番外編自転車社会構築法第3条
私の名前は佐藤俊彦。現在57歳の衆議院議員である。与党平和党所属であり現職の副総理兼国土交通大臣を務めている。私が国土交通大臣を務めているのには政治家になった理由が深くかかわっておりそのことが私の人生の指針となっていた。それは自転車である。私は自転車愛好家であり自転車をより厳格に規制しているこの世の中を許すことができなかった。だから、自転車がいかに素晴らしいものなのかを説得させるためにも国土交通省に入省した。だが、それではだめであった。だから、政治家となって今国会で成立した自転車社会構築法とまとめ上げた。
自転車社会構築法は全5条からなっており前回は第2条について語ったので今回は第3条について語りたいと思う。
自転車社会構築法の第3条は以下のような内容になっている。
自転車社会構築法第3条
①自転車特区を設立し、自転車を自動車よりも優先順位の高いものとする。自転車特区内では自転車は全ての最優先車種となる。
②自転車特区の役割としては自転車にやさしい街として低地に平地に設立する。
以上が自転車社会構築法第3条の内容となっている。自転車社会構築法第3条は自転車特区という構想について法的な説明がなされている。自転車特区とは昔から言われてきた話であるがそれを条文に載せることで実現へとこぎつけたという感じだ。
さて、自転車社会構築法第3条を作る遠因となった過去の話について毎度恒例のように語っていきたいと思う。今回の話はまだ私の一人称が俺だった高校生の頃の話だ。
俺がまだ高校生の頃。具体的には高校2年生の春先。時刻は12時30分。ちょうど昼休みの最中でまだ、昼食をとっていない時間であった。
「あああああああああああああああああああ」
その日、俺は1人叫んでいた。叫んでいた場所はどこかと言うと──
「佐藤君。自転車にはしっかりステッカーをつけなさい」
学校の駐輪所であった。
今、俺は整備委員会の担当をしている大河原先生から説教を受けているところであった。大河原先生曰く学校の校則ではしっかり学校に登校してくる自転車にはステッカーを張らないといけないという。どうしてステッカーをわざわざつけているのかを俺は前にも同じことがあったので聞いたことがあったがその時返ってきたというのがこれであった。
「自転車にステッカーを張るのはだな。もしも、自転車で歩行者に事故を起こした時にステッカーがあればすぐにどこの学校の生徒か分かるようにしているんだ。ただでさえ、自転車による事故は近年増加しているから責任の所在を明らかにするためにも必要なことなんだ」
つまりは、俺達は信頼されていないということらしい。自転車が歩行者と事故を起こしたら自転車が悪い。そして、事故を起こした側の所在が分かる方が良い。だからステッカーを付けているみたいだ。
正直に言ってその理論には腹が立った。なぜ、どうして自転車だけが悪いんだ。歩行者と事故が起きたときに自転車側に過失がなかったとしてもその理論で行くと歩行者は悪くない。悪いのは自転車なんだと、言っているかのようなものだ。そんなのは完全におかしい。
だから、俺はその日から自転車だけの社会について考えてみることにしてみた。自転車だけの社会とは具体的にどういうものなのか。それについては、具体的に思い浮かぶことがすぐにはできなかった。だから、とりあえずは自転車の普及が盛んであるヨーロッパ諸国の例を探してみることにした。
近頃の地球温暖化の影響で自動車は排気ガスが多くてヨーロッパでは市街地に自動車を入れないようにする場所があるなど努力をしている。日本でもハイブリッドカーとかが地球にやさしいとして各自動車会社から売られており、努力されている。日本ではハイブリッドカーとして環境対策をしているがヨーロッパでは一味違った。なるべく自動車に乗らないようにということで自転車などが自動車の代用の乗り物となっている。自転車が乗られるのは環境にいいからだ。しかし、どうして日本ではそういうことが起こらないのか。その理由は日本が自動車大国であり、多くの自動車会社があることで自然に優しい車を作るのにも競争があり日々、技術力が向上しているというのがある。しかし、俺はそうは考えたがもっと別の問題があると思った。その別の問題と言うのが標高差だ。
ヨーロッパではほぼ平地であり坂もまああると言ったらあるが基本は平地だ。しかし、日本は違う。本州だけでも奥羽山脈、越後山脈、日本アルプス、中国山地。四国にも四国山地。九州にも阿蘇山などの山々。北海道にも自然豊かな山。このように山々が多く連なっている影響で平地というものが極端に少ない。有名だとしたら関東平野、濃尾平野とかだろう。駅伝とかでも選手が走っている際にはいつもこの上り坂を越えれば……などといった実況による解説がどの区間にも数回入るぐらいの坂率だ。
「おい、佐藤。人の話をしっかり聞いているのか?」
「え、ああ、はい」
「佐藤絶対に聞いていなかっただろう」
俺は、自転車についてずっと考えていたのだが、よくよく考えてみれば今は大河原先生による説教を受けている最中であった。俺は、聞いていましたと少しアピールするのが遅かったみたいで完全に聞いていなかったことが大河原先生にはばれてしまった。大河原先生は説教中に人の話を聞かないとは……
その後、俺は昼休みの終わりを告げる1時のチャイムまでずっと説教をされたのであった。……飯食ってない。
「とし、どうしたんだ? 昼休みまるまるいなかったが、何かあったのか?」
俺は、教室に帰って昼食もとることできなく次のライティングの授業の準備を始めたところに親友である川崎俊介が話しかけてきた。
「いや、それはだな……」
「とし君、大河原先生に説教されていただけでしょ」
俺が俊に(俊とは俊介のことだが、俺はそう呼んでいる)説明をしようと思った第三者によって説明を邪魔されてしまった。
「何だ、美月。どこからか見ていたのか?」
「ええ、図書館に行く途中でとし君が駐輪場で大河原先生に説教されているのを偶然見たの」
「そ、そうだったのか」
今、俺の会話に入ってきたのは酒井美月。俺達のクラスのクラス委員長をやっている女子だ。肩までのショートヘアーで、顔も平均の女子と比べても高い方に分類されるぐらいであるが、それはあくまでも中の上といった美少女なので、美少女ならぬ、微少女だ。ということを、俺のクラスの代の女子好きで有名な坂本真志は黒板の前でつい昨日20分を超える演説をしていた。
「そういえば、とし君に渡したいものがあったんだよ」
「渡したいもの?」
「おいおい、とし。もしかしてラブレターじゃないのか」
俊が美月が俺に渡したいものがあると言ったとたんに俺をからかい始めた。しかし俺はそれぐらいのことには動じなかった。俊が言うことは冗談かどうか俺は付き合いが長いのでわかっている。しかし、俺は動じなかったのだが、美月の方がものすごく動揺していた。
「べ、べべべべ別にラブレターじゃないし、た、たたただある本を渡したいと思っていただけだから……」
美月の言葉の後半部分はごにょごにょしていたため何を言っていたのか俺にはまったく聞こえず理解することができなかった。話すのなら最後までしっかりと話してほしい。ただ、俺は本を渡してくれるということだけは聞き取ることができたので本を美月から受け取ることにする。
「で、本は?」
「だから私は別に……って、ああ、本ね。ええと、ちょっと待ってて今出すから」
美月はそう言うとカバンの中から1冊の本を取り出す。そして、その本を俺にそのまま渡す。本の大きさは新書サイズで分厚さはおよそ280ページぐらいといったところか。
「一体何の本なんだ?」
俊は俺が美月から渡された本が一体どんな本なのか気になったみたいで質問してきたので俺はその本について簡単に説明をしてあげることにした。
「ああ、この本は前に美月と帰った時に話題になった本なんだ。内容は俺がこの前の冬休みのレポートとして提出した自転車についての認識についてきめ細かく各国の情勢とかも載っている優れた本だって美月が言っていたから、俺がぜひとも借りたいって言った話になって今日に至ったっていうわけなんだ」
俺は俊が納得いくように説明をした。しかし、そこで俊は別の疑問を浮かべたみたいだった。俊の顔には疑問符がまるで書いてあるかのような表情をし、そして、すぐに怪しげな笑みを浮かべた。
「なあ、とし?」
「ああ、何だ?」
「お前、美月と2人で帰っているのか?」
「「えっ!?」」
その言葉に俺と美月は同時に息ピッタリに驚いた。
そして、すぐにお互いの顔は真っ赤になった。
「なななな、何言っているんだよ。べ、べべべ別に深い意味はないんだからな」
「そそそそ、そうよ。べ、べべべ別に深い意味はないんだから」
「……」
俺達の必死の弁解に対して俊は無言であった。その無言は今の俺達のとってとても痛い視線であった。何か一言でもいいので行ってほしかった。
俺達はその無言の視線に耐えかねてついに俊に対してしっかりとした説明をすることとする。
「いや、俊。それは誤解なんだ。俺達は確かに2人で帰ったけどそれは毎日のことではないしそれにやましいことなどないし、それに本が借りたかっただけなんだ」
「そうよ、私はとし君が本をどうしても貸してほしいと言ってきたから貸したのであって、それをいつするのかとか打ち合わせを兼ねて一緒に帰っただけなんだから」
俺と美月は必死に弁解を試みる。もちろん、しっかりとした目的があったということを俊に理解してもらうためだ。これで、俊が納得してくれなければもうおしまいだというぐらいの説明をしたつもりだ。だから、俺は次の俊の一言が俺にとって、俺達にとって都合のいい解釈をしてくれることを願った。
「……わかったよ。お前は真面目にまた自転車のことでも研究したかったんだろ? その過程で美月から本を借りるために一緒に話し合いながら帰った。そういうことだろ?」
俊は俺達の話を理解してくれた。しっかりとだ。助かった。俺はそう思った。
「ああ」
「ええ」
こうしてどうにか俺達は俊のからかいから逃れることができた。
「……正直になればいいのに2人とも(ぼそっ)」
最後に俊が何か言った気がしたがあまりにも小さい声であったため俺はその言葉をしっかりと聞き取ることができなかったが、まあ、さっきの言葉からして俺達にとって都合の悪いようなことは言っていないだろう。俺はそう勝手に解釈をした。
◇◇◇
その日の夜。
俺は自分の部屋の机に向かっていた。勉強机に明かりをつけてしていたことは、さっそく今日美月から借りた例の本を読むことであった。
俺が借りた本にはヨーロッパのオランダの例が書かれていた。
オランダは現地の言葉でネーデルランド、日本語に訳しなおすと低い土地になるほど国土の大半は海抜0にあたる。したがって山地も少なく国土は平たんである。国土が平たんなので自転車を利用する人も結構いると書かれている。それは、低い土地だからという理由以外に地球にやさしくといった地球温暖化も視野に入れた政策だそうだ。ヨーロッパは環境政策も他の諸外国に比べて進んでいる。そういうこともこうしたオランダの自転車の普及の背景として貢献しているのだろう。
他にもこの本は自転車のことが書かれていたがあとは、自転車の歴史とかが書かれていたことぐらいだった。オランダの話以外は特に役立ちそうにもなかった。
しかし、オランダの話を読んでいる時に俺はあることが思い浮かんだ。自転車だけの世界という世界があってもいいのではないのか。もっと、自転車が日の目を浴びてもいいのではないのか。自転車はエコだ。少なくともそこらの車よりも、ハイブリッドカーよりもエコではないのか。だったら、エコを推奨するうえでこれほど重要なものはないと思う。
町の主要の道路を自動車ではなく自転車だけが通行している世界。思いっ切り自転車がスピードを出せる世界。思いっ切り併走運転できる世界。
うーん、何て最高な世界なんだ。こういう世界を作りたい。俺はそう考えた。だからこそ、この第3条に自転車特区というものをもってきたのだ。
そして、この自転車とっくに意見を考えたのは何も俺いや、私だけではない。
◇◇◇
「とし君、目が覚めた?」
知らないうちに私は寝ていたようだ。どうやら第3条の条文を読み直していたところで寝てしまっていたみたいだ。
「ああ、すまない。寝てしまった」
「最近は忙しかったから仕方ないよ。自転車社会構築法が成立してまだ3日しか経っていないのだからね。それで成立した以上あの約束を果たすのでしょ?」
「ああ、しっかり近いうちに表明をするよ。副総理と国土交通大臣の辞任を」
「そう、今までお疲れ様、あなた」
「ああ、美月。今までずっと応援してくれてありがとう。今日で結婚してから何年だったっけ?」
「さあ、私もあまりそういうのは考えたくなくて数えていなかったわ」
私は愛すべき妻の美月と会話をした。今日は私達の結婚記念日だ。なんだかんだ言って私達はあの後大学卒業後に結婚した。ようするに高校の時からお互いを意識しまくっていたというい訳だ。俊にはそのことではっきりしろと怒られた過去もあったがまあ、それもいい思い出だ。
私がこの法律を成立に導けたのも常に妻である美月がずっと横にいてくれたからだ。だから、私は美月にはものすごい感謝をしている。
「じゃあ、乾杯しましょう、おいしい料理を今日は豪勢に作ったのだから」
「それは楽しみだな。美月のご飯は何でもおいしいからな」
私は楽しい夕食を過ごしたのであった。
次回は3月31日21時更新です。第4条と第5条の2話分を更新します。また、第5条の更新を持ってこのシリーズは完結となります。