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【完結】異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした  作者: プロト・シン
一章【異世界から来た女騎士と交際する約束を交わした】
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第10話〔じゃ いっかい向こうへ戻るわよ〕③

「――なにと、いまなにと(おっしゃ)りましたかッ預言者様っ」


「やはりこの台詞はよいですね。いずれ、何かの成句(せいく)といたしましょう」


 責め立てる勢いで立ち上がり顔を寄せる相手に、動じる事無く預言者が言う。


「いッいくら預言者様とはいえ初対面のっ。いえッそれ以前に私のっ」


「私の?」


「わわ、わ私の、おきゃお客人に対して、でっですねっ。と突然斬るなど、という」


「しかし今のは貴方が言った台詞なのですけどね。しかも、第一声に」


「へ?」


「貴方は幼い頃から予期せぬ出来事に動じ(やす)いですよ。騎士としては致命的です。預言者としてではなく。友として、忠告をしておきましょう。お気を付けなさい」


 そういえば――。


「――あの時は、その台詞と一緒に剣も突き付けられました」


「なんと」


「なっなな、な、なにを言うのですかっ。わた私は知りませんッそんなっ」


「え、覚えてないんですか?」


 自分の問いに、うろたえながら静かになって、女騎士が黙る。


 これは間違いなく、覚えてるな。


「まァ今となっては過ぎた話。冗談はこれくらいで、よしとしましょう」


「うぅ」


 立った時の勢いとは反対に、力なく自らの席へ戻る女騎士。


「さて。お(たわむ)れはこの辺にして、本題に――の前に、差し当たって何か、質問でもあれば?」


 預言者がソファに沈ませていた体を起こし、こっちを見て、聞いてくる。


「それなら――」


「ありますか」


「――ジャグネスさんと初めて会った時から、どうして言葉が分かるのか、会話が成立するのかをずっと疑問に思ってます。それに加えてさっきまで居た牢の見張りをしていた人の言葉、最初は分からなかったのに、牢を出た後はハッキリと意味まで理解できるようになっていました。あとは意外に知ってる単語を耳にする事が多いなと」


「なるほど、よい着眼点です。それについては直ぐにお答えいたしましょう。かいつまんで言えば、洋治さまにお渡しした指輪の力です」


「え。これ、ですか?」


 牢を出る前に右手の人差し指につけた指輪を相手に提示(ていじ)する。


厳密(げんみつ)には、その指輪についている石の力です」


 言われて見てみると、指輪の表面には小さな石が計四つ等間隔で装飾されていた。


「その石は異世界へ転移する装置にも使われている特別な物です。石は周囲の想いを吸収し、増幅して同種の生命体に特殊な波を送ります」


 言葉の意味は分かるが、全く理解できない。


「ふふ。もう少し簡単に説明しましょう。石は一種の翻訳機(ほんやくき)、洋治さまが発した言葉を相手の分かる言葉に、石が変えてくれるのです。逆もまた(しか)り、相手が発した言葉を洋治さまの分かる言葉に変えます」


「石が喋るってことですか?」


「じつに面白い考え方ですね。しかし残念ながら違います」


「うーん。なら便利な石ってコトで」


「そうですね。ただ欠点もあります。石は言葉を発する際に生じる想いを吸収します。なので本人もよく分かってない事や、他の何かで例え様のない物は伝わらなかったり、意味すら分からなかったりします。場合によっては、ぼんやりとだけ伝わったりもしますが」


 ム。


「その石って、ジャグネスさんも持ってますか?」


「ええ勿論です。異世界を訪問する上で言葉が分からないというのは不便ですからね。というより、その為に作った物です。よってアリエルにも同じ指輪を渡しております。――おや、これはお揃いというやつでしょうか、お熱いですねェ」


「よ預言者様っ、何をッ」


 さっきから、預言者様っ、みたいなことしか言ってないな。――まぁそれはそれとして、今の説明で一つ謎が解けた。


 それは銃の話をした時、なんとなく飛び道具だと答えた事。


 たぶん同じ物がこっちの世界にはないから、ぼんやりと相手に伝わったんだ。


「言葉の想いなんて、考えたこともなかったです」


「人は何かを伝えたくて声を発します。けれど本当に伝えたい事は言葉の裏側に隠れてしまうのです。この石は、そんな想いを拾う役割も(にな)っております」


「素敵な石ですね」


「おや。洋治さまは意外に空想家で」


 何故そうなる。


「――では疑問がなくなったところで、本題に」


 と言った矢先に部屋の扉がノックされ――。


「どうぞ」


 ――静かに扉を開けて女兵士が入ってくる。


「預言者様、茶の用意が整いました」


「私、頼みました?」


 エエって顔をする女兵士。


「冗談です。ちゃんと覚えてますよ、本気にしましたか?」


 まぁ可愛いけど。


「しかしせっかく用意をしていただいたのですが、直に夕食という事で。申し訳ないのですが夕食後にまた、お願いをできますか?」


「はっ。そのように」


 そして女兵士が部屋を出て行こうとして――。


「ちょっとお待ちを」


 ――呼び止められる。


「は、はい?」


「申し訳ついでに、この方を救世主様の居るお部屋まで、お連れしてください」


「えっ――」


 それって鈴木さんの。


「――救世主様のところへお連れして、宜しいのですか?」


「この方は救世主様の知人です。それに直ぐアリエルを向かわせます」


「分かりました。ではご案内いたしますので、こちらへ」


「――ええと、本題は……?」


「それなのですが。私、今日は少々くたびれてしまって。ただアリエルには伝えておきます」


「なるほど。そういう事なら、気にせずにゆっくりしてください」


「おや、お優しい」


 大体そう言うと思うけど。


「あの人に付いて行けばいいですか?」


「はい、お願いします」


「分かりました」


 座り心地の良かったソファから立ち上がる。


「ええと。預言者様、いろいろと、ありがとうございました」


 こんな感じでいいのかな。


「ふふ。気軽に、フェッタと呼び捨てにしてくださってもよいのですよ」


「それはさすがに」


「まァよいでしょう。いずれ嫌でも、そう呼ばせる関係になってみせましょう」


「よ預言者様っ」


 ジャグネスさん……。

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