悲劇と奇跡(3)
地道に進めていきます。温かい目でお願いします。
魔法、それは多くの人が望む奇跡を起こす技術。
しかし、そんなものは想像の産物だと思われていた。
「魔法?そんなものが本当にあるのか?」
和樹は疑いを隠さずに聞く。
しかし、自称神様は当たり前のように答える。
「えぇ、もちろんあるわよ。というか、あなた達、さっき無意識に使っていたし。」
「……使っていた?」
『カズ、いつから魔法使いになったの?』
もちろん二人とも身に覚えはない。
「そうね、まずは魔法というものを説明していきましょうか。この世の中の全てのものは想像することを知っている。それは動物や植物、道具だってそうなの。」
それは道具も意志を持つということだろうか。
「あなた達のいるこの世界にもその発想はあるわよね?確か、付喪神だっけ?」
確かにあれは、大事に使った道具に自我が生まれるという考えである。
「想像というのはそれ自体小さな力なの。一人の想像では小さすぎる力だけど、たくさんの想像を集めて、世界の見方を変えることで影響を及ぼし発生する現象が、魔法、と呼ばれるのよ。」
世界の見方を変える、なんてことを言われてもピンと来ない和樹と美香。
「魔法を発動するまでには過程には大きく分けて三つあって、」
言いながら神様は数えるように、折り曲げた指を一つずつ起こしていく。
「一つ目、どんなことを起こすのか、その範囲や威力を想像する。二つ目、その想像が実際に起こっている様子を自分の見ている世界に反映する。三つ目、その反映した世界を他者と共有する。これが魔法発動のプロセス。」
「うん、さっぱり分からん。」
『私も理解できないなぁ』
魔法の想像まではわかるが、その後の説明はややこしい。そもそも自分の想像を共有するとか、どうやるのかさっぱりである。
「とりあえず、今の説明を覚えていてね。それで、次に世界の見方について。」
そう言って、説明を続ける自称神様。
「世界を見るときには、その物があるからこそ、あなた達はあることを認識する。ならば、逆もあるんじゃないか、という考えが魔法の原点となるの。」
『逆……あることを認識すれば、そこに物があることになる?』
美香の答えに神様は満足そうに頷く。
「今そこにいる世界は一つしかない。けれども、その世界にいる者の数だけ世界の見方があるのは、なんとなく理解できる?」
「それは、まぁ……」
『カズ、分かるの?私、分かんないや』
「ようは、人によって感じ方が違うとかじゃないのか?」
例えばリンゴがあったとしよう。
その色をみんなは、赤い、と表現するが、どれくらい赤いの?という質問には人それぞれ別の答えを持っているようなこと。
もしくは、青いと感じる者もいるかもしれない。
「そうそう。で、さっきの説明に戻るんだけど、一人の想像で世界に及ぼす影響は少ないの。でも、そこにいるバラバラの見方を揃えて見れば、世界に影響させられる大きな力となる。これが魔法と呼ばれるものなのよ。」
つまり、自分に都合の良い世界の見方を相手に強制させることで、その見方を増やし世界の認識を固める。そして、世界もそれに合わせようとすることを利用するのだ。
「うーん、分かるような分からないような……」
「さっき、あなた達も何か同じことを想像して、世界に影響を及ぼそうとしていたのよ。それを感じて私は来てみたの。」
先ほど、美香の事故のとき、二人は和樹が美香を治す、という想像をした。そして美香を助けたいという強い執念が世界に影響を及ぼそうとしたようだ。
「でも、何も起きなかったぞ?」
「それは、治したいと思っても、どこかで何も起きないと思っていなかった?魔法というのは自分に疑問を持っちゃいけないの。なにせ、他のものに世界の見方を強制しなければならないから、起こって当たり前という考えが必要なのよ。」
「ふーん」
『でも、そんなことなら、どこかで魔法が発見されてもおかしくないんじゃない?』
美香の質問に、魔法が見つかったなんて聞いたことないな、と思う和樹。
「魔法が普及している世界では、当たり前のことなの。でも、この地球を舞台とした世界は魔法をまったく信じていないようだから……さっきも言ったように、起きて当たり前という考えを持っている必要があるの」
それに、見つかってもすぐに拉致っていたし。と小さく呟いたのを二人は聞き逃さなかった。
「は?拉致?」
『───逃げたほうがいいんじゃない?』
「わぁぁ!待って待って!えっとこの世界に魔法なんてニュースが流れたら、パニックになるから、魔法を発動した者は魔法のある世界に転生してもらっているの!もちろん同意の上で!」
かなりヤバい話を聞いた気もするが、同意なら、まあ、いいのかな?と思う二人だった。
微妙に難しくなってしまった気がします。言葉に表すのって大変ですね。