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それから10分後、木原と神津は香椎陸が暮らしているマンションを訪れた。そこに遅れる形で合田が家宅捜索状を持って木原たちに合流する。
3人は大家に鍵を開けてもらい、香椎の自宅に足を踏み入れる。
真っ先に木原の目に飛び込んできたのはリビングの机の上に置かれた六法全書だった。
リビングの近くに置かれた本棚には法律関係の本が並んでいる。
「香椎陸は弁護士を目指しているのかもしれないな」
神津が六法全書を捲りながら呟くと、木原は香椎が使っているノートパソコンを立ち上げる。もちろん指紋が付着しないように手袋を装着して。
香椎のパソコンにはパスワードが設定されていなかった。合田がインターネットの閲覧履歴を見ると、爆弾の製造方法や拳銃の入手経路を調べていたことが分かった。
「なるほど。香椎陸はアマチュアのテロリストのようだな。本物のテロリストなら、爆弾の製造方法なんか検索しないだろう」
合田の推測を聞きながら木原と神津は香椎陸の寝室を訪れる。リビングには爆弾を製造した形跡がなかったからだ。
しかし寝室にも爆弾を製造した形跡は残されていなかった。その代わりに、寝室には未使用の銃弾が残されている。神津はその銃弾を袋に入れた。
神津と木原は合田がいるリビングルームに戻ってくる。
「爆弾を製造した形跡は残っていなかったが、寝室に未使用の銃弾が残されていた」
神津が報告すると、合田はノートパソコンを神津に見せた。
「香椎陸は頻繁にノートパソコンで天理さんと名乗る人物とメールをしているようだ。これは昨日届いたメール」
『明日は革命の日。我々を苦しめる鎖を断ち切る大切な日。あなたは救世主です。明日の聖戦に勝って、救世主として有名になってください。天理さんより』
「革命。聖戦。救世主。さっぱり分からないな」
「ただ分かることは、天理さんと名乗る人物が黒幕である可能性が高いということです。
おそらく香椎陸に籠城を指示したのは、天理さんです」
「だが、その天理さんと名乗る人物が誰なのかが分からないだろう。どうする」
合田は神津の言葉を聞き、笑う。
「簡単なことだ。北条に頼んで、天理さんと名乗る人物のメールの発信元を特定してもらう」
その頃愛澤春樹は自宅である人物からの電話を受けていた。その人物は、退屈な天使たちのボス『あの方』
『香椎陸。あの男が欲しいと思っている。あの男にはカリスマ性がある。是非退屈な天使たちのメンバーに加えたいと思わないか』
「香椎陸を仲間として迎えるために、交渉しろということですか」
『そうだな。交渉してくれないか。契約料は任せる。ちゃんとした逃走手段を用意するとでも言えば、泣きついてくるだろう』
「分かりました」
愛澤春樹は電話を切る。そしてサマエルに調べてもらった香椎陸の携帯電話のメールアドレスにメールを打った。




