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サマエルのパソコンにラグエルからの依頼メールが届く。そのメールをサマエルが読んでいると、イタリアンレストランディーノを一人の女が訪れた。金髪碧眼に三つ編み。小麦色の肌。ピンク色の眼鏡をかけており、貧乳だ。
その女が店内に入ってきた瞬間、板利明は思わずその女の名前を叫んだ。
「メアリー」
「えっと。この場合は本名で呼んだ方がいいのでしょうか。板利明さん。お久しぶりです」
その女の名前はメアリー・ウィルス。かつてサマエルと共にイタリアマフィアを情報戦で追い詰めたハッカーだ。
「いや。必要ない。現在は見ての通り客が一人もいない。それに店内に盗聴防止電波を流しているから、盗聴の心配はない。仮に盗聴されていたとしても、甲高いノイズ音しか聞こえないということだ。それでいつ来日した」
「今朝の飛行機です。しばらくこの国で暮らすつもりです」
「丁度良かった。ラグエルから依頼を受けている。今ニュースでやっているが、ケイシンランドで籠城事件が発生していて、レミエルとウリエルが人質になっている。香椎陸という男が犯人で、そいつのことを調べてほしいそうだ」
「一応確認ですが、香椎陸という男は暗部の人間ではないのですか。もしも暗部の人間なら彼が所属する組織のコンピュータにハッキングして籠城事件の目的を探ることもできますが」
「この男の名前は聞いたことがない。もしかしたら地獄の商人シノのような一匹狼タイプの暗部の人間かもしれない。そうだとすれば調べようがない。ここはインターネットを駆使して調査するしかない」
その時メアリーの携帯電話が鳴った。メアリーが携帯電話を開き、耳に当てるとメアリーにとって聞き覚えがある声が流れた。
『メアリー。テレサだけどちょっと調べてほしいことがあるんだけど、今大丈夫』
「計算中です。邪魔しないでください。今私は板利さんと一緒に籠城犯香椎陸さんについて調べているのですから」
『それは誰からの依頼。私は頼んでないよ』
「愛澤さんです。マリアさんの婚約者ジョニーさんの仕事仲間の一人で、彼を助けるために情報を集めてほしいと、コンピュータの扱いに長けた仕事仲間の板利さんに依頼したそうです」
『それはよかった。どうやらジョニーさんの探偵事務所と私は縁があるようだね。兎に角あなたのタブレット端末にケイシンランドの見取り図を送るから、どこに爆弾が仕掛けたら遊園地を倒壊させることができるのかをシミュレーションして。私の推理が正しかったら遊園地を覆う壁を一周するように数十個の爆弾が仕掛けられていると思うんだけど、自信がなくて』
「分かりました。何かが分かり次第連絡します」
メアリーが電話を切ると、彼女のタブレット端末にケイシンランドの見取り図が送られてきた。