表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

番外編自動車社会構築法第2条

 久しぶりの更新となりました。

 私の名前は佐藤俊彦。現在57歳の衆議院議員である。与党平和党所属であり現職の副総理兼国土交通大臣を務めている。私が国土交通大臣を務めているのには政治家になった理由が深くかかわっておりそのことが私の人生の指針となっていた。それは自転車である。私は自転車愛好家であり自転車をより厳格に規制しているこの世の中を許すことができなかった。だから、自転車がいかに素晴らしいものなのかを説得させるためにも国土交通省に入省した。だが、それではだめであった。だから、政治家となって今国会で成立した自転車社会構築法とまとめ上げた。

 自転車社会構築法は全5条からなっており前回は第1条について語ったので今回は第2条について語りたいと思う。


 自転車社会構築法第2条の内容は以下のようになっている。

 

 自転車社会構築法第2条

 自転車専用の道路の整備を進めていく。自転車専用道は歩行者の通行も禁止であり、バイクなどの通行も禁止である。都市をはじめ地方にも建設の義務を与える。


 これが第2条の内容である。

 自転車専用道の設立を宣言した条文である。元々我が国日本にもサイクリングロードという自転車専用道路は存在していたがそれはいつしか形骸化していた。サイクリングロードと言いながらもジョギングする人もいれば歩いている人もいる。しかも、サイクリングロードは基本的には川沿いにしかない。これもどこかおかしい話だと思う。

 だから、私はこれを変えるために努力をしてきた。


 さて、今回の話は私が衆議院議員当選3回目から4回目になる前までのころの話である。


 衆議院議員3期目。3期目にして私は第2次中野井内閣の国土交通副大臣に任命された。もともとはまた政務官という話であったが中野井さんが側近の梶原官房長官や尾井副総理の意見を押し切ってまで採用したそうだ。

 その点では、いや、それ以外にも中野井さんには感謝しないといけない。感謝以外の言葉が見つからないほどだ。

 国土交通副大臣というといわゆる少し前に中央省庁再編と同じくして政治主導の理念の下政務次官を廃止して新たに設立されたものだ。普通は定員1~2人である。内閣官房副長官は3人。私が任命された国土交通副大臣は定員2人であり、もう1人の副大臣は相川達也衆議院議員だ。相川氏は当選回数2回で私よりも1回当選回数が少ないが年の方は相川氏の方が上である。鉄道行政が専門であり子供の頃は国鉄に入るつもりだったそうだが国鉄民営化で諦め、旧運輸省。現国土交通省の役人となった経歴を持つ。つまりは、私の先輩だ。そのため、私との人間関係が悪いということは特になく人事に文句はなかった。

 さて、これは国土交通省内での話。


 「相川副大臣」


 トントン。私は扉を軽くたたく。私は扉の向こうにいる相川氏を呼ぶ。現在私が立っているのは国土交通省内の廊下。そして、私が叩いている扉には副大臣室と小さく書かれたプレートが飾られていた。


 「はい。どうぞ」


 部屋の中から返事がしたので私は「失礼します」と軽く言うと部屋の扉を開けて中へと入る。中に入ると相川氏はどうも書類処理をしているところであった。どうも仕事の邪魔になってしまう悪いタイミングだったようだ。


 「すみません。お仕事忙しいところにお邪魔してしまって」


 私はそう言うと、相川氏は書類を机の上においてからにこやかに笑って深く座り込んでいた椅子から立ち上がって私の方へとやってくる。


 「いやいや、そんなことないよ。私と佐藤さんとの仲じゃない。知っているかい? 他の省では副大臣同士の仲が悪くて結構問題になっていないのだけど国土交通省だけそんなことなくてよかったとか官僚が噂しているんだよ」


 他の省のことは私には知らなかったが、相川氏の話には結構な信憑性がいつもあるのでこれも真実だろうと私は思って謙遜しておく。


 「いえいえ、相川氏が良き人柄のために私は尊敬していて、対立しようと何て気持ちを思わないんですよ」


 「いやあ、佐藤さんに言われるとそりゃあ困ったことで。それでどういう用件で今日はここに来たのですか?」


 相川氏に本題について聞かれたので私は急に思い出したかのように今回相川氏を訪ねた最大の要件を伝える。


 「実は尾井副総理が病気で辞任しましたよね。それに伴い安藤国土交通大臣が副総理に横滑りすることが先ほど決定したのですが後任の国土交通大臣の人事がうまくいっていないようでして、今日の衆議院国土交通委員会での討論に私か相川氏のどちらかが代理として出席しないといけないのですがどうしますか?」


 私が持ってきた話はこれだった。

 尾井副総理は御年73歳。第2次中野井内閣全閣僚中最年長であった。そのためか数日前から急に体調不良で閣議を休み続けていた。そして、今日正式に副総理の辞任を申し出た。中野井総理大臣は最初は迷ったそうだが病人に流石に無理をしてもらうのはダメだと感じたらしくその場で辞表を受理したとのことだ。

 副総理。内閣法の中ではこの役職は正式な官職としては存在していない。俗称として存在しているものだ。ちなみに正式名称は内閣法第九条の第一順位指定大臣(副総理)である。

 尾井前副総理の辞任に伴い閣内で一番経験があった安藤国土交通大臣が副総理に横滑りとなることが決定されそれに伴い後任の国土交通大臣を誰にするかで官邸が揉めていて人事が全く進んでいないから今日の国土交通委員会に代理を出しておいてと上から言われこうして今副大臣2人のどっちが会議に出るのかを決めているのであった。


 「というよりも私が出るしかないのだろう。違うか佐藤さん?」


 相川氏は私が出るしかないと言ったことに私は今日の用事が全てばれていたことが明らかになっていた。


 「はい。その通りであります。これから私は埼玉県に行って利根川の堤防見学をしなければなりません。ですので、委員会の方はどうぞよろしくお願いします」


 今日、私はこの後利根川の堤防を視察しにいかなければならなかった。そのため、国会の常任委員会に出る暇がなかったのだ。だから、相川氏に頼んだ。


 「では、視察をしっかりしてきてください。私も委員会で頑張りますから」


 「ええ、私は埼玉県から応援しています。初めてですよね。質問されることは? 心配でしたら河郷政務官か中之条政務官にでも相談してみてください。あの2人は私と同じ派閥で、相川氏とは別派閥ですが敵対心は持っていませんので、きっと相川氏に対しては悪い感情を抱いていませんよ。だから、相談さえすればすぐに打ち解けることができますよ。それでは私はこの辺で失礼します」


 「ありがとう」


 一通り話をし終えると私は部屋をあとにしてすぐさま国土交通省の玄関前に駐車していた黒い車の下へと急いだ。そうこの後の視察の時間が迫っているからだ。

 車に乗ると予定の時間に間に合うため車は高速で結構いい感じの速さで飛ばした。


 利根川の堤防の視察。

 昨今、大雨で川が氾濫するというケースが増加している。台風だけでなくいわゆるゲリラ豪雨といわれているものが増加傾向にあるからだ。一説には地球温暖化が原因とか言われているが私の感想では何が原因であれ自然の驚異に人間は勝つことはできない。

 でも、勝つことができなくても少しはあがきたいとは私は思う。あがく。そのあがくというのがいわゆる減災といわれる災害に対する対処の仕方だ。堤防も完全に水を受けきることなどもはやできない。大事なことはどれだけ被害を減らすことができるということだ。

 こんな話を長々と語るぐらいであったら将来は国土交通大臣というよりも内閣府特命担当大臣防災担当あたりでもやっておきたい。でも、あくまでも私の目標は自転車の法律を作ることだ。

 さて、話はずれたが私は地元の人の案内で利根川の堤防へとやってきた。

 利根川。

 信濃川に続いて日本で2番目に長い川であり、流域面積は堂々の日本第1位。群馬県のみなかみ町にある三国山脈の一つである大水上山から流れ出し、茨城県神栖市と千葉県銚子市の境で太平洋に流れ出るまで群馬県、埼玉県、茨城県、千葉県を通過する。

 そして、今私はその利根川の中流に当たる部分である埼玉県に来ている。


 「今日はよろしくお願いします。佐藤先生」


 私を出迎えてくれたのは地元の市役所職員であった。確か名刺では水道課と書かれていたが河川は水道課が担当しているのか少し不思議に思った。

 それにしても先生という呼称は少々恥ずかしいものだ。私としてはなぜか副大臣、といわれる方がまだ恥ずかしくはない。


 「こちらこそお願いします」


 私は出迎えてくれたので丁寧に対応をする。

 堤防の視察といっても特別なことをするわけではない。ただ、堤防を見て地元の人からこの場所で過去に何があったのか聞いて、これからについてどうしましょうかと話し合うだけだ。別に堤防を新たに作るとかはしないのである。あと、堤防を触ったりとかも一応する。


 「こちらが利根川に作られた一番古い堤防です」


 私は市役所職員にまず案内されたのが利根川に作られた一番古いと言われている堤防であった。一番古い堤防ということはつまりは今の防災法に基づいての設置はなされていないことにある。それに、当時の設定が甘かったと今の政府─具体的にあげると安藤国道交通大臣改め副総理や川野防災担当大臣である。

 予想外のことにも対応できるように設定は高く見積もれがこの2人に共通した考え方であった。むろん、私もこの考えには賛同している。大雨で川の水があふれ出て多くの人が家を失ったりするのはもう見たくない。死者何てもってのほかだ。そんな考えをこの視察で改めて考えさせられた。

 さて、私は視察を終え、川の堤防付近から車を駐車してある駐車場へと向かうまで川沿いの道を歩いた。いわゆる河川敷といわれている場所だ。

 河川敷を歩いて気付いたことはここはサイクリングロードであったということだ。サイクリングロード。まさしく、私の政治生命の象徴である自転車のための道路。

 私は少しここで自分の本来のマニフェストを果たすため(といってもサイクリングロードについての考えは大々的に公で発してはいない)様子をうかがってみることにした。


 「佐藤先生、どうされましたか?」


 市役所の職員に聞かれるが私はしばらくここにいさせてくれないかと軽く許可を求める。市役所の職員の顔は当惑したものだった。それは、国会議員しかも与党議員で政府の国土交通副大臣の方を1人にして先に行くことなどできるはずがないという思いからきたものだった。むろん、私はその気持ちを理解していたので困らせたくはないのが本心であるが今はこっちのサイクリングロードの視察の方が優先順位は上だ。

 

 「少し、サイクリングロードを視察したい。私なら大丈夫だから本当に先に行ってくれ。数十分したら向かうから」


 私は最終的にそう言い切りどうにか市役所職員をまいた。いや、まいたという言い方はおかしかったか……まあ、今はそんなことは些細なことだ。早く視察を始めよう。

 視察といってもさっき市役所職員をまいたが別に1人でするというわけではない。私は国会議員なので秘書はもちろんいる。なので、議員秘書をしてもらっている中島さん(女性)と佐々木さん(男性)の3人でただぼけーとサイクリングロードを眺め続けた。


 「いち、に、いちに!」


 ワンワン ワンワン


 「こんにちは」


 多くの人がぼけーとしている間にサイクリングロードを通った。

 高校生だろうかきれいな女子マネジャーさんが自転車に乗って前を走っている10人ぐらいの走っている男子を応援していた。

 元気な犬を散歩している主婦がいた。

 仲つつましく歩いている2人の老夫妻にあいさつをされた。

 それらを見て私には思ったことがあった。それは、自転車が圧倒的に通っていないということだった。別に歩いてる人が悪いということを言っているのではない。ただ、サイクリングロードなのだからもっと自転車が通行してもおかしくないだろう。しかし、私が見ていた間に通ったのは女子マネジャー1人だけだった。これでは、サイクリングのロードの意味がない。

 私はそれからして、視察を切り上げると駐車場に戻りそして、東京へと帰っていった。


 ◇


 それから数日後。

 私はサイクリングロードについての法律や歴史、由来、現状など調べられることの限りを尽くして調べ始めた。日本国内のこと、そして外国の諸事情も含めて。調べるといっても、今の時代本で調べるというよりもパソコンであるが。議員会館の自分の部屋で仕事が終わった夜遅くは毎日こんな作業となってしまった。

 そして、この時に集めた情報をもとにのちに自転車社会構築法の第2条の条文に当たる部分の草案をすでに作り上げていた。

 これがこの時考え出した草案の内容だ。


 草案

 全国各地に主に都市部を中心として自転車専用道路を作り出す。自動車専用道路は高速自動車国道(高速道路)と同じように指定車両以外の通行は全面禁止とする。また、現行のサイクリングロードについては名称の変更をしカントリーサイドロードにし、自転車や歩行者といった多くの地域の人の触れ合いの場、道として設ける。


 サイクリングロードのことは別に否定はしない。だが、それでもやはり自転車だけの専用道路を作り上げたい。私はそんな思いを強くした。

 ただ、まだこの時の私にはこの草案を他者に発表できるだけの影響力があったと言えばなかったと言わざる負えなかった。当分の間はこの草案は議員会館の私の部屋に置いてある金庫に保管されるだろう。いつになったら社会に顔を出せるか当時の私には分からなかった。

 

 その後、自転車社会構築法を議員立法として一度提出する際に他に何個か外した条文もあったが、かつて金庫に保管されていたこの条文は外さなかった。時がいくら経ってもそれだけ私には思い入れがあった。

 

 でも、この条文が実現することになるのはこの時からまだもう少し先のことになるのである。

 第3条は3月27日21時更新です。

 感想お待ちしております。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ