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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
三章【異世界から来た女騎士と愛を交わした】

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第46話〔そんなんじゃ天才子役にはなれないわよっ〕①

 


 ※



 人は目の前で起きている出来事をどれだけ許容できるのか。


 無力、故の努力、末の活力。――切望、故の失望、末の絶望。


 そんな、非常な事――……、……――ア。ねェ見て見て、楽しそうなコトやってるよ?


 ……――(しか)らば神として、場を盛り上げるとしましょう。私たち直々の、余興で。



 *



 婚前旅行と称された旅から帰ってきて数週間後の、終業前。に呼び出しを受け、許可を待って入室した預言者の部屋で初めて会った既知の相手と挨拶を交わす。


「ご丁寧に、どうも。以後は洋治くん、と呼ばせてもらっていいかな?」


 握手をした後、自身の見掛けには全く以て不釣り合いなダンディ感が漂う口調で相手が言う。――そしてその言葉に、ハイと返す。


 すると、自分達の様子を見ていた預言者が席を立ち。――横に来て。


「では私はしばらく席を外します。用が済んだのち、頃合いを見て戻りますので、その間に小難しい話は、ちゃちゃっと済ませておいてください」


 次いで、爽やかな笑顔を見せ、医者が承諾の返事をする。


「それでは、のちほど――」


 ――言って自分(こっち)をちらりと見る預言者。に、頭を僅かに上下させて返事を示す。と何故か満足気に微笑んで、相手が部屋を出て行く。


「……――これは驚いた。――洋治くんは見かけによらず、かなりの遣り手だ。いったいどう攻略したのか、参考がてらに聞かせてもらえないだろうか?」


 医者を名乗るわりには色の多い、しかし落ち着いた雰囲気の服を身に(まと)う有名な家柄の当主が気持ち驚きを表す様な表情で聞いてくる。


「何の事ですか……?」


「ううん、謙虚(けんきょ)だ。アレほどの女性をオトしておきながら、優越感を一切見せないとは、

……いやはや感服するばかり」


 なにを言ってるんだ? この人は。


「やはり、そういった(つつ)ましい振る舞いが男女を問わずに必要なのだろうか?」


「……――すみません、一体ナニの事を……?」


「おっと、誤解を招く前に、断言しておこう。いくら彼女が人一倍優れた女性(レイディ)とはいえ、有権者を無視するのは常識(マナー)に反する行いと心得ている。よって安心して話をしてほしい」


 なんだろう。見掛けというより、心身ともに軽さを感じるのだが。――ただそういう方面を気に掛ける前に。


「レイ……――あんまり、聞かない言葉ですね」


 特に異世界(こっち)では。


「ウン? ああ。発声の仕方がオカしかったかな。――差し支えがなければ、本場の発音をご教示していただきたい」


「い、いえ、発音はよかったと思います……。――どこで、その言葉を?」


 と聞くと、若干移動して距離を空けたのちに振り向いた相手が俯き加減で口を開く。


「わたしの知っている限りでは、英語と呼ばれる言語の一つ、と言う認識ですが。実際のところは、どうですか?」


 ――なんだ、急に雰囲気が。


「間違ってません。何かを、読んで? それとも人から、聞いて?」


「両方だよ。彼女と親しいキミなら、おおよその見当はつくだろ」


「なるほど。――それなら、用はなんですか?」


「……――どうして、そう思うのかな?」


()の状況は、それしかないです」


 そう言うと、確信をもった様にウンと頷く相手が改めた感じで口を開く。


「洋治くん、キミにお願いしたい事がある」


「はい、なんですか? ――内容次第にはなりますけど」


「ウン。キミに、ある物を持ってきてもらいたい。そのある物とは、異世界の医学書だ」


「医学書……? けど、自分は医者ではないですよ……」


「一般的に売られている物で構わない。ただ出来るだけ幅広く、精確なモノをお願いしたい。モチロン必要な費用はわたし個人から出すつもりだ」


 と、(すこぶ)る真剣な面持ちで、医者が言う。


 この人……――。


「――……分かりました。けれど、数を揃える事しか出来ません。内容は、見て判断してください。中に書いてある事が正しいのか、そうでないのか、を」


 次いで、了解した。と、承諾の意が口にされる。


「ちなみに何故、医学書を? 異世界(こっち)と向こうでは治療法も違うのでは……」


 詳しい事は知らないけど。


「ウン。細かな事情を抜きにして一言で言うと、――近々女神の加護が一時的になくなる可能性があるらしい」


 え。


「しかしだ、本日はこれで時間切れとなってしまった」


 爽やかな笑顔を見せ、唐突に医者が言う。


 え?


「続きは後日、キミがわたしの家に医学書を持ってきた時にしよう」


 言って、相手が部屋を出る扉の方へ歩いて行く。


 え、え?


「――ちょ、っと」


「ああ、それと。――次わたしと話をするまでに、いま言ったコトを彼女に聞くのは、マナー違反だよ、気を付けて。では――」


 ――持っていた取っ手を引き、静かに扉を閉めて医者が部屋を出て行く。


 ……ええと。――さりげなく仕事を一つ増やされた。






 そして、医者と入れ替わりで部屋に、青い布地のロングスカートにふわっとなった白色のブラウスみたいな服を着る長髪の少女が入ってくる。


「あれ、鈴木さん。どうしたんですか? というか、そのスカートはひょっとして」


「そ。旅行のお土産、騎士さまからもらったやつよ。――似合う?」


 と黒い髪をはらう様にかきあげて相手が聞いてくる。


「はい。鈴木さんの大人びた雰囲気に合ってて、一層美少女感が増しましたね」


「……そ、そう?」


 恥ずかしそうに頬を淡く染め、やや目を泳がせて聞き返す相手にハイと速答する。


「――ところで、何故ここに?」


「ん? あぁ。水内さんが話をしてる間、外でフェッタと話をしてたんだけど、うさん臭いウザ医者が出てきて話し始めたから、先に部屋に入ったの」


 またなんとも直球な、しかも定着しそうな俗称(ぞくしょう)だ。


「鈴木さん的に、クーアさんはそんな感じなんですか……?」


「そ、ね。なんでもかんでも女を優先するのは、正直疲れるわ。だって、いちいち反応しなきゃイケないじゃない?」


 なるほど。


「そういう意味でも、水内さんはバランスがイイから、助かるのよね」


「……それは、どうもです」


 あんまり深く考えた事なかったけど。――問題がないのなら、よかった。


「それはそうと、預言者様と何の話をしていたんですか?」


「ん。あぁ、なんかまた、ヤラかすみたいよ」


「ヤラかす……?」


 すると扉が開き、編んだ髪を前に垂らす白のローブを着た預言者が部屋に入ってくる。


「――お待たせいたしました」


 横に来た部屋の主が、改まった感じで、そう告げる。


 ム。


「どうか、したんですか?」


「おや、お分かりになりましたか。ええ私、このところ洋治さまに熱い視線を注がれる度、どうにかなってしまいそうで困っております」


「……――ここんとこ忙しかったので、(ほとん)ど会ってませんよね?」


 事実、つい先ほど休暇中に()まりに溜まっていた仕事を(ようや)く終えたところだ。


「おや、そうでしたか? ――と言いつつも、実はひそかに私のコトを」


「見てません」


「と言いながらも抑えきれぬ思いから、ついつい」


「見てません」


「記憶に?」


「ございません」


 ハッ。






 そして預言者がいつもの席に腰を下ろす。


「という訳で、演劇に手を染める季節がやってまいりました」


 若干言い回しに開き直っている節があるな。――あと、四季にそんな時季はない。


「……今回は、どんな行事ですか?」


「いえいえ、此度は恒例行事ではなく。私主催の企画となります」


 ム――。


「――なるほど。して、なに故に?」


「ハイ、最近(ちまた)では何となしに不穏な噂が広がりつつあり、民は大層不安がっております。するってェとそれを払拭する為に、平和という旗を掲げる国に準じて活動する我々は、舞台に立たねばなりません」


 いや、なんでっ。――と明らかに芝居がかった江戸っ子風の台詞に戸惑う。


「……その、不穏な噂と言うのは……?」


「それにつきましては今のところ、取り立てて言うほどの情報はありません」


 そうですか。――と無意識に救いを求め、隣の少女を見る。すると、任せてといった感じで前へ出た救世主が。


「さっきも言ったけど、――脚本を書くのはわたしよ。忘れてないでしょうね?」


 へ。


「はい、モチロンです。救世主様の描く台本であれば、ベストセラーは間違いなしです」


 にっこりと手を打ち合わせ、預言者が言う。


 台本がベストセラーって凄いな。――て、そうではなくて。


「いや、あの」


「――劇団名は、劇団騎士でどう?」


「おお、まさしく天メイです。直ちにその名で手続きいたします」


 自分的にはギリギリアウトです。

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