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宮本栞が電話を切ると、行列はさらに伸びていた。式部香子の所で間入りするわけにもいかないので、彼女は最後尾に並ぶことにした。最後尾に並んだ宮本栞は周囲を見渡す。前方にはレミエルらしき人影はない。
すると宮本栞の背後に、2名の外国人が並んだ。
「It is an uncanny procession. Since it is a guest's elder sister, can't it enter of other makes?」
(凄い行列ね。ゲストの妹として別口で入ることはできないのかな?)
「It will be impossible. Because we only got your younger sister to prepare a ticket.」
(それは無理だろう。俺たちはあなたの妹にチケットを用意してもらったに過ぎないのだから)
2人の男女の英会話。その男の声に宮本栞は聞き覚えがあった。宮本栞が背後を振り返るとそこには、ジョニー・アンダーソンの姿があった。ジョニーの隣には、長髪の金髪碧眼の女がいた。その女は麦わら帽子をかぶっている。
「宮本栞か。まさかデートの邪魔でもしにきたのか」
「違いますよ。友達に誘われてきただけです。私は友達の後ろに並ぼうとしたのですが、タイミング悪く、江角さんから電話がかかってきて、並びそびれたんです。その電話であなたがこの遊園地を訪れていることを知りました」
事情を説明する宮本栞を見て、ジョニーの隣にいる金髪碧眼の女がジョニーに質問する。
「Who is this daughter? Are you your illicit lover?」
(この娘は誰。あなたの浮気相手かしら)
「It is different. She is my fellow worker.」
(違う。彼女は仕事仲間だ)
そのジョニーの答えを聞き女は安心した。そして金髪碧眼の女は宮本栞に右手を差し出す。
「マリア・テリーよ。よろしく」
「宮本栞です。よろしくお願いします」
2人が握手を交わすと、彼女はあることを思い出す。
「江角さんからあなたたちはゲストとして招かれたマリアさんの妹さんにチケットを用意してもらったと聞きました。そんなことができるのは著名人。テリーという名字から連想するに、マリアさんの妹さんは、テレサ・テリーさんでしょう。サスペンスドラマの脚本で有名な方です」
宮本栞の推理を聞きマリアは頷く。
「正解。私の妹はそんなに有名なのかな」
「彼女が書く脚本はどれも面白いと評判ですから」
宮本栞とマリアが会話をしていると、式部香子が小さく咳払いしながら、ジョニーとマリアの後ろに並んだ。式部の存在に気がついた宮本栞は彼女に話しかける。
「どうしたのですか。あなたは前に並んでいたはずですが」
「一人だとつまらないから並びなおしただけだよ。ところでさっきから楽しそうに話していたその外国人は誰なの」
「マリア・テリーさんです。知り合いのジョニーさんの婚約者さんで、人気脚本家のテレサ・テリーさんの姉です」
宮本栞の紹介を聞きマリア本人は矛盾を感じる。
「ジョニー。知り合いってどういうこと。仕事仲間じゃないの」
「正式な仕事仲間じゃないということだ。彼女は協力者に過ぎない」
ジョニーは適当に嘘を吐くと、宮本栞に近づき、ヒソヒソ話を行う。
「どうして話を合わせなかった。俺とお前は仕事仲間だろう」
「おかしいでしょう。大学生の私が仕事仲間って」
「だから探偵事務所でアルバイトしているとでも言っておけばいいだろうが。アルバイトも立派な仕事仲間だ」
「その探偵事務所はどこにあるのでしょうか」
「イタリアンレストランディーノを事務所代わりに使っている」
「分かりました。ジョニー探偵」