第1話〔貴方は あのその斬られたい ですか?〕①“タイトル:ロゴ”
【補足】
各話は短めです。※一章:序盤は特に短いです。
基本は一人称です。※描写は少なめ、台詞は多めです。
予め、ご了承ください。m(_ _)m
人は目の前で起きている出来事をどれだけ許容できるのか。
思いがけぬ幸福、予期せぬ不幸。
そんな、非常な事を。
*
季節が移りゆく秋の終わり。本格的な冬の訪れを前に、衣替えをする独り身の休日。
――突然、これまで培ってきた常識が一変する。
それはタンスの引き出しに手を伸ばし、中の冬物と周辺に並べた夏物を交換するつもりで引いた時だった。
本来なら、冬服がある場所で広がる謎の空間。それは見た事の無い色のグラデーションに彩られてうねる摩訶不思議なコントラストが織り成す光景。
一瞬、吐き気をもよおす。
しかし次の瞬間には異空間に現れた人の頭頂が――視界を覆った。
結果、水中から飛び出してくる様に突如として現れた頭頂部を下顎で受けた体が後方へと打っ飛ぶ。
急な展開で訳が分からない上に痛みと衝撃で視界は定まらず。なんとか立て直しを試みる中、真っ先に機能を取り戻した器官が、その音を拾った。
恐怖に勝る感情が、音のした方向へ、ゆっくりと焦点を合わせる。
そして鮮明とはいえない視界に、理想と想像が合致する刃が。しかもあろうことか切っ先が自分に向けられ、突き出されていた。
――訳が分からないのを通り越し、余計に訳が分からなくなる。
そんな情況で冷静な判断など出来るはずもなく。ただ只管に向けられている切っ先を見。
――漸く、当たり前の事に気づく。
揺れる刃の先を逆に辿れば誰かが其処に居るという事に。その誰かが、今、自分を見下ろしているという事に。
そんな当たり前の事に気づき、顔を上げた。
で見事に相手と目が合う。
――綺麗な眼だった。透き通っているとか、輝いているとか、そういう類いのものではなく。単純に、美しい、力強い眼。
そこから見詰め合う時間が――。
相手が金の髪を揺らし、何度も、物言いたげに唇を動かす。
――流れて、やっと気づく。何故もっと早くに気づかなかったのかと思える程の特徴に。
それは比喩などではなく、目の前に居る女性の恰好――が騎士。
取り分け西洋に登場するモノが近い。ただそれらと比較して、多少軽装ではあるものの剣を持ち鎧らしき物を着用しているあたり他に思い当たる学もない。
しかし見た目が騎士と分かっても変わらずに見詰め続ける事しかできなかった。
――これから、どういう事が起きるのか、を考えもせずに。
仰向けに体を起こす途中で相手を見ていた自分に突き付けられていた剣の先が、ゆっくりと持ち主の方へ引き寄せられ――ピタリと止まる。そしてその位置から、より鋭くこちらの命を狙う。
――それでも女騎士の眼を見続ける。
いつの間にか、その眼から目を逸らす事が出来なくなっていた。
――そして次の瞬間には、心も。
切っ掛けは――。
「貴方は、ぁ――私は……て、敵なら斬り捨てって……――そ、そうではなくって……下手に動く、と……――も、も、どう、もう、ど、どう、どうし、よ、う……ど――ぁ、あの、貴方は、あのその斬られたい、ですか?」
――思わず。なんて、と聞き返した相手の、いや女騎士の、慌てふためく姿だった。