第4話〔これはもう駄目かもしれない〕③
「今更ですけど。女神様って、どういう神様なんですか?」
ぶっちゃけ、ただの子供にしか見えない。
「……――端的に言わばこの世界、ベィビアの所有者となります」
机の上を整えながら預言者が、視線を手元に落としたまま、答える。
「所有者? 守護とか創造ではなくて、ですか?」
「はい。私が仕える女神とは、この世界を創り出した創造神でも、崩壊を抑止する守護者でもありません。ただ遥か昔、名も無い世に導かれた最初の存在、とだけ私は母から聞かされました」
――そう言って相手がこっちを見、次いで微笑む。
「して、ナゼそのようなコトをお知りになりたいのでしょうか?」
「ええと。捜す上で、相手のコトを知ってるほうがいいかなと……」
「なるほど、仰るとおりです。さすれば私から一つ、アドバイスをいたします。女神と言えど今は心身ともに子供。ゆえに御子様の好きそうな場所を捜すのが得策と思われます」
……なるほど。――ん? まてよ。
「ええと、預言者様は一緒に捜さないんですか?」
「モチロン手の空き具合、事のついでに、気を付けておきましょう」
「……――いいんですか? それで」
「なに故でしょうか?」
「……女神様に、仕えてるのでは……?」
「ええ、心体を捧げております」
「だとしたら、一緒に捜したほうが……」
すると神妙な面持ちで相手が机に肘を立て、次いで手を顎下で組む。
「本来であれば、私自ら主の御身を捜索するのが誠の忠。さりとて今は、親身を捨て置くほどの」
「要するに、明日が楽しみで仕方がないと?」
多少整頓されたものの、未だ卓上を埋め尽くす雑誌に目を向けて告げる。
と白のローブが肩口から――。
「――脱がなくていいです」
そして手が止まる。が次の瞬間、チラリと言って相手が肩先を一瞬見せて隠す。
……――なに故に?
部屋を後にして、暫く廊下を進んだのち、何気なしに立ち止まり窓の外を見上げる。
――さて、どこから捜そう。
正直、子供が好きそうな場所、と言われても皆目見当がつかない。
「あ! ヨウジどのっ発見しましたっ!」
ム。――反応して振り返る。と短い髪の騎士が寄って来て。
「見付けましたっヨウジどの!」
「え、見つかったんですか?」
「ハイっ見付けちゃいました!」
おお、意外にあっさりと。
「――どこで見つけたんですか?」
「ハイここでっ!」
「え、ここ……? ――……もしかして、見つけたというのは……?」
と自分の顔を小さく指す。
「ハイ! ヨウジどのを捜していたので見付けましたっ」
……なるほど。
しかし一向に、ヘラヘラとしているだけで、何の話も始まらない。
「――……あの、用件は……?」
するとハッとした感じで、拳を縦にゴンと打ち合わせる。
「思い出しましたっ。女神ちゃんの行方が分からず捜査が行き詰ったので、ヨウジどののお知恵を略奪しようと探していたのですよ!」
「……――それを言うなら拝借ですよ」
知恵を略奪って、脳でも吸うつもりなのだろうか。
ただ、それはそれとして――。
「――あと、当てにされても助言できる事とかはありませんよ? これから捜し始めるところなんで」
「むむ、――そうですか。それなら――、あ。ヨウジどのは、どこから捜すおつもりですか? すでに捜した場所とかぶるとイケないので、教えてくださいっ」
ム。
「――ええと。ドコと決めてはいませんが、子供が好きそうな場所を探しもって見ようと思ってます」
「ふむふむ。子供が好きそうな場所ですか?」
「はい。ホリーさんは、そういう場所に心当りとかはありませんか?」
「んー……場所でなく、子どもが好きなモノと言えば――お菓子です、甘いモノですっ」
ふム。――極端な気もするが。
「けど、子供が好きそうな甘いモノなんて、城内にありますか?」
「食堂に行けば角砂糖とか、いっぱいありますよ?」
角砂糖て……。――あ。
「そうだ。忘れてました、ホリーさん」
「はい、ゴミの収集なら今朝ワタシが出しておきました」
「あ、そっか。忘れてました、ありがとうございます――ではなくて、ホリーさんに頼まれていた昼食のサンドイッチ、俺の机に置いてありますんで、捜すのは一旦中断して食べに行ってくださいね」
「あー、なるほど。ワタシって今、空腹なのですね?」
「ぇ。いや、それは……聞かれても?」
「ハイ。じつはさっきから情緒が安定しないなと思ってました。いやぁワタシ、昔から月経と空腹が重なると捨て鉢になっちゃうんですよぉ」
捨て……。――なんとも解明しがたい精神構造だ。
「……まぁそういうコトなら、是非。包まれてますが、直ぐに分かると思います。もし分からなければ妹さんにでも聞いてください」
「了解です! ちゃちゃっとすませて、手短に合流しますっ」
「いや、ゆっくり――」
――言い終わる前に、忙しない駆け足で相手が去って行く。
……方向的にそっちではない気が。
と思った途端、廊下の向こうから騎士が引き返して来た。
***
感覚的に察したものの、眠気に誘われ、再び意識を寝床に入れようとした少女の赤い外套がツンツンと引かれる。とそれを受けて被さった帽子の下で顔を動かし寝惚け眼を覗かせる相手に、一段と幼い風貌の少女が困り顔で尋ねる。
「ねぇねぇ。パンって、どこにあるか知ってる?」
「……――知らない」
そして寝床に入る赤い裾を再度幼い手が引く。
「――ねぇねぇ。パンほしいの、一緒にさがして」
「……――嫌」
そして寝床に入ろうとした矢先、ある事を思い出し、机の上にある包みをぼんやりとした意識の中――指で示す。
「……持っていけ」
次いで幼い瞳が指と包みを交互に見る。
「あれ――パン?」
そして、そう。と返し寝床に入る相手に、笑顔を向け――。
「――ありがと!」
次いで、無邪気な気配が部屋を出て行く。
そうして安息――も束の間、騒々しく扉を開けて部屋に入ってきた慌ただしい存在が忙しなく自身の席でくつろぐ少女に寄って行く。
「エリアル導師っワタシのサンドイッチはドコですかッ?」
そして返らぬ答え。途端に方向を変える騎士の意向で、部屋が騒がしくなっていく。
「――出てこいサンドイッチッ! ドコに隠れたっ、ワタシはここです!」
思わず魔力弾で消し飛ばしたくなる衝動に駆られるが、部屋の大半を埋める諸事情により断念した少女の魔力が代わりに耳を。
「うぅ、――せっかくヨウジどのが持ってきてくれたのに……。見つからなかったらヨウジどの、泣くかもしれません……。――て、その場合ッ泣くのはワタシのほうなんですけどね!」
すると突然、少女が椅子から立ち上がり。それを見て――。
「あ、エリアル導師っ。ワタシのサンドイッ」
――近寄った騎士の額が魔力を込めた小さな中指に弾かれ、意識と共にその場でドサっと仰向けに横たわる。
「……うるさい」
*
食堂から出てきた少女が自分を見て、小走りで寄って来る。そして、どこか嬉しそうに。
「水内さんも?」
直後、も? と聞き返す。
「こどもが好きそうな物、探しにきたんじゃないの?」
「あー、そうです。鈴木さんも、ですか?」
「そ。こどもって言えば、甘い物でしょ。最終それとザルがあれば、一網打尽よ」
いや、捕らえる対象はひとりなんですけど。
「……ちなみに、セイカのほどは?」
「ここは、空振りだったわ。そのかわり目撃情報があったから、これからそっちに行くところよ。てわけで、水内さんも一緒にどう?」
「あ、はい。そういうコトなら、一緒に」
「ん。じゃ、行きましょ」
と前へ踏み出した途端に足を止める少女が自分の方へと向き直る。
「どうか、しましたか?」
「ね。ぜんぜん関係ない話だけど、水内さん――騎士さまの体、見た?」
「え……。まぁそれは……――なんで……ですか?」
「わたし、前に見たんだけど。鍛えてるだけあって、バッキバキじゃない?」
「ぁー……、確かに」
「ちなみにダメ騎士もよ」
え、まじで。




