が届く。


 誰が女たらしだ、根も葉もない。


「元より、異世界でモテまくるなどという特異体質がいかんのじゃッ! なんじゃそのラノベの主人公みたいな才能はっ! リアルラノベの主人公かっ、リアノベ人かッ!」


 リアノ……。――ちょっと何を言ってるのか分からなくなってきた。


「ええい! キサマのような、ふしだらな男は直ちに焼却してッ、汚物は消毒じゃァア」


 同時に、渦巻く風の勢いが加速度的に(はげ)しさを増す。


 それを見て、今回はさすがにヤバそうだな。と、退避する場所を探す。


 と其処に、いつもの調子で魔導少女が(おもむろ)に現れて自分の前に立つ。


 ム?


 するとその手の平に浮かべていた小さな光の球を、もう一方の手を添えて荒れ狂う渦へと弾く。――そして球が渦に触れた次の瞬間、パッっと晴れ渡る様に、部屋が元の状態に戻る。


 おお……。


 当然のことながら驚く。しかし自分以上に目を白黒させている聖女が、キョロキョロと周囲を見ながら――。


「――な、なんじゃっ。ナニが起きたのじゃッ? ナゼ(わらわ)の力が消えたのじゃっ」


 そしてテクテクと静かに元居た所へ戻って行く少女を見終わった後、おたおたしている聖女の方を見て、声を掛ける。


「なんじゃ、ナニが起きたのか説明せいっ」


「……それはちょっと、自分には説明できません。なので、ジャグネスさんのコトなんですけど、いいですか?」


 途端に相手がムっと表情を引き締める。


「――なんじゃ? 申してみよ」


「はい。女神様がジャグネスさんに受けた仕打ちというのが何なのか、具体的な事は聞いてませんが。少なくとも自分の知るかぎり、理由もなくナニかを傷付けるような人柄ではありません。――だから、ちゃんと本人を見てあげてください」


 次いで暫しの沈黙が流れたのち、フム。と息を吐く様に相手が声を出す。


「……つまるところソナタは、今一度、ワレに審判しろと申すのだな?」


「はい。そうしてもらえると助かります」


「ではもしそれで、彼奴(あやつ)の正否が望まぬものだった場合は、どうするのじゃ?」


「その時は再審をお願いした自分も一緒に、なにかしらの罰を受けます」


「ホウ、それはオモシロい。その場合のソナタはワレの物になるのも(いと)わないのだな?」


「それが罰だと言うなら、――そうですね」


 途端に、聖女が自身の手を打ち合わせ、パンッと異様に甲高い音を立てて光の衝撃波みたいなものを部屋に響き渡らせる。


 な、なに……?


「あい契約完了じゃ。今、ワレとソナタは互いが同意の下、魂で約束を取り交わした」


「え? ――……どういう、コトですか?」


「まあ単純明快(たんじゅんめいかい)に言えば、約束を破っちゃダメよ。ってコトじゃ」


「……なるほど。ちなみに、破ったらどうなるんですか?」


「ムリじゃ破れん。魂の契約とはそういうモノじゃからな」


 なるほど。


「分かりました。――他に何か、自分がするコトはありますか?」


「ホホウ、速やかな割り切りじゃな。さてはヨウジよ、本当のところソナタは自由を欲しておったのではないか?」


「今でも十分に自由ですよ。なんで、他には?」


 すると何故か表情を強張らせ――。


「――なんもせんでよかっ。ウチが勝手に判断するよってに!」


「そ、そうですか……」


 ……なんか怒ってる?


 思わず小首を傾げる。と、ぷいっと扉の方へ向いて聖女が動き出す。


「あれ、どこに行くんですか?」


「ここに居て良し悪しなど判別できまい。四六時中監視して、直ぐに化けの皮を剥がしてやるからのう」


 言い捨て、扉の向こうへと聖女が抜けて行く。






 女神が居なくなり、途端に熱気が抜けたような変な感覚で扉の方を見ながら立ち尽くしていると、そばに短髪の騎士が寄って来て――。


「――よかったのですか?」


「……――なにが、ですか?」


 と言いながらハンカチを一枚ポケットから取り出し、相手に口の周りを拭くようにジェスチャーをして、渡す。


 そして騎士が拭き取っている間に少女の所へと向かい。もう一枚のハンカチで、口を前の方に出して受け入れる体制ができている相手の汚れを拭う。


「――ええっと、――女神さま、行ってしまいましたよ?」


 反応して振り返ると、食べかすを拭き終えて、手にハンカチを持ったまま普段の気の抜けた印象を受ける顔で騎士がこっちを見ていた。ので、少女の口を拭いたのち持っていたハンカチをしまいながら――近寄り。


「そうですね。けど、問題ないと思いますよ」


 と、相手が持っているハンカチを回収する。


「――でもアリエル騎士団長を視るってコトは、夜、家に帰った後のお二人を見られるというコトですよ?」


 なるほど、それは盲点だった。

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