第35話〔なんだこの古典的なって速っ!〕②
「こんにちは」
村に入って数歩、案の定入り口近くに居た若い女性に声を掛けられる。
「こんにちはです」
会釈して、絵に描いたような茶色のスカートをはく村娘に、返す。
「もしかしてメェイデンからの……?」
探りを入れる感じで自分達を見、相手が口にする。
「あ、はい。メェイデンから依頼書を見て来ました」
「やっぱり。――では村長の家まで案内しますので、こちらへ」
言って、こちらの返事を待たず歩き出す相手の後を付いて行く。
しかし本当によく出来たくだりだ。まぁ見知らぬ人物が突然やって来たら目立つのは当然か。――にしても。
ヒト気のない村の様子に目を向ける。
この状況で、注目されずにいるのはムズカシイ。
暫し歩いたのち、他とそう変わらない一軒家の前で立ち止まった先導の女性につられて足を止める。次いで――。
「話を通してきます。ここに居てください」
――と言って相手が直ぐに向かう。
せっかちな人だな。
そして、玄関先で家から出てきた初老を思わせる女性と短い会話を交わし、村娘が戻ってくる。
「中に入ってお待ちください。とのコトです」
「分かりました。親切にしていただき、ありがとうございます」
「いいえ、わたしの役目ですから。――ではこれで」
で早々と村娘が来た道を戻って行く。
ふム。――A……いや、O……?
誘導された台所の見える食卓脇で待っていると、呼びに行った初老に付き添われて一段と老齢した女性が部屋に入ってくる。
「大変お待たせいたしました。私は村長の、クララと申します」
クララ……――いや、それよりも挨拶をしなくては。
「初めまして、水内洋治です」
「ミナウチヨウジ、めずらしいお名前ねぇ」
「ここ最近よく言われます」
「そう、あまり聞かないものねぇ。――さぁさぁ、ミナウチヨウジさんもお座りになって、お話をしましょ」
そう言って、初老の手を借り、ゆっくりと向かいの椅子に腰を下ろす相手を見届けたのち、先に腰掛けていた魔導少女の隣の席に座る。
「お頼みした用件のお話をする前に、一つお聞きしてもいいかしら?」
「はい。なんですか? 答えられる事なら」
「いえね、物を背負わせたまま、お話を進めてしまってもいいのかしらと」
ム――。
「これは、来る途中に」
――グイと肘部分の服を引っ張られる。
「どうかしましたか?」
呼ぶ行為と捉え、隣に顔を向けて聞く。
「それ、渡して」
「袋ごとですか? 俺は構いませんけど、おみやげって言ってませんでしたか?」
「うん。ここの人達にあげる、手みやげ」
「ぁ、なるほど。そういう事なら」
と立ち上がり。村長の傍に立っている初老に、紐付き袋を肩からおろしながら、近づく。
「あら。なにかしら?」
興味を持った感じで、こっちを見る村長。に、近づいた相手に袋を渡しつつ、顔を向け。
「中に入っているのは来る途中に捕まえた渡り鳥の肉です」
「あら。そんな希少な物をいただけるの?」
「はい。獲った本人が、そう言ってますので」
「本人? ――アナタが、捕まえたの?」
次いで本人が頷き。
「その代わり、お腹空いたから食べる物、ちょうだい」
ム。――そうか。
「あら。お昼、まだ食べてなかったのね。けれど昼食が済んだあとだから、パンくらいしか残ってないのよ」
「分かった。なら、パン、ちょうだい」
「それだと交換する物と全然そぐわないわ」
「いいよ。パン、ちょうだい」
「あらら。相当にお腹が空いているのね。それなら、すぐ用意しますからね。――ミナウチヨウジさんの分も用意して、いいのかしら?」
「ええと。……お願いできますか?」
「もちろんですよ。パンで、よろしければ」
「はい。助かります」
そして村長が傍らの相手に目を遣る。と、応える様に初老が渡した袋を持って台所へと向かい。次に何かを確認した感じで――。
「――村長、二人分ならスープも用意ができそうです」
「あらほんと」
すっと立ち上がり、台所の方を見て、村長が声を出す。
あ、立つ時は独りで――はなく、立った!
原料となる麦の旨味を味わうライ麦パンに似た噛みごたえの黒パンと嗅いだことのない芳醇な香りを放つスープを食べ終え、座ったまま、二人に礼をする。
「ごちそうさまでした。凄く、美味しかったです」
「お口に合いました? 田舎くさい味付けでしょ」
「そんなことないです。味わい深いパンはもとよりスープも、特に香りが――お酒?」
いや、それだと香りだけ強く残ってるから変だ。
「あら。よくお分かりね。村でつくっている果実酒の搾りかすを少量たらしていますの。マールってごぞんじ?」
「いえ。聞いたこともないです」
「そう、ならのちほど、小分けした物をお渡しいたしますわ」
「いや。それはさすがに、遠慮がないので……」
「いいのよ。珍しい物をいただいた御礼が質素な昼食だけだと、心苦しいもの。気にせずもらってちょうだい」
ムム。
「――質素とは思ってませんが。そういう事なら、お言葉に甘えて、ちょうだいします」
「ええ、お仕事中のジャマにならないよう、お帰りになる際にお渡しいたします。ですから必ずお帰りになる前に、お寄りください」
と、どこか嬉しげに、相手が言う。
「分かりました。それで、その仕事の話なんですけど。先ずは基本となる依頼内容を確認して、いいですか?」
「はいはい、私はいつでも結構ですよ」
「なら。ええと、依頼書には近辺に住むコボルト達が困っているから助けてほしいと書かれていました。合ってますか?」
「はい。私が出した依頼です」
「分かりました。確認できたので次は、岩の事なんですけど、分かる範囲で説明してもらえますか?」
「ええ、そうね。たしか、三日ほど前だったかしら。コボルトさん達が、畑に大きな岩が落ちてきたから動かすのを手伝ってほしいって、村に来たの。けれど男手の無い私達にはどうしようもないくらい大きな岩で。それで、お城に依頼を」
「なるほど。ちなみに、その岩はどこから、落ちて?」
「確証はないのだけれど。この前の雨で土地がゆるみ、山から落ちてきたと思いますわ」
なるほど。
「集落の近くに、山があるんですか?」
「ええ、それほど険しく大きな山ではありませんけども。村の周辺に生えた木々がジャマをして見えない程度のモノです。ただ前々から落石の起こる土壌だからと、注意はしていたのですけどねぇ」
「何故、そんな場所に畑を……?」
「あの辺は危険だけれど、土質が良いの。人の手の入っていない栄養豊富な土だから。作物を育てたくなるのよ」
ふム。
「――分かりました。ありがとうございます」
「あら。もういいの? 年寄りの話は長かったかしら」
「いえ、そういう訳では。そもそも今日は岩をどうこうしに来た訳ではなくて、どう解決するかの下見なんです。だから帰るまでにいろいろ見て回らないとイケません」
「そう、なら直接、見に行ったほうが早いわねぇ」
「はい。なので、集落の場所を教えてもらえますか?」
「もちろんですよ。けれど教えるよりも、村の案内役を付き添わせましょ」
言って、村長が目を遣る。と応えて、初老が部屋を出て行く。
「――付き添いは、さすがに迷惑では……?」
「いいのよ。年寄りばかりでシゲキのない村だから、きっと喜ぶわ。――それはそうと、ミナウチヨウジさんは何人ほど娶っているのかしら?」
娶……――。
「――結婚は、まだです」
「あら。そうなの? 案内役の娘は独身よ」
「そうですか……」
特に必要のない情報と思うのだが。
すると食事を終えた魔導少女が徐に、親指と人差し指を立て、相手を撃つ様な構えで。
「ヨウに手を出したら、痛い目を見る」
それ、捉え方によっては聞こえが悪い。
「あら。口の周りを汚したままだと格好も半減ねぇ」
――で、やや間を空け、少女が自分に顔を向ける。
はいはい、ハンカチ、ハンカチ。
【補足】
作中に出た≪マール(グラッパ)≫は、実在する蒸留酒です。m(_ _)m




