20
その頃放送室兼警備室で二人組の籠城犯が目だし帽を脱いだ。その二人組の素顔は長塚好美と湊当麻だった。
「当麻君。結構遅かったですね。もう一人の仲間がトイレに駆け込むのが。おかげで一時間も待ちましたよ」
「一応ペットボトルに下剤を混入させたのですが、効果が遅く出たようです」
時計台の前で宮本栞は三沢マコに問う。
「最後になぜマスコミ関係者に復讐しようと思ったのかを聞かせていただけませんか」
「個人の自由を侵害したマスコミ関係者が許せなかった。覚えているよね。長谷川真が再逮捕された時、マスコミは全く関係ない10年前の誘拐事件の報道を行った。当時長谷川は大量の少女漫画が山積みにされた部屋で女子小学生を監禁していた。それがいけないの。おっさんが大量の少女漫画が山積みにされた部屋で暮らして何が悪い。確かに誘拐は犯罪だけど、『大量の少女漫画が山積みにされた部屋で監禁』なんて情報は報道する必要がない。明らかにあれは個人の自由を侵害している。だから私はインターネットで知り合った法律に詳しい香椎陸さんと協力して、マスコミ関係者が多く集まるケイシンランドで籠城事件を起こした。そのうちに湊当麻さんやマネージャーの長塚さんが『マスコミが個人の自由を侵害している』という考えに賛同して仲間に加わったのよ」
「方法を間違えていませんか。その考えを否定するつもりはありませんが、あなたたちはテロリストです」
宮本栞が嗜めると、三沢マコは怒鳴った。
「仕方ないでしょう。劇場型犯罪を起こさないとマスコミ関係者は騒がない。それにこの考えに同意する人々はこの世界に存在している。マスコミが個人の自由を侵害するような報道を繰り返すたびに傷つくオタクたちが生まれる。その傷ついたオタクたちを救う救世主となるのは、香椎陸。彼が50分後にマスコミの記者会見で動機を述べれば、ネット上で炎上が起こり、マスコミが叩かれる」
三沢マコが動機を語った時、宮本栞の携帯電話に着信があった。相手はジョニー。
「宮本栞です。そうですか。ありがとうございます」
宮本が電話を切ると、彼女は三沢マコにあることを伝える。
「50分後ではありません。今からです。香椎陸は記者会見を早めるそうですよ。人質も解放して、25分後に警察が突入します。もっとも仲間が記者会見を止めたので、彼の口から動機が語られることはないでしょう」
「どうしてそんなことするのよ。邪魔したら救世主は誕生しないでしょう」
「まだ分からないのですか。こんなことをしても何も変わりません。あなたが犯罪を起こしたことで傷つくファンがいます」
「香椎陸が籠城事件の要求を伝えた記者会見がインターネットの動画サイトにアップされていたから見せてもらってけれど、香椎さんは『あなた方にはこの籠城事件を報道する義務があります』って言っていたよ。彼の言葉を借りるのであれば、『大量の少女漫画が山積みにされた部屋で監禁』という情報も報道する義務があると思う」
「さらに香椎陸は警備員を撃ってから、医務室に運ぶよう指示しました。香椎陸は優しいのです。その優しさを殺して籠城事件の主犯として警察に確保されようとしています。あなたは彼を救いたいとは思わないのですか」
宮本栞と式部香子の説得を聞き、三沢マコは泣き崩れる。そして彼女は携帯電話を取り出し、香椎陸に電話した。
「人質を解放して自首しよう」
その説得を受け、残りの籠城犯たちも出頭を決めた。その後人質が解放され、警察が突入した。爆発物が全て処理された頃、夕日が沈む。
またケイシンランドのオープンは籠城事件を受けて延期となった。こうして屋内遊園地を舞台にした籠城事件は幕を閉じた。




