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救世主  作者: 山本正純
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 その頃放送室兼警備室に籠城した2人組の籠城犯の内、館内放送を行った方の男がもう一人の仲間の右肩を軽く叩いた。

「悪い。トイレに行ってきていいか。ここの仕事は一人でもできるだろう」

「分かった。行って来い」

 放送を行った方の籠城犯は許可をもらうとトイレに向かい走った。

 その籠城犯がトイレに駆け込んだ所を黒い影は見つめていた。

「なんでこんな時にトイレに行きたくなるんだよ」

 籠城犯がぼやきながら、ズボンのチャックを下げようとした時、彼の背後に黒い影が迫った。黒い影はスタンガンを手にしている。

「ご苦労さん」

「誰だ。お前」

 黒い影は籠城犯の質問に答えることなく、籠城犯の体にスタンガンを当てる。籠城犯があっさりと気絶すると、黒い影は籠城犯の顔を隠していた目だし帽を剥がした。黒い影は目だし帽を手に入れると頬を緩ませた。


 イベントステージ上にいる香椎陸の携帯電話にメールの着信があったのは、トイレ内で籠城犯が襲撃された頃と同じだった。

 そのメールアドレスは香椎陸にとって見覚えがないものだった。香椎陸は一瞬イタズラメールだと思ったが、警察からの交渉メールではないかと考えを改め、メールを読む。


『香椎陸様。取引をしませんか。あなたを屋内遊園地という完全な密室から脱出させます。その代り私たちの組織に入っていただけませんか。取引に応じるのであれば返信してください』

 このメールを読んだ香椎陸は激怒する。

「ふざけないでください。僕は逃げません。ここで逃げたら救世主になれないではありませんか」

 香椎陸はそのメールを無視することにした。

 

 ケイシンランドに月影たちを乗せたキャンピングカーが到着した。車が駐車場に止まると、武装した特殊班と特殊急襲部隊がポイントAに向かう。

 5分も経過しないうちに突入の準備は整った。そして月影は籠城犯香椎陸との交渉のため電話をかける。香椎陸の電話番号は木原を経由して月影に伝えられていた。

 コール音が2回鳴ると、香椎陸は電話に出た。

『警察ですか。僕は香椎陸です』

「警視庁の月影です。香椎さん。もう止めませんか。人質を解放してください。こんなことをして釈放されても長谷川は喜ばないでしょう」

『なるほど。警察は要求を叶えるつもりはないということですか。だからと言って爆破はしません。警察への要求はどうでもよかった。マスコミに要求した籠城事件の報道の方が大切ですから。警察との交渉にも応じません。警察にもう一つ要求するなら、時間をください。30分で構いません。今から30分間ケイシンランドの外で待機していただけるなら、人質を解放します。それまで突入を認めません。突入を早めた場合、一斉に爆弾を爆破させます』


 イベントステージ上にいる香椎陸は電話を切ると、先ほどテレサに言われた言葉を思い出した。

『あなたは世界を救うために一万人以上の命を犠牲にするの』

「殺すことはできなかった。ごめんなさい。天理さん」

 香椎陸は呟き、携帯電話で放送室兼警備室に籠城している仲間に電話をかけようとした。 だがその腕は気配を消し近づいていたジョニーに掴まれた。ジョニーの傍らにはマリア・テリーがいる。


ケイシンランド内を東奔西走する宮本栞と式部香子の元にテレサからの電話がかかってきた。

『宮本さん。香椎陸の動機が分かったよ。マスコミ関係者の復讐というのが彼の動機みたい。そっちはあの3人の誰かと接触できたの』

「いいえ。ケイシンランド内を走り回って探しているのですが、あの3人には会えません。今ジョニーがイベントステージに向かっているところ……」

 この時宮本栞の脳裏にキーワードが浮かんだ。円形の屋内遊園地。柱を消し飛ばす程度の威力の爆弾。時限式ではなく、電波を受信したら爆破する爆弾。イベントステージがある場所。郵便車爆破事件。

 一通りのキーワードが浮かんだ宮本栞は、テレサに対して推理を口にする。

「というのが私の推理です。おそらくあの人は時計台にいます。爆弾のスイッチを持って」

『なるほど。分かったよ。時計台に向かってね。今頃イベントステージの上でジョニーたちが香椎陸を足止めしている頃だろうから、安心して真犯人と接触していいよ』


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