第九話「パニック」
数時間前
南無阿弥陀仏…
チーン…
お線香の匂いと菊の花
「お母さん足が痛いよ~」
「しーっ!黙ってなさい!」
黒い髪を後ろで束ね、喪服に身を包んだ女性が子供に言う
「ちぇっ!」
子供は急に立ち上がり、痺れた足のまま外へ出た
「優斗!まったく…」
「まぁまぁ美智子さんや、まだあの子も子供、多めに見てあげてくださいな」
喪服の老婆が声をかける
「でも!お母さん!……ごめんなさい、お父さんのお葬式で…」
「いいのよ、あの人もきっと許してくれる」
遺影を見て老婆が微笑み話す
ガタン
「つまんない!」
扉を閉めると、優斗は頬を膨らます
「坊やどうしたの?」
若い係の女が声をかける
「もぅ何時間も座ってるから疲れたの!」
「そっかぁ、じゃぁちょっとジュース飲んで休憩しよ?」
優斗の前で女はしゃがみ込み笑顔で訪ねる
「うん!」
パイプ椅子に座り、冷えたアップルジュースを飲む
「美味しい?」
「うん!ありがとうお姉さん!」
「お母さん心配してるんじゃない?」
女は優斗に目線を合わせ話す
「いいもん!お母さんはいつも、あれダメ、これダメって…、僕のことなんてどうでもいいんだ…」
優斗は下を向き、カラになった紙コップを軽く潰す
「坊や、ほら見て!」
式場から、人がぞろぞろと出てくる
母親の美智子も棺とともに出てきた
「ほら終わったみたいだよ」
優斗の背中をポンっと押す
優斗は母親に近づくと、何も言わずについて行く
棺が霊柩車の中入ると
母親が口を開く
「優斗、おじいちゃんとの最後のお別れなんだからわかってるね?」
「うん…」
優斗は母親に連れられバスに乗る
「え~、これから火葬場へ安全運転で向かいさせていただきます。バスは急ブレーキする可能性がありますのでシートベルトの着用をお願いします」
バスを若い係の女がお辞儀をして見送った
「…はぁ、子供の相手も大変、さぁ、宿泊者のお部屋の準備しなきゃ」
女は宿泊者用の部屋に行くとスマホをいじる
「おい、いいのか?仕事中だぞ」
係の男が宿泊者用の布団を運びながら注意する
「ちょっとくらい、いいでしょ〜」
ガタン…、キャー…
「…なんか外が騒がしいな」
「ちょっと見てきてよ〜」
「俺が?仕方ないなぁ」
ドアを開け、玄関を見に行く
「たくっ…あの女、あとでチクってやる…」
「……………えっ⁉︎」
男は急いで女のもとに戻り扉を閉める
「おっ!おい!なんか、大変なことになってるぞ!なんか気持ち悪いやつが……!」
ズシャッ!!
男の右腕が宙を舞う
「あぁっ…!ぐぅあ!」
「はぁ…!はぁあ!」
男の瞳に頭部のない女の死体が映った
「たっ、たすけっ…ぐへぇ!」
エイリアンは男を串刺しにし、身体を切り刻む…
ブーン…
バスの中、優斗は外を眺める
走る人が数名見えた
「ねぇ、お母さん」
「ねぇ!お母さんってば!」
「静かにしなさい!」
優斗はムッとなりながら母を見る
「なんか、おかしくないか…?」
バスの中、誰かが外を見て言う
「おい!あれ見ろ!!」
「ばっ化け物だ!!」
「おっ!おい!人が襲われてるぞ!」
バスの中がどよめく
外を見ていた優斗は声を出す
「お母さん!あれエイリアンだよ!ゲームのエイリアンとそっくりなんだ!」
「優斗!見ちゃだめ!こっち来なさい!」
美智子は外を見ていた優斗を引き寄せ抱きしめる
「バス!止まるな!そのまま遠くに行くんだ!」
優斗の叔父がバスの運転手に言う
「誰か!携帯持ってる人いないか⁉︎警察に電話する!」
叔父は大声でバス内の全員に聞く
「式だから置いてきてしまったよ…」
「私も…」
「式中は持ち込み禁止だったろ…」
「くそ…」
「…あっあの、私持ってるわよ」
女性が一人、手を上げる
「本当か⁉︎美智子さん!良くやった!貸してくれ!」
「ナナから連絡がきたらと思ってね」
美智子はそう言うと携帯を出し、カパッっと画面を開く
「今、電源を入れるわ」
…
画面がひかりだす
『電源ON』
「よし!さっそくでんわっーーー」
ガタンっ!!!!
「うぁー!!」
バスが急に大きく揺れる
「キャーーー!!」
悲鳴の先にはバスにへばりついたエイリアンがいた
「キャーーっ!ぅぐっっ!!!」
数名エイリアンの触手に引っ張られ外へ投げ出される
「あっ危ない!掴まれ!!!」
「優斗!!!!」
美智子はとっさに優斗を抱きかかえる
バスはスピードを出しながら
そのまま傾き横転
ガーーーっ!…ドンッッ!!!
…
……
ーーーーーー
「………
おっ…お母さん…??」
優斗が目を覚ますと遠くにエイリアンが見えた…
*つづく*