悲劇と奇跡(1)
何回かに分けて世界観の説明を頑張っていきます
それは少し寒くなってきた秋のこと。
授業が終わり、家に帰る途中に姉である美香と出会い、一緒に歩いていたときにそれは起きた。
他愛もない話をしながら、和樹の少し後ろを歩く美香は、ふと嫌な予感を感じて自分の後方を見た。
「でさ、美香姉。やっぱり思うんだけど───」
「カズ、危ないっ!」
ドンッ!
後ろを振り向いた美香が突然和樹を押し飛ばす。
「へっ?」
それはとても強く、和樹が前に押し出される。
「何すん───」
振り向きながら、押されたことに文句を言おうとする。
しかし、和樹が見たのは、目の前の姉に迫るトラック、そして微笑む彼女の顔だった。
キキィィィィイ───ズドンッ!
人と車の衝突音なんて初めて聞いたな、なんて場違いなことを思った和樹。
美香は迫り来るトラックに何も出来ず、撥ねられ、少し離れたところに転がった。
「……美香姉?」
ふらふらと、おぼつかない足取りで美香に近づいていく。彼の言葉に、彼女からの返事は、ない。
美香の周りには、明らかに危険な量の血が流れている。
「……ははっ、冗談だろ?」
夢のように感じて美香の手を取ると、冷たくなり始めている。
それが現実であることを証明しているようで、和樹の世界は色を失っていくようだった。
周囲では、救急車を、怪我人が、と人が集まってきているが、そんな人達は彼の意識には入ってこない。美香以外の全てのものがシャットアウトされていく。
「起きてくれよ……っ」
自分では何も出来ないことに苛立つ。姉を救う方法が欲しい、その気持ちで一杯だった。
そして、彼がふと想像したのは、ゲームでよくいる魔法使い。手を翳して呪文を唱えれば、奇跡を起こす存在になりたいと思った。
「……」
彼は何も言わず、彼女に手を翳す。それがどんなに荒唐無稽でも、すがりつきたかった。そうしないと、自分も壊れてしまうから。そして、静かに想像する。自分の家族といつも通りの日常に戻ることを願って。
美香は撥ねられてからも、和樹を薄らと見ていた。まだ彼女の意識は残っていたが、身体は動かず声も出ない。そして、美香も和樹しか見ていない。
(カズ、泣くなよ)
そう言いたい。手を伸ばして、頭を撫でてあげたい。そう考えても、実行に移せない自分が歯痒かった。
その時、和樹は美香に手を翳す。
(カズ?)
最初、和樹がどんなことを考えているか分からなかった。それでも、なんとなく彼の考えていることが、なぜだが少しづつ分かってくる。
(……)
美香は内心笑ってしまったが、嬉しかった。和樹は美香のために必死になっている、そのことに愛情を感じる。無理とわかっていても、奇跡が起きたりしないかな、なんて思った。
それが偶然にも、和樹が美香を救うという想像を二人がして、世界の見方が一致した瞬間であり、これからの運命を変えた瞬間であった。
二人に声がかかる。
何故か他のことはシャットアウトしていた二人の耳に入ったのは、綺麗な声だった。
『彼女を助けてあげようか?』
小説を書く難しさを実感しております。何とか時間を見つけていきたいです。