第14話〔じゃ いっかい向こうへ戻るわよ〕⑦
「お姉ちゃん、お腹が空いた。あと、ダレ?」
ボサボサになった短めの髪を掻きながら徐に言う少女が、ちらりとこっちを見る。
「エリアル、貴方また、着替えずに寝たのですか?」
見るからに寝起きって感じだな。
「……ごめん。――お姉ちゃん、お腹空いた。で、ダレ?」
着衣の乱れを正しながら少女が、ちらりとこちらを見る。
「まったく、次からは気をつけるのですよ。あと、食べる物なら夕食を直ぐに用意します」
「うん、分かった」
少女が、ちらりと自分を見る。
そしてキッチンへ行く相手を見送ってから、静かな足取りで、隣の席に座った少女が。
「ダレ?」
と、ちらりではなく、確りと顔を見て、聞いてくる。
「はじめまして。水内、洋治です」
「お姉ちゃんと、どういう関係?」
関係……――。
「――知り合い、かな」
「アン、……アナタみたいな、変なのと?」
容赦ないな。
「ええと。お姉さんのお仕事を手伝った、のかな」
「手伝うの無理。そもそもアンタは男」
性別は関係ないと思うのだが。――いや、まてよ。
そういえば、こっちに来てから男の兵士を見ていない。
「――エリアル、貴方いま、アンタと言いませんでしたか?」
ヤバイと言わんばかりに、近づいてきた姉から目を逸らし、少女が下を向く。
「まったく。――はい、ちゃんと噛んで食べるのですよ」
手に持っていた皿をテーブルの上に置いて、座っていた席へと姉が戻る。そして目の前に置かれた皿を妹がじっと見詰め。
「お姉ちゃん、誰が作ったの?」
「作ったのはヨウですよ」
「この人、家政夫?」
かせいふ……。
「違いますっ。ヨウは私の大切な――」
「なに?」
「――た、大切な客人ですっ。ですから、失礼のないように」
なんで若干動揺したんだろう。
「分かった。――どこから?」
納得して食事をとり始めた少女が、こちらを見て、聞いてくる。
「たぶん、こっちで言うところの異世界です」
「いふぇくぁい?」
「エリアル、口の中の物を飲み込んでから喋りなさい」
「……――異世界? ――あ、お姉ちゃん、任務は?」
「勿論、終わりました」
「はやい」
「早くに終わったのはヨウが私に力を貸してくれたおかげです」
「俺は何も」
「――異世界人って、地味」
じみ……。
「コラッ失礼は駄目と先ほど」
「大丈夫ですよ。気にしてません」
自分、地味ですから。
「だって」
「コラッ」
姉がテーブルを軽く叩き、妹を叱る。
「本当に、気にしてませんから」
地味なんで。
「……そう、ですか。――あとエリアル、この人とか異世界人ではありません。ヨウジさんと呼びなさい」
「なら、ヨウ」
「駄目です」
「お姉ちゃんと、同じ」
「貴方は駄目です」
「理不尽」
「理不尽ではありませんっ」
このまま、見ていてもいいが。
「――呼び方なら、何になっても気にしませんよ」
「だって」
「エリアルっ」
「理不尽」
そして議論は続く。
「そろそろ行く」
食事を終えてから三人で雑談をしたのち、そう言って少女が立ち上がる。
「今からですか? よかったら、途中まで一緒に」
「なんで?」
「夜なので」
「――なに?」
「迎えの馬車が来ますので、ご心配には及びません。それに、ここは城の敷地内ですし。仮に何かあっても、エリアルなら大丈夫です」
「うん、燃やす」
物騒な異世界だ。
「――なら、安心です」
「お気遣い、感謝します」
「勝手な気遣い」
「エリアルっ」
「……ごめん」
思わず顔がほころぶ。
そして扉へと向かう少女が、途中で足を止め、振り返る。
「しばらく居る?」
「え。あ、たぶん、居ます」
「分かった」
再び扉へと向かう少女。が取っ手を持ち、また振り返る。
「お姉ちゃんに、変なことしたら、死ぬよ」
「エリアルッ」
重々承知しております。