種
この世に存在するものは、未来へと繋げる手段を持っている。
それは植物にも、動物にも、そして技術や形には見えなくとも、概念や思想も、未来に繋がるための、繋げるための手段を持っているはずだ。
それでも、急な変化に追いつけずに絶滅していく種も少なくはない。今現在においても、刻一刻と終わりの時を迎えようとしているものもあるだろう。
もし、
もしも、身近に存在する何かが、未来へと繋ぐことができないと分かったら、君はどうするのだろうか。
「シキさん、これは何ですか?」
「おや、随分と懐かしいモノを出してきたね、リオ」
埃を被った、片手のひらにのってしまう程の小さな箱。蓋が開かないように麻紐で頑丈にくくられている。
シキはリオからその箱を受け取ると、ふうと息を吹きかけて埃を払った。随分長い間放っておいたのだろう、それだけで埃の下から細かく掘られた模様が浮かび出る。
「何が入っているのですか?」
「何だと思う?」
いたずらっ子のようにクルリと茶色の瞳を動かして、質問に質問で返した。
「箱…ですけど、小さすぎて…」
何が入っているか分かりません。そう言って、無表情で首を横に振る。
シキは静かな微笑みを浮かべながら、その紐を解いていった。無表情ではあるものの、リオも中身が気になるようで、ソファーの後ろから身を乗り出している。視線だけは、箱へと釘付けだ。
蓋が開いた。
「袋…?」
箱の中には麻布で作られた小さな巾着袋が入っていた。何の変哲もない、ただの袋だ。
そんなリオの心情を察したのか、シキは楽しそうに声に出して笑った。
「本当の『預り物』はこの中だよ」
シキは袋をひっくり返して、中身を手のひらに広げた。
形の不揃いな、十ばかりの焦げ茶の小さな塊が転がった。
「粒…ですね」
リオが呟いた。
シキはそうだね、と答えると、反対の指で粒の一つを突いた。
「これは『種』だよ。この小さな粒から小さな緑の芽が出て、太陽の光を浴びて、水を得て、土から栄養を吸って、そうしてリオの背丈なんか越えてしまうくらい大きくなるんだ」
そう語るシキの瞳には、ここではないどこかの、かつて彼が見てきたのであろう景色が広がっているのだろう。
「もう、これだけしか残っていないのですね」
リオがシキの手のひらを見ながら悲しそうに呟いた。
「そうだね…。これを預る前は、どこにでも見ることができたのに、もうどこにもないからね。もしかしたら、かつてあったことすら、人間は忘れているのかもしれない」
「これを預けた人は、どんな思いだったのでしょう」
「さあね。でも、その人には未来が分かっていたのかもしれない。だから、少しでも未来に繋ぐ可能性があるのならと、この店に預けたんだ」
「未来…ですか?」
リオの言葉にかぶりをふって大きく頷くと、軽く瞳を伏せた。その視線の先には、小さな焦げ茶の種がある。
「そう…緑がなくなって、茶色と灰色しか残らない未来…とかね」
シキは大切な物を扱うように、小さな粒を元通りに箱に戻した。
「その植物が、もう一度空を拝む未来は来るのでしょうか?」
リオの問いかけに、シキは微笑みながら答えた。
「それは…人間次第さ」
麻紐が固く結ばれた。
ここは「預り屋」。
預けたいものなら何でも預ります。それが形あるものでも、無いものでも、何でも。
ここにあるものは、そのものの時を刻まない。
同じ姿で、進まぬ時の中に存在する。
それは「物」であっても、そして、
「者」であっても、変わることはないのだ。




