悲劇と奇跡(2)
『彼女を助けてあげようか?』
声はそう言った。
頭に響いて来る感じだ。だが、どこから聞こえてくるとか、そんなものは関係ない。それは和樹にとって、救いの声だった。
「頼む!助けてくれ!」
『あ~、ちょっと待ってね』
突然、世界が止まる。周りの喧騒も、時間も、もちろん美香から流れ出る血も。
「ふぅ、これでよし」
今度は和樹の後ろから聞こえてきた。
時間が止まり、常識から離れた現象に呆然とするが、声のしたほうに振り返ると、女性がこちらに歩いて来る。
「この世界は、と……あれ?魔法を感知したのに、魔法なんて誰も信じていない世界?」
何もない空間を見ていた女性は困惑気味のようである。しかし、今の和樹にそのことを気にしている余裕はない。
「助けてくれるのは、あんたなのか?」
「ん?そうだよ、だって私は神様だもん」
「……は?」
流石に色々なことが起こり過ぎているために、状況把握が間に合わない。重要なこと、助けてくれる事だけ理解する。
「じゃあ、頼む!」
「その代わり、お願いが───」
「何でもするから、早く!」
急かす姿に自称神様はクスッと笑い、そして指を鳴らす。
すると、美香の身体が光り出し、輪郭が崩れて、拳大の球になっていく。
「お、おい。大丈夫なのか?」
流石に不安になったが、自称神様はその球を掴んで、和樹に向かって投げた。それはもう、立派なフォームで。
「フンッ!」
ビュッ
ゴンッ
「痛っ!」『痛っ!』
そこそこの速度で投げられ、和樹の額に当たり、砕ける球。それと同時に二人の悲鳴が聞こえた。
それは叫んだ一人である和樹にもきちんと聞こえ、慌てて周囲を見る。
そこの神様がよくわからないドヤ顔しているが、無視である。美香の声だったからだ。
「どこだ?美香姉!」
『ここだよ』
「どこだよ!?」
『カズの頭の中』
「は?」
またしても理解出来ない現象だった。しかし、美香の声が聞こえるのも事実。
和樹には、まったく分からないので、自称神様に説明を求めることにする。
「これはどういうことだ?」
「うーんと、ね───」
美香の身体は損傷が激しいため、助ける方法は二つだった。それは彼女を治すか、意識だけどこかに移動するか。
そこで、自称神様の都合で意識を移す方法をとったらしい。
「都合って?」
「それは、さっき言ったお願いのことだよ」
先程の奇跡を起こす前、何か言っていたが和樹に聞いている余裕はなかった。なので、具体的なことをまったく知らない。
『えぇ!?適当に答えたの!?』
「美香姉が助かるって聞いて、悠長にしてられないって」
あの場で断ることは無理なので、実質脅迫だったが、美香のためならどんなことでもする気だった。
「それで、お願いって?」
和樹の疑問に自称神様は答える。
「二人には魔法の世界に転生してもらいます!」
「……ん?」『……へ?』
本日に何度目かの理解出来ない発言であった。
まさか、最初にして上手く着地出来るか不安になるとは……。見切り発車って怖いですね。