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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
三章【異世界から来た女騎士と愛を交わした】

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第24話〔え えらいこっちゃ〕⑤

 文字通りに逃げ回る姿が目立ってきたラウンド終盤、リング上で転々と攻撃を(しの)ぎ続ける短髪の騎士が体勢を崩し座り込んだ拍子(ひょうし)に、その頭上を刃が掠める。


 そして続け様に横からきた刃を今度は、身体をねかす事で避け――。


 おお。


 ――次いで振るわれる縦の一撃を寝た状態から転がり回避する。


 おおっ、凄い。――とか思っている場合ではなく。――困った。


 この分だと(じき)に戻ってくる。しかし、こっちはなにも用意できていない。


 まさか本当に……――いや、頑張ってる相手に失礼なのでヤメておこう。


 たぶん残れてるのは、今もそうだが、知り合い故に言葉を交わしながら戦っているのが一番の原因だ。


 一体なにを話してるんだろうか。


 二人の話は観客の声や距離で(ほとん)ど聞こえず、内容は全く分からない。ただ様子から何かを話しているのは間違いない。


 と、また肝心な事から脱線してしまった。


 うーん。守る事で手一杯の相手に、どう……――。


 そもそもずぶの素人が考えたところで、たかが知れている。だからといって自ら発した役目を放棄する訳にはいかない。


 ――せめて、もう少し体育会系なら。実質中学の時に授業で柔道をしたくらいで……。


 で、なんとなく足元の砂地を見る。


 ……――よし、投げよう。


 と決まったと同時にゴングが鳴る。


『そこまで。両選手、お戻りください』






 見るからに疲労感漂う短髪の騎士が石台(リング)に腰を下ろし額を手の甲で拭う。


「大丈夫ですか……?」


「はい大丈夫です。まだいけます。それよりヨウジどの、なにか名案を?」


「名案というか。投げるって、どうですか?」


「え、試合をですか?」


「……いや、相手を」


 べつに投げても構わないが。


「持ってる剣はどうするのですか?」


「投げる瞬間か、その前に、はなすしかないですね。ウマくやれば相手も驚きますし」


「なるほど。投げたあとは?」


「運よく場外に落ちればホリーさんの勝ちです。駄目だったら棄権しましょう」


「ダ、ダメ……」


 ム。――いや、それよりも。


「時間がないので単刀直入(たんとうちょくにゅう)に聞きます。――(ともえ)投げって、知ってますか?」






『まもなく四ラウンド目、開始のゴングを鳴らします。両選手、準備をお願いします』


 知らせの直前に技の説明を聞き終えていた短髪の騎士が立ち上がる。そして――。


「ヨウジどの、ひとつ聞いてもいいですか」


 ――どこか浮かない表情で言う。


「はい、なんですか?」


「ジブンは、ヨウジどのを知らないうちに傷付けたりはしてませんか……?」


 ム。


「どうしたんですか? 急に」


「ええっと……な、なんでもありませんっ。忘れてください……」


 そう言うわりに、わだかまりがある様に見える。


 ふム。


「ホリーさん、少し(かが)んでもらえますか」


「え。――こうですか?」


 言って、相手が前屈みに腰を落とす。が台の高さ分、やや遠かった。


「すみません、もう少し低く」


「こ……こうですか?」


 そして不格好ながらも、届く位置に頭がくる――で撫でる。


「詳しい事は分かりませんが、きっとホリーさんは悪くないですよ。だから誰かに嫌われるコトより、今は目の前の試合に集中して、無事に帰ってきてください。話は、その後にでも聞けますので」


 と、手を下ろす。


 ――ム?


 事が済んでも動こうとしない相手を見て、不思議に思う。


「あの、もう普通に立ってもらっていいですよ?」


 それでも動かない騎士に、心配して手を伸ばそうとした矢先。


『……すみません、試合を始めてよろしいですか?』


 え?


 何故か申し訳なさそうな声で言う司会の言葉を聞き、試合場の方を見る。と、どういう訳か静かになっていた会場の視線が自分達の方へ集まっていた。


 え、なに。


 当然、困惑する。途端に、動き出した騎士がくるっと反転して司会の方を向き――。


「スミマセン、いつでも始めちゃってくださーい!」


 ――聞くからに調子良さそうな声を上げて告げる。


 ん?


 どこか満足気な横顔を見て、不思議に思う。






 四ラウンド目が始まり一分ほどが経過した頃、これまでになかった展開が幕を開ける。


 開始早々猛攻を受けたにもかかわらず変わった剣の使い方などでウマく対処する短髪の騎士が、はじめて攻撃と呼べる行動を起こす。結果、両方の武器を失った騎士の顔を目掛けて突き出された刃の先端は――。



 ***



 煮えたぎる感情を逆撫でするように繰り返される(かたく)なな姿勢に、打ち込むベネットの連撃が最大限に加速する。それは閃く刃の軌道を残すほどに止め()なく振るわれ、対象の反撃を許さない。


 ――なんで――。


 其処(そこ)に当然の疑問が()く。


 ――これでは本当に――。


 度重なる虚しさと含羞(がんしゅう)


 ――バカみたいだ。


 そして心の(ほころ)びが柄を握る力を緩ませ、自ら打った衝撃で片刃刀の一本を飛ばす。


「くっ……!」


 口惜(くちお)しくもらす声の後方で落下した刃が横滑りになった後、リング上で止まる。


 ――もう、いい。


 と思い。腕を下げ、相手を見ずにベネットは話す。


「……お前の、勝ちでいい」


 最大の好機すら見逃す信念を称賛する気持ちで呟かれた言葉を聞き、徹底した構えのまま様子を(うかが)っていた短い髪の騎士が予想外の申し入れに戸惑いつつ。


「でもまだ、試合は……」


「これ以上お前と戦って、最終的に勝ったとしても、私にはなんの得も無い」


「……――ジブンは、なにをすれば……?」


「お前の剣で、(これ)を壊せ。それで終わりだ」


 同時に騎士としての終わりを迎えるつもりでベネットは言う。


「わ、分かりました。ではそっとやります」


 言って、返答のない相手を気に掛けながらもゆっくりと静かにホリは剣先を胸の(まと)へ伸ばす。その行為は、攻撃とは呼べないほど優しく、けれども試合中はじめて自らの意思で行う、進撃だった。


 ――これで――。


 其処で疑問が湧く。


 ――これでは本当の――。


 度重ねた努力と失敗。


 ――バカだ。


 そして心の支えが残った柄を握る力を強め、自ら望んだ刃の一本を下から弾き飛ばす。


「わッ!」


 更に、驚きの声を出す相手の刃を叩き落としてベネットは――。


「卑怯だと思うなら好きにしろ。三十路(わたし)に振り返る余裕はないッ」


 ――引いた刃の先端を突き出す。――が()け反る様に(かわ)され、空を突き。


「なっ」


 次いで前に流れた体が、倒れる勢いで刃を持つ手首を掴まれ、大きく前方へ傾く。と突き上げる蹴りを胸部に受けた身体が宙を舞う。



 *



 ――刃の先端は、当たる事無く空を突いた後、蹴り上げられた衝撃で持ち主同様に宙を舞い、落ちてリング上を滑り――着地する。しかし所有者は、砂地までは届かず、手前で勢いを無くす。


 駄目だったか。


 そこそこ自分から近い場所で止まった相手を見、確信をもって思う。


 まあしかし、十分だ。


 ――技そのものを不十分な体勢で行った故に、蹴った位置も悪かった。もう少し下だったなら結果は変わっていたかもしれない。


 だからこそ受け入れなければイケない現実を、痛みを押さえて立ち上がる騎士の姿に見定め、短髪の騎士に顔を向けて知らせる。


『マリア・ベネット選手の、(ミシェーニ)破壊を確認しました。よって本戦一回戦の第二試合勝者は、ホリ・ホック選手となります』


 え。


 すぐさま見直す。と押さえていた手が下ろされ、割れた(もの)があらわになる。


 ……そうか、蹴った時に。


 そしてキョトンとした顔でリングに立っている短髪の騎士に客席から拍手が沸き起こる。


 次いで自分も、うんと頷き、手を叩く。

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