夢と妄想で生きる(1)
いつもお付き合いいただき、ありがとうございます。
「和樹、やってくれたわね~」
「え?何やらかした?」
クロトはニヤニヤしながら言ってくる。
和樹と美香が魔法を使ったあたりから、周りにいた人達が静かになったのは分かっていた。しかし、和樹には何に驚いているのかまでは分からなかった。
「もしかして、倒せちゃったことか?」
『なんか、やれるって思ったらできたね……』
「まあ、、それもあるんだけど───」
「あなたは何者!?」
そのとき、周りより早く立ち直ったアリスが和樹に詰め寄ってきた。
「何者って、アリスさんと同じような境遇だと思いますが……」
「違う!そうじゃなくて、なんでさっきのようなことが出来るのかってことっ!」
テレポート、自分より大きな物体を蹴り上げたり足払い、極め付けは切断。
自分の見ている世界を反映することを魔法とする以上、それをイメージできないといけない。
そして、人間一人では大した影響力はないから、複数人で同じ世界を反映する。
「なのに、あなたはそれをやり遂げた。しかも、一人で。それで驚くなってほうが難しいわよ!」
『カズ、なんかやりすぎたっぽいね。』
「ぽいではなく、そうらしいが……クロト、どうしよう?」
問い詰められて、しかし自分ではどうしたらいいのか分からない和樹は、助けを求めることにする。
「重度の中二病」
「それで通じるかな?」
「大丈夫、アリスもそうだから」
「へ?」
和樹が振り返ると同時に、アリスは踵を返し、走り出す。それはもう、詰め寄っていたのが嘘のように潔く。しかし、クロトはアリスの肩を掴み、離さない。負けじと暴れるが、まったく逃げ出せないようだ。
「ちょっ、クロト様、それはもう、失ったことです!」
「アリスもあなたと同じく私が連れてきたんだけど、同じところからよ?」
「うぅ……鈴木文美、この世界では、アリスでお願い。」
「同じ……日本!?」
なんでも、あるとき友人の考えていることに予想が付き、それを想像したら偶然世界の見方が一致し魔法が発現。魔法という存在に気づき、その有能性を広めようとしたものの、怪しい宗教とされて、むしろ社会から弾かれてしまったという。
そこをクロトが魔法が当たり前のこの世界に連れてきて、名前もアリスと名乗ることにしたらしい。
そして、他人の世界を見れることと、テレパシーという魔法を覚えて、学院長の座まで登ったということである。
「本当、クロト様には助けていただいて、感謝しています。……ただ、改めて他人に自分の本名を言うのも恥ずかしいので、言わないでほしいです。」
「で、そのときにもこんな感じでアリスに質問があって、毎日現実を見ずに、夢と妄想で生きてきました、って説明したら、みんな納得してくれたから。」
「あの皆さんの優しい目が、忘れられません……」
一応前例があるということなので、重度な中二病を採用することにした。
そして、後に和樹と美香は、こう語る。
人の視線は温かかった、と。
読んでいただき、ありがとうございました。
自分も夢見て生きております。ただ、現実も無視できませんが……