第34話〔なんだこの古典的なって速っ!〕①
女神祭が終わって半月程が経った日の朝、いつの間にか日課となった預言者の部屋での朝礼にて、本日の業務内容を聞き終える。
「要するに、その村へ行き、どう解決すればいいのか見当を付ければいいんですね?」
「仰るとおりです。いわゆる現場検証と言った感じ、でしょうか?」
なんだろう、刑事ものにでもハマっているのだろうか。
「……――犯罪が起きた訳ではないですよね?」
「勿の論です。――部下の身の安全を図るのも上司の務め、我が部署は安全第一がモットウのエリート組織、抜かりはありませんよ」
と相手が、机の上で組んだ手を顎の下に置き、それらしい座り方で声色も変えて言う。
なんとも保身的な精鋭だ。あと死語。
「――なら早速、向かいますね」
「ええ、ヨロシクお願いします。但しホリーは残るように」
「えっ? ――どうしてですか?」
隣で短髪の騎士が前後に揺れて驚き、聞き返す。
「貴方には別件で頼みたい事があるのです」
声色を戻し、預言者が言う。
「……――また便所掃除とかですか?」
「おや、お望みとあらば正当な手続きをいたしましょう」
「ひ。一人はイヤですっ」
掃除すること自体は拒否しないんだな。
「心配せずとも今回は、本来の意味合いで貴方の知恵をお借りいたします」
「え。知恵? ジブンに知恵なんてありませんよ?」
胸を張って言うコトでは。
「まァ詳細はのちほど。――という訳で、この度の件はエリアルと二人旅になります」
ふム。――旅と言う程の距離ではないが。
「自分は全く問題ないですよ」
次いで魔導少女が無言で頷く。
「それでは片道三時間程はありますので、手配した馬車乗り場へとお急ぎください」
「分かりました。――妹さん、行きましょう。――ホリーさん、極力無理はしないでくださいね。最悪、帰って来たら手伝いますんで」
「ハ、ハイ。ヨウジどのとエリアル導師も気をつけて行ってきてくださいっ」
で何処か気合の入った相手に返事をし、部屋を後にする。
***
二人が去った後、哀愁を漂わせ窓の外を見る預言者に短髪の騎士は問う。
「預言――フェッタさま、ナニをしてるのですか……?」
「ええ少々小道具が間に合わなかったもので、雰囲気だけでもと思い」
返る理解し難い答えに、ため息まじりの相づちを打ち、ホリは様子を見守る事にした。
*
――要約すると、現在馬車で向かっている村の近辺に集落を構えるコボルト族から村長が受けた助力要請に対応するという仕事。なので、依頼自体は村民が出してはいるが実際に困っているのはコボルトだといった感じの実態も依頼書には書かれている。
ふム。――岩か。
書類から目を離し、屋根の内側を見る。
大体は聞いた通りだけど。実際に見てみないと、なんとも。
「しっかし導師さまに会ったなんて言ったら、うちの女房、羨ましがりますよ」
御者台に乗っている中年男性が魔導少女の方へ顔を向けて楽しげに言う。
「なら言うな」
そして、いつもの投げ捨てる様な物言いで、徐に少女が口にする。
「いあいあ数少ない自慢話をさせてくださいよ」
なんだろう。どことなく、ホリーさんを思わせる喋り方だな。
「して、お二人さんはこんな田舎の方面にナニを?」
向かい合う自分と魔導少女の間を見るかんじで中年の御者が聞いてくる。
「――ちょっと仕事で」
「ほう、こんな田舎の方で。ときにお兄さんは導師さまのお弟子さん?」
「ええと。同僚……――」
――だろうか?
「ヨウは、ヨウ」
手に持っていた帽子を収納して、馬車の進行方向を見つつ、少女が呟く様に言う。
「ヨウ? ああ、お兄さんの名か、ヨウ」
ラッパーみたいになってるのだが。
「ときにお二人さんには関係のない話なんですけどね。じつはもうすぐ子が産まれる予定
でして――」
確かに結びつきのない話だ。
「――そんなときに導師さまとお会いできたのもナニかの縁、てな理由で産まれる子に導師さまの名をもらうってのはダメですかね?」
ム。
「……――普通に迷惑」
直球だな。
「そう言わず、半分でもイイんで」
珍しい食いさがり方だな。
「……――なら、ッ、だけ」
ッっ? というか名前に入ってないし!
「ッ、ですかぁ。――大文字にして、イイですかね?」
何故に交渉っ。
「嫌」
まさかの決裂っ。
「したら小文字のままで頂戴します」
いや、なんでっ。――などと内心で独りゴたゴたしていたところ、進路の先から対向して飛んでくる鳥の群れが視界に入る。
「おっ。アレはこの辺で有名な渡り鳥ですね」
なるほど。――ム?
徐に腰を上げ、御者の横から唐突に身を外へ乗り出す魔導少女の動向を見守る。
「ど、どうかしたんですか? 導師さ――」
――御者が声を掛けるや否や、空に手の平を向けた少女が一息で数発の弾丸を放ち、鳥を撃ち落として、群れに穴を空ける。――次いで。
「馬車を止めろ」
何故か相手を脅す様な声で魔導少女が告げる。
完全に盗賊が言う台詞だな。
拾い上げた鳥の数羽を台から降りて待っていた御者に魔導少女が無言で差し出す。
「いただけるのですか……?」
少女が頷く。
「食べて元気に、子を産め」
そして逆さ吊りにされた鳥を相手が両手で受け取る。
「いやあ、この鳥はすばしっこいから市場で見るのも稀でして、喜びますよ」
ふム。
「――残りの鳥は、どうするんですか?」
渡さなかった残りに目を向けつつ、自分が拾った分を見せ、少女に問う。
「みやげ用に処理する」
処理て……――。
「――なにか、手伝える事はありますか?」
こくりと相手が頷く。すると――。
「あの、導師さま。いただいておいて、ずうずうしいのですが……ジブンの分も、処理していただけませんか?」
――申し訳なさそうに中年御者が言う。
「分かった」
ム。――意外にあっさりと。
「その代わり、名前、ちゃんと考えて」
いい子だなぁ。
そして走り出した馬車内で作業をし始めた魔導少女の指示通りに屋根の枠組みなどを使い、鳥を吊るす。そうして頃合いを見、手際よく血抜きを行い、馬車の後方で毛を毟っては燃やす姿を後ろで、吊り下がった意識の薄い鳥達に囲まれながら、座って見守る。
しかし魔法って、便利なんだなぁ。
不必要なモノを其の場で焼却するので、全く廃棄物が出ない。先の血抜きでも、一瞬で蒸発させていた。
「あのお、導師さま。お願いしておいて、なんなんですが……商売道具なんで、燃えないようにだけ……」
前面の台に乗って馬を操る御者が不安そうな声で後方に向けて言葉を発する。
まあ、傍から見てる分には大丈夫そうだが。
「――燃えたところで、大した損害は出ない」
相手に届いたとは言い難い微妙な声量で、背中を向けたまま、少女が述べる。
いや、損害以前に死活問題なのだが。――内心で思う。と次いで、急に動いた鳥に驚く。
「いやあ、本当にありがたい」
丸鳥になった肉を受け取って自前の袋に入れた相手が、御者台に乗り、馬車を降りた自分達の方に満ち足りた様子で顔を向け、感謝の意を示す。
「こちらこそ、袋を分けて貰えて助かりました」
「いあいあ礼なんて要りませんよ。――そしたらジブンは、まだ先があるんで。迎えの時に、また」
「はい。その時もお願いします」
そして、走り始める馬車の台で手を振る中年御者が。
「ではまたーっ」
――年季の入った、いい声だ。と思う自分同様に、魔導少女も村の方を向く。
「ところで、妹さん。たぶん知らないと思うんですけど、村長さんの家がどこにあるのかをごぞんじですか?」
「知らない。……けど、だいたい向こうから話しかけてくる、から直ぐ分かる」
ですよねー。




