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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
三章【異世界から来た女騎士と愛を交わした】

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第27話〔え えらいこっちゃ〕⑧

 本戦準決勝の二試合目、予想に反して見え隠れする女騎士と危なげなく応酬し続ける黒い髪をなで上げた騎士の試合を他の観客と同様に息をのみ、観戦する。


 ――そして、ラウンド終了の銅鑼(ゴング)が鳴った。






『では一分休憩(インターバル)です』


 一ラウンド目が終わり、戻ってきた騎士が目の前のリング上で腰を下ろし足を横に崩す。


「凄い試合ですね……」


 思わず(ねぎら)いの言葉をおいて先に感想を言う。


「ぇ。――そうでしょうか?」


 不思議そうな顔で相手が口にする。


「……どういうコトですか?」


「えっと、まだお互いに様子見をしていますので、凄いコトは何もしていません」


 然様(さよう)で。


「ヨウには、凄く見えましたか?」


「まぁそうですね」


 ただし(ほとん)ど見えてないけど。


「それは、その……好い意味で?」


 ム。


「勿論です。楽しんで観てますよ」


「本当ですか? 嘘とか、気を(つか)ってはいませんか?」


「つかってませんし嘘も言ってません」


「……そう、ですか」


 わだかまりを残す表情で相手が納得を示す。


 ふム。


「実を言うと、ジャグネスさんが頑張っている姿を見る機会って日頃ないので、正直、嬉しいです。ただ怪我をしてほしくないのでムチャはしない程度に、もっと凄いのを見せてください」


 やや励ます積もりで言う。すると見る見るうちに表情を明らめて、女騎士が。


「お任せくださいっ。私、もっともっと速く動いて見せます!」


 それはそれで困る。



 ***



「どのみち決勝戦で、どっちかとやらなきゃイケないって分かったら、そりゃ棄権したくもなるわね」


 瞬間的に跳び回り攻撃をする騎士と、それに反応して防戦をする一方で隙も見て攻撃をする騎士の試合を観ていた少女が、傍観者にすらなれない展開の速さに、不平な顔で述べる。


「私にとっては、それも含めた恒例行事ですので、不満はありません」


「だったら、シッカリ観ときなさいよ。水内さんが居る以上、来年も都合(つごう)よくはイカナイからね」


「おや。――お気づきだったのですか?」


「ていうか、よっぽどの生真面目(きまじめ)かお人好しでもないかぎり、騙されるほうが悪いのよ」


「さすればどちらにも属さない、ユーリアは?」


「だいたい、なんて言ったのよ?」


「ええ私の不確かな記憶を頼りに、今年の優勝賞品は――ドキッ男だらけの楽園、二泊三日の旅ご招待! だったと思うのですが、歳のせいか記憶力も不明瞭(ふめいりょう)でして」


「……――救いようのない、バカね」


 石台を打ち壊す一撃を放った騎士に目を向け、少女は言い放つ。



 ***



 加重の力に上から接近して攻撃後は即座に離れる相手と刃を交えて守りから転じ攻めたユーリアの一撃が石で作られた床を砕き、リングに直径三十センチ程の穴を開ける。


「以前にも増して速力に(みが)きが掛かりましたね、アリエル様」


 床に刺さった剣の先は抜かず、最後の一撃を後ろへ跳んで(かわ)した相手を純然(じゅんぜん)たる気持ちでオールバックの騎士は称賛し動きが止まった事を確認する。


「――ユーリア、貴方は前回も同じことを言っていましたよ?」


「……――歳をとると、記憶に(おとろ)えが……」


「そこまで老ける歳ではありません」


「……――アリエル様、以前にお話したと思いますが、この世で最も純粋な力が何であったかを覚えていらっしゃいますか?」


「いえ、その話は初耳です」


「……――いいですか、この世で最も純粋な力、それは重さです。如何(いか)に重りを外したところで、軽くなった分と直結して速くなる訳ではありません。しかし重さは増量した分、そのまま威力となります」


「なる、ほど。勉強になります」


「……アリエル様、素直なのは結構ですが。どんな強者も、油断は禁物ですよ」


「私は油断などしていません」


「――ならば遠慮なく――」


 言ったと同時に剣先で砕けた石台を掘り返し、あえて下に避け易い角度で飛礫(つぶて)を弾き、ユーリアは跳び上がる。次いで予定通りに動いた相手へ目掛け、弾く流れで手に取った石塊の一部に魔力を込めつつ手の中で砕き、投じた。



 *



 刃の交わる瞬間に一方の姿が見える戦いから一転し、互いに足を止めて話をしていた二人が動き出した途端、よく分からない内に女騎士の居た場所を砂埃が覆い尽す。


 そして心配するよりも先に、砂が舞う煙の内側から――。



 ***



 投げ付けられた数ある石礫(せきれき)がリングに降り注ぎ、舞い上がった砂埃から上へ飛び出したアリエルとその刃が落下直後の相手へ向かって、直角に、滑空する。結果、残した石塊を加重させ落下を速めた対戦相手同様、無事に着地(せいかん)し、ラウンド終了の音を聞く事となった。



 *



 ――飛び出してきた女騎士が、目の前に降り立つ。とゴングが鳴った。






「いまの、凄いですね……」


 明らかに空中で方向転換して、――ん?


 腰を下ろした相手の、不自然な静けさに気づく。


「どうか、しましたか?」


「……――あの、ヨウにお願いがあります」


 文字通り真剣な眼差しで女騎士が言う。


 ム?



 ***



「……いまの、なに?」


 二ラウンド目の終了間際、理解し(がた)い現象を目撃した少女が、預言者の方を見て、問う。


「さすがに今のは驚きましたねェ。よもや母親と同じ(わざ)を使うとわ」


「ん? 母親って、騎士さまの?」


「ええそうです。今し方の、宙を移動する業は、アリエルの母が最も得意とした空中速歩術です。まァ本人はもっと歩くような感覚で、やっておりましたが」


「どういう理屈でやってんのよ……」


「何でも空気の層を蹴るとか何とかと言ってはおりましたが、詰まるところ特定の者だけが理解を示す戯言(たわごと)かと」


「……また大層な話ね。――ま。結局、当たらなきゃ意味ないけどね」


「さて、それはどうでしょうか。私の見解では、そこそこに意味はあったと思いますよ」


「ん。――どういうコト?」


 と聞く少女に、過去を映し出すように空を見上げて預言者が――。


「忘れもしません。アリエルに悪戯(あくぎ)をした幼少期の私をあの業で、幾度となく空高くに放り投げ、恐怖に(おとしい)れた事を。そして、それを陰で見ていた裏切り者の姿を」


 ――未だ遠くで(くす)ぶる感情を表に出さない様にこたえる。


「……――どう考えても、アンタが悪いわよ」


 少女は思うがままに述べた。



 *



 オカシナところがないか見て欲しいと言われて始まった三ラウンド目、地上で打ち合う二人の止め処ない連撃に目を凝らす。――が。


 いや、無理でしょ。


 双方の姿は見えているものの、単純に観る事すら至難の業といえるほどの遣り取りをしている最中(さなか)に正体すら分からないモノを見つけるなんて道理に合わない。


 うーん。一体ナニをそんなに気にして……――あ。そういえば、最中ってモナカとも読めるんだったかなって、そんなことはどうでもいいか。


 と、改めて悩む。

【補足】

 作中の≪重さ≫は、ユーリアさんが勝手に言ってる事です。スミマセン。m(_ _)m

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