MORTAL・HEROS・ONLINE
気分転換に今流行の『なんちゃらオンライン』でSSを書いてみました。
「……君の名前を教えてくれるか?」
美貌の女騎士が澄み渡った声で問う。
その錦糸のように細く滑らかな髪が触れるような距離で、彼が答えた。
「『クロト』……だ」
「クロト? それだけかい?
家や、住んでる村の名前が付いたりはしないのか?」
「村?」
「ああ、ブランフォード村……というのが、私の故郷だ」
エミリア・ブランフォードというのが、彼女の名前だった。
レオナルド・ダ・ヴィンチは、「ヴィンチ村のレオナルド」という意味らしい。だから専門家は、彼のことを「ダヴィンチ」とは呼ばない。そんな雑学は今となっては特に意味はないが、『彼女がいた世界』ではそれが普通だったのかもしれない。
「ないよ。新しいゲームを始める時、主人公の名前は必ずそう付けることにしている。だから今は、ただの『クロト』さ」
「げーむ……とは何だい?」
「ロールプレイングゲーム…物語に沿って、役割を演じる遊び、かな?」
「つまり、お芝居ってこと?」
「ある意味そうだけど、違う。一番違うのはその物語には観客がいないってことだ」
「話してくれ」とせがむエミリアに答えて、クロトが口を開く。まるで、親しい友人に話しかけるように。
彼女ほどの美人に、クロトは会ったことはない。
周囲を描写するには及ばなかった。エミリア以外のすべてが色あせて見えた。
「芝居はお客に観てもらって完成するだろ?
お客さんを楽しませて、おひねりをもらう。それが役者って仕事だ。
けど、RPGは、ああいう生産的な活動じゃない。
だから『ゲーム』……それだけの遊びなんだ。
考えて行動するのは主人公だけで、他の登場人物はシナリオ通りの言動しかしないんだから……」
普段は無口で内向的なクロトだが、追い詰められると饒舌になる性質らしい。
そんなクロトを楽しげに眺めながら、エミリアは尋ねた。
「よくわからないが、何が楽しいんだい?」
「そうだな。物語の主人公……一般的には、『勇者』かな?
彼に自分の好きな名前をつけて、それになりきるんだ。仲間と一緒に旅をして、謎解きをしたり、戦術を駆使し強敵を倒したり、恋をしたり……
そうした勇者に感情移入することで、自分が冒険をした気分になる。
剣や魔法で凶暴な魔物を倒して、人々を助けて英雄になる。
どこかの誰かが作ったシナリオ通りにね。小さい子がやる『ごっこ遊び』に近いかもしれない」
「そうか……」
彼女の頭上で赤いゲージが点滅し、とうとう消滅した。
それと同時に、ピキリ…という音がする。
その小さなひび割れの音は、壁のない世界に長く長く共鳴する。
目の前の女騎士の鎧には、小さな亀裂が走っていた。亀裂は徐々に大きく、枝分かれしていき、やがて鎧ばかりではなく、彼女自身もひび割れていく。
「主人公が旅に出ると、物語が進む。
仲間を集めたり、人助けをしていくことで、主人公が成長していく。
そして、強大な敵がでてくる。
強敵を斃せば、ストーリーが先に進む。
新しい仲間が加わったり、魔法や技を覚えたり、どんどん強くなって、そしたら今より強い敵に挑むんだ」
「楽しそうだな」
「ああ」
そして、『彼女』の崩壊が始まった。
「……仲間と、冒険かぁ……私もやってみたかったなぁ」
女騎士は名残惜しそうにそうつぶやいた。
その悲しげな顔を見た時、クロトはこんな話を彼女に聞かせたことを後悔した。
(いまさら好奇心を擽って何になる)
白く細かい砂となって崩れ落ちる指と掌を見ながら、エミリアは告白する。
「私は自分の手を血で汚しただけだった。
国のため、名誉のため、数多の人を手にかけた。剣を取るたびに自分がどんどん脆く、臆病になっていく気がしていたよ。
私がこの剣を、ただ人を守るためにふるっていたら、こんなことにはならなかったかもな……」
それを聞いた時、クロトの目からは涙がこぼれていた。
彼女は、最強の剣士だった。
心技体すべてが完成されていた。
そして、あらゆる防御を断ち切る最強の剣。『絶対切断』という名の固有魔術。
剣術という概念を、最強の想念として具現化することが彼女の戦い方だ。いかなる小細工も発動の前に、叩き斬られてしまう。
本来は、クロトごときに敗れるプレイヤーではなかったはずだ。
「俺は………俺は、真剣を握ったこともない。命を賭けて戦ったこともなかった。
ずっと偽物と遊戯だけさ。
……君の方がずっと偉いよ」
うつむくクロトに、エミリア・ブランフォードは首を横にふる。
「………そんなことはない。
私は、剣でしかものを語れず、剣でしか世界を理解できない人間だ。
この闘いそのものも、剣という概念に置き換えてしか理解できなかった」
たしかに、それが敗因といえる。
闘いの中で、クロトは分析した。
そして、『彼女が剣にのみ特化したプレイヤー』だということを、確信した。
彼女が『絶対切断』を使うには、斬る対象を正しく認識しなければならない。
だから、クロトはあえて剣術という相手の土俵に上がり、クロトの出す手札を錯覚させた。
「君の固有能力『絶対切断』は、事象の破壊の確率を強制的に100%にする能力だ。
けど、俺の固有能力『勝負師の矜持』は確率を100%にする効果を無効にする」
「きみの能力は、敗北の可能性が100%に近くなればなるほど、活路を見出すようだね………実に見事だったよ」
こうして、『絶対切断』を封じてしまえば、彼女には為す術がなかった。
肉体的な強さは問題ではない。現世において大成した己の特技は、このフィールドでは魔術という形で具現化する。
それがこの『世界』のルールだ。
エミリアが『剣の精神世界』ならば、クロトは『オンラインゲーム』という土俵で戦っていた。
クロト自身、それ以外に自信を持てるスキルはなにもなかった。
武術とは、敵より絶対優位に立つために、己を鍛えあげる術。
しかし、クロトが臨む闘争には、双方のプレイヤーが勝つための手筋と、それを引き当てる可能性がかならず用意されている。
それが『ゲーム』の原則だ。
『絶対』などという言葉はゲームの世界にはありえない。だから、如何に己が優勢であれ、賽の目次第で逆転敗北を喫する可能性も許容しなければならない。
この世界での闘いを『仕合』として認識していたエミリアと、命懸けの『ゲーム』として認識していたクロト。
故に、常勝のエミリアの、『絶対』という概念は、『ゲーム』という原則に敗れた。
相性が悪すぎたといえば、それまでだ。
震える声で、クロトが告げる。
「……俺には、……君が眩しい。君は強くて、正しい」
やがて泣きだすクロトに、エミリアは騎士の威風をまとったまま正対する。
これでは、どちらが勝者かわからない。
「ふふ、ただ褒めてもらうのが、こんなに嬉しいとは思わなかった」
「………………俺は、………………嫉妬深くて醜い……ただのガキのままだ」
己があまりにも卑小に見えた。
女でありながら、天賦の才がありながら、それに自惚れることなく、ただ己を鍛え上げたエミリア・ブランフォード。
クロトのいた世界には存在しない人間だが、彼女の世界では彼女は英雄だった。
自国の民を守るべく立ち上がった戦乙女は、死臭漂う戦場に奇跡の花として咲いたことだろう。
『ワールド・ターミナル』と呼ばれるこの空間は残酷だ。
異世界から呼び寄せた魂が、己の生存をかけて競い合う決闘場。
勝てば生き残り、負ければ死ぬ。
こんな綺麗な人間を、自分が壊してしまっていいのだろうか?
ただ、こんな惨めな自分を生存させるがために。極寒の冬、たった一日、延命させる固め、千年の名画を火にくべるような気がしてならなかった。
しかし、その涙の雫に触れ、彼女は言った。
「そんなことはない、君はこの私に勝ったんだ。
私にはない決定的な何かを、君は……持っていたんだろう」
光を残して、彼女は消滅していく。
エミリア・ブランフォードは最期までただ美しく、そして、強かった。
「それを、誇るといい……」
クロトの耳には、その遺言だけが木霊していた。
---
決着の後、クロトは現実に引き戻された。
窓から差し込んだ朝日に鬱陶しさを憶えながら、森崎黎人は、ゆっくりと目を開ける。
この日、彼が最初に見たものは、ジャンクフードの食べ滓でべっとりと汚れたキーボードだった。
学生時代から住み続けている安アパート。こたつに据え置いたPCは、少々ガタが来ている。そろそろ買い替えの時期かもしれない。
(まるでブタのようだな)
節電モードのディスプレイに映った己の冴えない顔を見て、黎人は肩を落とす。
すくなくとも、半年前はこんな顔はしていなかった。素朴だが逞しい剣士の外見をしていたアバター『クロト』とは違い、森崎黎人の本来の外見は、決して良いものではない。
たるみきった体は、ついさっきまで美貌の女騎士と死闘を演じていた青年と同じ高潔な精神を有しているとはとても思えない。
この醜く憔悴しきっている今の己の姿を他人が見たら、誰もが眉を顰めるだろう。そう自嘲しながらも、黎人はブラウザを開き、『報酬』の振込を確認した。
LV:58
LUCK:295173
森崎黎人は、半年程まえから、職についていない。
それ以前はしがないゲーム制作会社に努めていた。
大手の受注を受けて、雑な仕様書を元に日々アップデートされるソーシャルゲームの素材を量産する下請け会社である。
しかし、その会社は、ほとんど何の前触れもなく倒産した。
倒産の際、得意先から拾ってもらった同僚は数人いるが、とくに優秀でも、働き者でもない彼に再就職の話はなかった。
それでよかったと思う。
彼自身も、下請けをこき使うだけの業界に入る気はもうない。
PCの画面には、デザイナーが意匠を凝らしたわけではないロゴが浮かんでいた。
- MORTAL・HEROS・ONLINE -
明け方まで、プレイに明け暮れていたゲームのタイトルである。
しかし、黎人はこのゲームに熱中しているわけではない。
コントローラーを動かせば躍動する空想世界のキャラクターたちに、子供のころ胸を熱くしたものだが、業界の内側にまで足を踏み入れ、酸いも辛いも知ってしまった以上は、もはやコンピュータゲームという遊戯に若い頃ほどの情熱は感じなくなっていた。
そんな彼が、再びネットゲームなどやり始めたきっかけは、前の会社の取締役から渡された、一組のアカウントだ。
「自分の代わりにポイントをためてほしい」
平社員である黎人は「いい齢して何を言ってるのか」と思ったが、社長命令である。この社長は二十代で会社を起こした辣腕として、業界では名が通っている人物だ。
黎人個人は、この社長をあまり好きにはなれなかったが、「きっと、自分のような凡人の尺度で測ってはいけないのだろう」と、自戒を込めて己に言い聞かせる。
辛うじて雇ってもらってる落ちこぼれ社員の身の上で、NOという返答は黎人にはなかった。
「わかりました。で、どんなゲームなんです?」
「格ゲーかな? ま、やれば理解るよ……」
その時、社長が不気味にほくそ笑んだのを今でも覚えている。社長の黎人に対する悪意が明確になったのは、三週間後のことだった。
黎人は、当初、これも凡百ゲームの一つだと思っていた。
スマフォゲーム全盛の今日では、かつてのファイナルファンタジーのような超大作にはお目にかかれない。
だが黎人は、ログインしてすぐに、そのゲームの異常さに気づいた。
気づかない、ということはありえない。
このゲームは、魔法のゲームだった。
人の魂を『ワールド・ターミナル』という仮想空間に引きずり込み、対戦させるという、仮想現実対戦型オンラインゲームだったのだ。
まぎれも無く、現代の科学を超越した産物だった。
ゲームのプレイヤーは、この世界の人間だけとは限らない。戦国時代の名も無き兵士かもしれないし、ファンタジー世界の魔法使いかもしれない。
パソコン、そして、このゲームを提供しているサーバーは入り口に過ぎない。ログイン時に描かれる魔法陣を見るとなり、ゲームの世界に引きずり込まれるのだ。
ゲームが始まると同時に映し出される魔方陣。おそらく、あの魔法陣が『ターミナル』へのプロトコルなのだろう。
対戦前、エミリア・ブラフォードから聞いたのだが、彼女の端末は、ひょんなことから入手した『不思議な鏡』だという。
そこにも、これと同様の魔法陣が描かれていたのだと。
ゲームコンセプトは実にシンプルだった。
ゲームの世界で、プレイヤーは他のプレイヤーと対戦する。
対戦に勝てば、相手の強さに応じて相応の『幸運』が支払われる。
負ければ、二度と目覚めることはない。
MORTAL・HEROS・ONLINEは、未知の世界の住人と邂逅し、対話し、一対一で雌雄を決するというゲームなのだ。
これを作った技術について、科学的に視点からあれこれ考えるのはナンセンスだろう。このゲームは間違いなく人が作ったゲームではない。なにしろ世界の外側につながっているゲームである。
プレイヤーは、このゲームの世界で、異世界の人間と出会い。戦い、そして報酬を得るのだ。
(これだけあれば、今月もまだ食いつなげるな………)
心中で息をつきながらも、鬱屈とした気持ちは晴れなかった。
このゲームは、プレイヤーから広告効果や営業利益目的に運営されているわけではない。
『ターミナル』からの勝利報酬は金銭ではなく、『幸運』そのものなのだ。
最初の対戦の相手は楽勝だった。
相手も初戦であり、しかも、『ゲーム』と言う概念もよく理解していない、古代人だったのだから。
プレイヤー・クロトは、あっさりと彼を殺し、勝利を勝ち取った。
そして、なんの感慨もわかないまま、最初に与えられた報酬を、適当に『金運』に振り分けた。
そして、その日、黎人は事故にあった。幸い、病院に担ぎ込まれるようなケガではなく、100%相手の過失だった。
しかし、面白いのはここからだ。
車を運転していた男が、とある大物政治家を父に持つ二世議員だったのである。翌日、その事務所の無愛想なスーツの男が、学問のすすめの作者の肖像画300万枚を、デパートの紙袋に入れて持ってきた。黎人にとって、手にとったことのない大金だった。
さらに、『仕事運』にポイントを振り分けると、その日の内に、ベンチャーを立ち上げたという男が、ほとんどなんの脈絡もなく目の前に現れて、会社のホームページを作って欲しいというのである。休日を費やして納品すると、「気に入ったので、ウチで働かないか」と二割増しの年収を提示して、転職をすすめられた。
転職の話は断ったものの、黎人は有頂天になった。やり手の敏腕社長に誘われたからではない。
この『MORTAL・HEROS・ONLINE』が本物の『魔法のゲーム』だったからだ。
このゲームのホームページには、新規ユーザー登録画面が存在せず、アカウントを持たねばログインできない。森崎黎人は、魔法の世界へのアクセス権限を手に入れた。彼の心に再び、親にプレイステ―ション2を買ってもらった時のような興奮が蘇った。
しかし、このゲームが祝福と同時に、呪いも帯びていることに気がついたのは、それから3週間後である。
「社長が亡くなった」
出社した黎人は直属の上司から、唐突に、そう聞いた。
そして、隠されていた会社の実体がみるみる明らかになり、森崎黎人は無職となる。
辣腕に見えた若社長は、なんでも多額の負債を抱えていたらしい。
社長の急逝から、倒産までは一週間もかからなかった。会社の経営状況については聞かされていないし、興味もなかった。
社長の死因に付いては、社内でいろいろと噂されていたようだが、黎人は原因を知っていた。
22日めのログイン時、ブラウザには警告メッセージが表示されたのである。
「『魂』データが、三週連続で一致しませんでした。前ユーザーの登録は抹消されます」
次の日、社長は死んでいた。心臓麻痺だったそうだ。
MORTAL・HEROS・ONLINEのメインシステムである『ワールド・ターミナル』は、ユーザー認証をパスワードでやっているわけではなかった。
どうやら『魂』で認証しているらしい。偽装は不可能ということだ。
社長が黎人に、アカウントを渡した理由は少し考えれば理解る。
強敵と遭遇する確率は低いとはいえ、これはかなり危険なゲームだということだ。
どれだけ訓練し、対策を練っても、負ける可能性は常にある。
エミリアのような強力なプレイヤーでも「天敵」ともいえる存在に遭遇することもあり得るのだ。
そして、参加者は、一週間に一度、必ず他のプレイヤーと対戦をしなければならない。
つまり、週に一度、必ず危ない橋を渡らねばならないのだ。
社長はそのリスクを、黎人に押し付けようとしたのだろう。そして、報酬だけを得ようとした。
もしかしたら、あのいけ好かない社長は、この会社の負債を『ワールド・ターミナル』でもたらされる報酬で相殺し、死に体だった会社をなんとかもたせていたのかもしれない。
もちろん、それは誤算だった。
システムはズルを許さなかった。
ゲームに負ければ、死ぬ。だからといって、ゲームから逃げても死ぬ。
しかも、ゲームを放棄すれば、今までの幸運のツケを支払うような、不運が襲ってくる。つまり、このゲームを始めたプレイヤーは、死にたくなければ闘い続けるしか無いというわけだ。
「………まったく、残酷なゲームだ」
夢から醒めると、あれほど悲しかったエミリア・ブランフォードの死も、味気ないものに思えていた。
おそらく、彼女は『魔法の鏡』からワールド・ターミナルにアクセスして、このゲームから『武運』を獲得いたのだ。あっちの世界で彼女が英雄になれたのは、このゲームの報酬ゆえだったのだろう。
そして、『クロト』に敗れて死んだことで、彼女は佳人のまま夭折したはずだ。もしかしたら、救国の聖女として祀り上げられ、人々から崇められる存在になったのかもしれない。ジャンヌ・ダルクのように。
そう思えば、あの涙の別れも、世界の必然のような気がしてきた。
最早、森崎黎人の中には、彼女を手にかけたことに対する自責の念は微塵も存在していない。
黎人は、食べかけの食パンに手を伸ばしながら、自分を薄情な男だとあざ笑う。
「よっこらせ……」
まだ二十代の中盤ではあるが、彼は無為に過ごしながら、己が急速に老いていくのを感じていた。
このゲームを続ける限り、お金に困ることは無いだろう。
エミリアに倒して得た『報酬』をすべて金運に割り振り、FXでも始めれば、ちょっとした財産が築けるかもしれない。
遠い親戚や、名前も知らないお友達が増えることだろう。
ニヒリストである彼は、そこまで想像して、笑みをこぼした。
こんな姿になっても、金、健康、家族、友人は思いのままだ。
ただし、彼は獲得したポイントを『恋愛運』に割り振ろうとは思わない。たとえ、エミリアのような絶世の美女と知り合えたところで、自分はいつ死ぬかわからない男なのだ。
だから、身だしなみに気を使うこともほぼなくなった。
伸びた髭を触って、めんどくさそうにつぶやく。
「腹が減ったな……」
そして、運動不足で鈍重なった体を揺すりながら、摺足で冷凍庫のレトルト食品をあさりに行ったのである。
読んでもらった方、ありがとうございます。