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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
四章【異世界から来た女騎士と】

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第1話〔これはもう駄目かもしれないね〕①

【補足】

 今話≪四章:第1話≫は“結婚(挙式)後”の話からとなります。


 予め、ご了承ください。m(_ _)m

「あれから、調子のほどは如何(いかが)でしょうか?」


 本日の勤務内容を報告し終わった自分に、薄く緑がかった髪を編んで肩から垂らしている預言者が、いつもの席から様子を(うかが)う感じで聞いてくる。


「あれからと言うのは?」


 次いで具体的な期間を尋ね返す。と相も変わらず(なご)やかな笑みを浮かべて手を打ち合わせる相手が――。


「――モチロン、新生活の調子です。今や二人は名実ともに夫婦。そろそろ挙式以前との違いも明確になった頃合いではありませんか?」


「ぁー……なるほど。そうですね……――特にないです。いつも通り、普通に過ごしてます。と言うか、まだ半月ほどですよ?」


「おや、そうでしたか? 年を取ると時間の感覚がつかめませんねェ。――こうなってしまっては一日でも早く、私を手厚く介抱してくださるステキな洋治(ようじ)さまの様な殿方を見つける他ありませんよ?」


 ……ふム。


「心配しなくても、預言者様ほどの器量なら引く手数多(あまた)ですよ。だから口だけでなく、その気になりさえすれば直ぐです」


 嘘偽りなく、本心を語る。するとフワっとしているのに中身が詰まっているような何とも表現しづらい表情で。


「それでは私も、行なっている研究が落ち着き次第、婚活とシャレ込みましょう」


 シャレ込むて……。またなんとも――、ん?


「研究? なんのコトですか?」


「ええ、実は私、十年ほど前からある研究に没頭しておりまして。そろそろ成果が形になろうところまで来たのです。ゆえに、私が女性として社会進出を果たせるかはその結果次第となります」


「……なるほど。ちなみに、その研究と言うのは?」


「そうですねェ。かいつまんで言うのなら、少子化問題における対策、でしょうか?」


 疑問形になったのは一先ず置いておくとして。――これまた政治家みたいな発言だな。


 そして、似たようなものだけど。と次いで思いつつ、口を開く。


「まぁその、預言者様のやっているコトは自分とは比べ物にならないほど大変な事と思いますんで、ほどほどに頑張ってください。それでもし、俺に手伝えることがあれば先ずは相談してくれれば」


 途端に(にこ)やかな笑みを浮かべる相手を見て――。


「さすれば早速」


「内容次第です」


 ――と反射的に、切り返す。






 そうして説明された事の要点を大意的に言う。


「――つまり、髪の毛が欲しいと?」


「欲を言えば最良ではありませんが、採取のしやすさと、多少多めにいただければ申し分なしです。あるいは洋治さまが私の部屋にしのび込んでくだされば、事を済ませて問題もスッキリと処理できるのですが、如何いたしましょう?」


 ちょっと後半に言ってる事の意味は分からないが――。


「――髪でいいですよ、近々切ろうと思ってましたし。それよりも、本当に自分の子にはならないんですよね……?」


 気づいたら、身に覚えのない子供に囲まれていた。なんて、シャレにならない。


「ご心配には及びません。現段階では、無から生み出した男性の因子と照合する過程にのみ使用する予定です。そうした危険性をはらむ途上は既に越えております。モチロン、洋治さまがお望みとあらば、やぶさかではありませんよ?」


「勿論、全身全霊(ぜんしんぜんれい)で遠慮します。――ちなみに、これまではどうしてたんですか?」


 提供元があるなら、わざわざ自分でなくとも。


 するとあからさまに(しか)めっ面をして――。


「――王のを定期的に拝借しております」


 なんだろう。若干、言い様に他意を感じるのだが。


「……なら、俺でなくても」


「歳のせいか、王は近頃頭髪に支障を来しております。ゆえに、これ以上の酷使はいささか不憫かと。それとも洋治さまは、王の(しも)の毛まで剃れと仰るのでしょうか?」


 いや、なんでっ。


「そこでなくても他に毛なら」


「いいえ王の毛はその二つのみです」


 んなバカなっ。


「……以前見た時は、そんなかんじではなかった気がしますけど……」


「おや。洋治さまにそのようなご趣味があったとは、存じず」


「え? いや――……何がですか?」


「いえいえお気になさらず、ただの戯言ですので。しかしながら王で事足りぬと言うのは事実、と言うのも照らし合わせる情報は多いに越したコトはありません」


「なるほど。そういうコトなら、近いうちに持ってきます」


「差し支えなければ、爪なども一緒に発送していただいても宜しいですよ?」


 なにそれ怖い。


「……髪だけ、ちゃんと自分で持ってきます」


「おや、そうですか。まァ私としては一つあれば十分ですので申し分ありませんが」


 ん、一つ? なにが――。


「して洋治さま、ついに完成いたしました」


 ――聞こうとした矢先、そう言って預言者が手を合わせ微笑む。


「なにが、ですか?」


 次いで白いローブの内側から二つの指輪が取り出される。






 ――自分のを左の薬指にはめて、残った白の輪を指先で挟むようにして持ち眺める。


「形状は、それほど変わってませんが。前のと比べて落ち着いた雰囲気になりましたね」


「はい。色も白と黒にして、対を()してみました」


「なるほど。――ちなみに使い方は前と同じですか?」


「いえいえ、そんなバナナです。此度の新作は正に集大成、あらゆる面でこれまでの作品を凌駕しております。なにせ――」


 ――そうして始まる作り手の功績話を聞きつつ、異世界にもバナナは存在するのだろうか。と思う。






 去り際に一礼して預言者の部屋を出た後、若干急ぎ足で二人のもとへ向かう。


 思いの外、長かった……。


 次いで、すれ違う一般騎士に会釈したのち、足を速める。






 部屋に入ると真っ先に視界を(さえぎ)る魔導機具の向こうから賑やかな声が聞こえてきて、奥に歩を進める。すると座っているボサっとした魔導少女の前で、出掛ける前は居なかった少女が、一冊の本を手に広げて持っている短髪の騎士と、やや白熱気味に対話していた。


 そして自分に気づいた丈の短い外套(がいとう)を羽織る魔導少女と目が合う。


「――どうかしたんですか?」


 取り敢えずは誰に聞くではなく、投げ掛けるかんじで全体に問う。


「あ、水内(みなうち)さん。戻ってきたのね」


「はい、たった今」


 と自分のデスクに歩み寄り、持っていた書類を机の上に置く。


「それで、なんの話を?」


 今度は近くに来たサラッと(つや)やかな黒髪を腰まで垂らす少女を見て、問う。


「ん? ああ。――ダメ騎士の無駄話に付き合ってただけよ、大したコトじゃないわ」


 そう、振り返って言う少女。に、見られた騎士が、本の表紙を前に出して近付く。


「無駄話ではないですよっ、今後必ず必要になると思うんです!」


 次いで更に前へと出される物に目を遣る。


 ――ええと、……初めての、子育て手引書(マニュアル)……。


「……ぇ。ホリーさん、子供ができたんですか……?」


「へ? ――ちッ違います! ワタシではないですよっ!」


 手をバタバタと振って、この頃は出会った当初の少年っぽさが薄れ、やや小奇麗になった気すらする相手が慌てて否定の意を告げる。


「ならお友達とかですか?」


「違います違いますッ。これはヨウジどのに渡そうと思い、先月出産したばかりの元同僚から貰ってきた物です!」


「いや、それだと(むし)ろ必要なのはその人では。――て、え? 俺に……?」


「はい――ヨウジどのに、お渡しします」


 そして自分に差し出された本を、なんとなく、受け取る。


「何故に……?」


 気持ち困惑しつつ、にこにこしている相手にその意向を尋ねる。


「いずれ必要になると思い、持ってきていたのを、さっき思い出しました」


 ……なるほど。


「アンタね。さっきも言ったけど、ほんと気が早いわよ」


「そうでしょうか? こういうのって事前に準備するほうがイイと思うんです、ジブン」


「――にしたって、早いわよ」


 ふム。


「まぁ時機は一先ず置いておいて。貰っといてなんですが、見たところ随分と読まれた痕跡があると言うか愛用された感じと言うか……――」


 ――単純に言えばボロボロだ。


「ええっと、……じつはヨウジどのに渡す前に少しワタシも中を拝見したので、それで」


 え……少し?


「読んでどうすんのよ? 使いみちないでしょ、アンタ」


「いやぁ、知り合いのをみる可能性なら、まだかろうじてありえるかなと思いまして」


 その前に自身の可能性を信じてほしいのだが。


「ふーん。だったら、わたしと水内さんの子は、情けでアンタにみさせてあげるわ」


 情けって……。というか、可能性的にそっちのほうが断然ありえない。


 ――とはいえ下手に口出しすると話が長引きそうなので。


「まぁ冗談はそのへんで、そろそろ待ち合わせの時間なんで帰りますね」


 次いで不満げな顔をする少女に二三言葉を添えながら、椅子から立ち上がりこっちに来る魔導少女を横目に見る。






 ――そして夜、風呂からあがり、髪に残った水気をタオルで拭きながらダイニングの扉を開ける。と帰宅後にリビングのテーブルに置いたまま忘れていた一冊の本を手に持って立っている寝衣姿の女騎士と出くわす。


 すると、目の錯覚か、キラリと光る眼差しが自分に向けられる。


 これはもう駄目かもしれないね。

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