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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
三章【異世界から来た女騎士と愛を交わした】

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第50話〔謝罪の意を身をもって示そうと思いまして〕③

 そうして、短髪の騎士が客席へと向かい、少女もまた会場の天井を開ける為に場を離れた事で、白のローブを着る相手と舞台袖で二人になる。


「――預言者様、さっきと同じように放送で、今度は皆を止めてください」


「なるほど。ええ、分かりました。――しかしながら、私のか細い声が三人の耳に入るかは、現状を見る限り心もとなく。故に、ここは洋治さまが発言なさってみてはどうでしょう?」


 ム……。


「……――分かりました。なら、放送する場所に連れて行ってください」


「いえいえ、そのような場所に行かずとも、――この場で」


 と相手が着ているローブの袖口に手を入れ、中から黒い石棒を取り出す。


 ――なるほど。


「使用方法は、ご存知でしょうか?」


「はい。鈴木さんが使っていた物と同じ物なら、分かります」


「さすれば申し分ございません。――どうぞ、お使いください」


 そう言って差し出される棒を、受け取る。が――。


 何と言えばいいのだろう。


 ――直ぐに思い悩む。


「洋治さま、どうかなさいましたか?」


「……――いえ、言うべき言葉を探しているだけです」


 全く、見当たらないけど。――なんて言えば、この場をおさめられるんだ。


「月並みですが、難しく考える必要はありませんよ。見たまま、感じたままを言葉にすればよいのです」


「……なるほど」


 納得して、舞台の方を向く。そして、何処へ行くのかを訪ねてくる預言者に見てくる(むね)を伝え、足を運ぶ。






 ――状況は思っていた以上に、酷く。戦いの舞台は会場全体に及んでいた。


 ただ唯一の救いは、当人達が可能な範囲で他を巻き込まないよう努力をしている点。でなければ、怪我人どころか死人すら出ていたかもしれない戦場(げんじょう)


 その辺を踏まえ、忠告するとしたら――。


 ――よし。と、自分の為に用意された着ぐるみの頭を見る。






 既に誰も居ない舞台上から、ついさっきまで避難客に飛んできた魔力の弾を必死に防ぎ止めていた鎧姿の短髪の騎士が居る客席(ほう)を見た後、開いた天井の先でフヨフヨ浮いている魔導少女とその手にある杖を狭くなった視界で視認する。


 アレはさすがにマズい。


 どれほどの脅威なのかは分からないが見えている力の塊を目視して、そう思う。


 従って急ぎ、首と着ぐるみの間に黒い棒を差し込み、石の先端を口の前に持っていく。


 ――次いで、出来る限り聞き取りやすい低音を意識しつつ、端的な言葉(コラ)を発する。






 その結果、水を打ったようにしんとなる会場内で注目される事に耐えかね、若干動揺する心を(しず)めながら足早に舞台袖へと戻る。


 と何故か目を見張っているローブを着た相手に、頭の着ぐるみをとってから――。


「どうか、しましたか?」


 ――と声を掛ける。すると、緊張した面持ちのまま二度三度と瞬く、口が開き。


「さ、流石(さすが)の洋治さまです」


 そう――声を押し出すように、告げられる。


 で何となく、ムっと小首を傾け、適当な相槌を打つ。






 着ぐるみを元あった所に戻して後ろを振り向いたところに、長い黒髪を揺らし、やって来た少女が自分の前で何かを言おうとして――止める。


 ム?


「どうか――」


 ――途端に舞台側、正確には客席の方で悲鳴に似たざわめきが起こる。


「おや。よもや、続きを……?」


 と近くに来た預言者が、再度騒がしくなる方向を見つつ誰に聞くでもなく、言う。


 いや、さすがに――それは。


「ちょっと見てきます」


 言って動き出す自分の後ろに付いて来る二人の気配を伴い、舞台上へ様子を見に戻る。






 それは異様な光景だった。何故なら皆が皆、顔を上に向け、空を仰いでいたからだ。しかしそうと分かっていながらも参加した視線の先で幻想的(ファンタジー)な存在と遭遇し、自分も他と同じ様に唖然と存在(ソレ)を仰ぎ見る事となった。


 これはいわゆる、ご本人の登場……?


 舞台袖に置いてきた似て非なる物を想い、単純に感想をつける。


「……――何となしに、救世主様が図案した物と似ている気がするのですが、――私の気の所為(せい)、でしょうか?」


 横で、開いた天井から、上空を飛んでいる本物を見ていた預言者が聞いてくる。


 ので、ナゼ自分に聞く。と内心思いながら相手を見。


「分かりません……。――どうなんですか? 鈴木さん」


 と、適切な相手に話題を届ける。


「……わたし、あんなの知らないわよ。て言うか、――もしそうなら、水内さんにドラゴン役なんて頼まないわよ」


 ――そりゃそうか。どう考えてもあっちが適任、というか物本(ものほん)だし。


 などと、やや騒然とした気持ちをほぐすつもりで、死語に属する倒語(とうご)をひねり出す。そして今一度、空を仰ぎ見て、架空の存在と思っていた(あか)き竜の旋回を見守る。と、次の瞬間、――目が合う――。


 ――それは余りにも不確かで、遠い情報だった。しかしそうと分かっていながらも、まるで直接肌に触れられたかのような実感が()き、気付けば無自覚に数歩後退っていた。


「水内さん? どうしたの?」


 不思議そうな表情で自分を見ていた少女が気に掛ける感じで口にする。と次いで、返事をしようとした矢先に鼓膜を圧し潰すような音の振動が上空から放たれ、咄嗟に手で両方の耳を塞ぎ身を屈める。






 お、おお……。


 早くも目の前で起きている展開についていけなくなり、状況を把握しないうちから凄い熱風とその衝撃に晒される現状を、赤色の外套を羽織る少女の背中越しに、呆然と立ち尽くし見詰め続ける。


 ……妹さん? というかアッツいしっ、アッカい!


 過去の体験を彷彿させるどころか完全に更新する勢いで、何故か眼前(そこ)にある、真っ赤な熱源球(ほのお)。を空中で(とど)めて、いる――。


 ――あ。と、ようやく前屈したのち急劇(きゅうげき)に変化していた事態をつかみ始め、たところで軽く人の大きさを超えていた炎球が弾かれる様に空へとうち上がり、――爆ぜて、散る。


 おぉ……、熱い。


 降り注ぐ熱をはらんだ風が周辺の空気を暖める。そして、突然アと声を出す黒髪少女の顔の向きで推測し見た客席に、宙に居た少女が落ち。


 次いで無意識に歩を踏み出す。






 横列の真ん中に落ちた少女を抱き起こすと、その体は通常とは異なる熱を帯びていた。


「――妹さん、大丈夫ですか?」


「……大丈夫」


 ケホっと口から咳を出した後、魔導少女がコクリと頷き答える。


 若干コゲ臭いな。――て、そんなコトはどうでもいいか。


 すると短髪の騎士が、席を乗り越え、やって来る。


「ヨウジどの――とっと、――ご無事ですかっ?」


 座席に足を引っ掛けて転びそうになりながらも持ち直し近くに来た相手が、気持ち焦り気味に言う。


「俺は平気です。妹さんも、大丈夫そうです」


 直後、上から降ってくる様に、近くに着地した女騎士が足早に近寄って来る。


「ヨウっ、――怪我はっ?」


 持っていた剣を帯剣し立ち止まった相手が、やや不安そうな表情を浮かべて言う。


 ムム。


「してません、平気です。妹さんも、無事みたいです」


 次いで、そうですか。と、口にする女騎士。其処へ黒髪の少女と預言者が合流する。


「水内さん、なんともない?」


 いや、なんで。


 と不公平な扱いに不満を抱き、発言しかけた折に預言者が一歩前へ出て物を言う姿勢をつくる。それを見て、開きかけた口を閉じ、皆と同様になかなか言葉を発しない相手の様子を窺っていると、俯き加減だった顔が(にわ)かに上がり。


「――洋治さま、速やかにお逃げください」


 真っ直ぐに自分の目を見つめ、ふざけるそぶりなどは微塵も見せずに預言者が告げる。


「……逃げる? どういう、コトですか……?」


「詳細を説明している時間はありません。直ちにここを離れ、どこぞに身を潜めるのが得策かと思われます」


「いや。そう言われても、自分だけ逃げる訳には……」


「いいえ。あの、火を吐いた巨大なトカゲのような鳥の狙いは、洋治さまです。平たく言えば、他を巻き込みたくないのなら、お逃げください」


 そして言った本人を除く皆が一瞬ざわつく。


「俺……? 何故――」


 ――突如として周囲、もとい会場内が暗転する。と続いて短髪の騎士が小さな悲鳴を上げたので振り返ると、開いた天井の隙間からでは全体が見えない程の距離に巨大な爬虫類のような顏貌が()った。


 と同時に、何かが焼ける、チリチリという音が聞こえてくる。


 マ、マズい――。


 ――そう思った途端、床を擦る足音と共に現れたバニーガールが近付いて来て――。


「エリアル様、あのドラゴンの横に足場をつくっていただけますか」


 ――と、仮面を付けたまま、自分が上体を支えている少女に()う。


「……ダレ?」


 いや、絶対知ってるでしょっ。――というか、はやくはやく。

【補足】

 作中に出た≪顏貌(かおかたち)≫は、意図してルビを振ってません。m(_ _)m

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