番外編放置自転車
少しおまけとして番外編を作らせていただきました。
自転車選挙。
大手テレビ局や週刊誌などの複数のマスコミがいつしか私の選挙方式をこう呼ぶようになった。
現在衆議院議員3期経験の私は衆議院が解散したことで身分が前衆議院議員に代わっていた。衆議院議員は解散した時に身分を失うものであるからだ。
さて、私の名前は佐藤俊彦。与党平和党所属の前衆議院議員だ。第2次中野井内閣では国土交通副大臣に任命されたが現在の内閣は第2次中野井改造内閣。一度内閣改造をしておりその際に私は国土交通副大臣の職を外れた。その結果、平和党副幹事長と平和党国土交通部門議長となっていた。どちらの役職もテレビには登場することがないマイナーな役職であり選挙戦においての後ろ押しになるとは思えなかった。ただ、それでも私のやることは変わらない。
「平和党佐藤俊彦。佐藤俊彦をお願いします」
チャリンチャリン
私はボランティアの人3人と共に自転車に乗って選挙戦をしていた。選挙カーに乗るなんてことは絶対にしない。マスコミからは自転車選挙の利点とは何だろうかと言われると私が最初に答えることはもちろん決まっている。
「どんなに車が入っていけない狭い道の中にも入っていけることです」
どんなに細い道があったとしても自転車なら入っていけるという点だ。また、気軽に乗り降りができるので地元の人との交流もできる。近所のおばあさん、おじいさんなんかがそれにあたる。選挙とは無縁の小学生、中学生、高校生からも声をかけられる。どの年代も自転車を愛用している人たちだ。ただ、このような人たちは選挙に参加できないが小学生あたりだと家に帰ったら親に向かって今日あったことを夕食で話すのでその時に私のアピールとなる。このような地道な努力が大切なんだ。
あとは、自転車専用道路と言われているが事実上死文化になっているサイクリングロードにもいく。さて、サイクリングロードは今日本にあるのは基本的に大きな河川の近くにあるのみ。自動車専用と言いながらも歩行者通りさらに走っている人もいる。看板には歩行者優先と書かれている場所すらも存在している。これはどういうことなんだ。私はおかしいと思う。本格的に自転車専用道路を作るべきだと思う。確かに、オランダのように低い土地で高低差がほとんどない平地な国とは違い山があって平地があって盆地があってと起伏が激しい日本において自転車が主要交通手段にならなかったのは理解できなくともない。しかしながら、もっと自転車のためにサイクリングロードの増設なんかはできないだろうか。
東京では改正道路交通法によって車道を自転車で走ることとなる。それは見てて危険なものだ。最近ではブレーキがない自転車と言うのが話題になり規制された。規制と言うか禁止だ。まあ、確かにブレーキがなければ危ないから理解できるがそれ以前にこの法改正をした奴、本当に自転車を理解しているのかとつい言いたくなってしまう。
地方なんかに行けば自動車が多く車道の方がむしろ歩道よりも危ないと言える。例えば、群馬県。日本で一番一家あたりの自動車保有率が高い。そんな未開の地何かでは車道に人がいるとしてもそれはお年寄りぐらいでほとんどの人は車で移動しているだろう。これはあれか。地方の人はというよりも自転車の人はずっと加害者であり被害者ではないのだとか言いたいのか。そうだとしたらこれからは自転車に乗っている人は自動車に乗っている人とぶつかって被害者となっていくぞ。むしろ、交通事故が増えると私はそのような見解を持っている。
このようなことは自身の著書『自転車利用者の不満』というタイトルで出版した。
これには多くの反響を買った。まず、高校生など自転車を使っている世代からはネットを中心に「そうだそうだ」という擁護の声が聞こえた。ネット世代の強みとがこういうことだ。だが、一方で自転車を規制していく国土交通省からは厳しい批判というよりも罵倒の声が多く飛び交った。私が国土交通副大臣を更迭された理由もそれだ。最初はうまくやっていたがここにきて仲を悪くしてしまった。ただ、この著書を出すまではうまく付き合いをしていて多くの官僚から自転車に対する良い反応を引き出せた。なので、このタイミングで出版したのは完全にミスであった。ここは1回もう一度自転車のことを官僚に伝えるチャンスを得なければならない。
だからこの選挙で当選を果たさなければならないのだ。この選挙区最大のライバルは民友党の長塚氏の後継として前回私が下した西山修氏だ。彼は彼で優秀である。前回はダブルスコアで破ったものの今回は前回以上に力を蓄えている。特に、アンチ自転車派と呼ばれる人たちの支持を得ている。
アンチ自転車派とは駅周辺に住んでいる人たちが主であり放置自転車に対する不満から自転車禁止を唱える市民団体『脱自転車協会』という組織まで作っている。事実上私の対抗勢力である。最近では区議会にまで候補者を擁立するなど完全に私に対抗しようとしている。
ちなみにこのことをどこかの曜日の名前が付いている週刊誌はチャリンコ論争とか適当な記事を書き世間の注目を浴びた。というか、チャリンコ論争って何だよ。確かに自転車のことで揉めているからということは分かるがチャリンコ論争というネーミングセンスはないだろ。心の中ではずっとそう思っていたがただ特に反論することはしない。ややこしくなってしまうからだ。ともかく、私はこの『脱自転車協会』をどうにかしなければならない。そのためにも選挙よりはるか前私の2期目の時から放置自転車の対策はしてきた。これは国政関係ないが平和党神奈川県連を通じて神奈川県内の各市町村議会の平和党系団体に要請していた。国政からも放置自転車をどうにかしようと自転車議員連盟で会合を開いていた。ただ、いつもいい結論が出なかった。
1か月前のこと。
まだ衆議院が解散される少し前自転車議員連盟の会合が開かれていた。創設した時は平和党自転車議員連盟という名であったが現在では複数の政党から参加者がいるため平和党の文字はなくなった。都内某ホテルに集まった私達は今日も放置自転車のことなど自転車関係の問題を語り合っていた。
「では、これから会合を始めます」
現在第2代自転車議員連盟会長に就任した私が挨拶をする。
「では、議事進行は平和党金井克彦が務めさせていただきます。では、まず今日の議題は最近どころか昔から問題となっている駅前の放置自転車のことです。何か良い意見がある方は挙手をお願いします」
俺の政界内での盟友金井氏が議事進行をする。金井氏が挙手をと言うと1人手を上げる人がいた。
「岡田君」
「はい」
岡田君と呼ばれた男性が話し始める。ちなみに岡田君は本名岡田銃五郎といい所属政党は民友党。しかしながら私との関係はむしろ良好であり議連内では幹事長職に就いている。ちなみに現民友党青年局長である。
「放置自転車なんですがこの問題はシビアであると考えています。特に、大阪、東京といった大都市では通行者に進路妨害となっており世論の自転車に対する不信感の増大の原因といっても過言ではありません。私としては自転車のための駐輪場を増やすことを提案したいと思います」
自転車のための駐輪場を増やすという案が出た。ただ、この意見に対して批判的な声が出てきた。次に手を挙げた人の意見だ。
「森本君」
森本君と呼ばれた人が手を上げ発言するために席を立つ。森本君こと森本一樹は野党第二党社会党所属の議員。歳は29才でありこの議連内でもっと若い新米議員だ。一部では社会党のホープまで呼ばれているらしい。顔もどこぞの俳優にも負けないほどイケメンでありどうして政界に入ったんだよと突っ込んでもいいぐらい整っている。余談だが女性によるファンクラブまでできているらしい。
「私の見解を述べさせていただきますと自転車のための駐輪場の増設につきましては昔から行っている政策であります。しかし長年やってきていますのに何の効果も得ていないではありませんか。そこはどう考えていますか? そうですね国土交通大臣政務官や国土交通副大臣を歴任した会長、佐藤会長はどう考えていますか?」
私に質問かよ。予想外の攻撃で驚いた。だが、私にも言いたいことはあるすぐに森本君に対する回答を言い始める。
「えぇーと。私の考えでいいなら答えさせていただきます。私が国土交通省の役人であった時から大臣政務官、副大臣とやってきました中で駐輪場の増設は何度もやってきました。しかし、私自身もその効果については疑問に思っていました。本日は欠席をしておりますがもう引退されまして現在この自転車議連の顧問を務めていただいている私の元上司で尊敬していました田中康博元国土交通大臣はある言葉を残しました。『人というのは不思議だな。駐輪場を作るとわざわざ駐輪場のない場所に自転車を放置する。この心理はどうしても読むことができない』この言葉は私も共感しました。放置自転車がなくならないのは自転車を放置したいというちょっとした悪戯心から起こるものだと考えております。これに対する政策としましても私一人の力では思い浮かばなかったというのが残念ながら現状です。恥を知ったうえでどうか皆さん良い意見を出してください」
私は謝罪をした。現実問題私自身がこの放置自転車対策に乗り出すための策がないのだ。これでは何にもならない。だから議連の会合を招集したという経緯がある。
「ありがとうございます」
森本君は特に追求することはなく席に座った。
その後、周りは急に静かになった。誰一人として良い意見が出ないのだ。放置自転車というこの問題は一番は人間の心理だと思う。
昔、副大臣時代に社会実験として駐輪場と人の行動という名で国土交通省で実験をしたことがある。その時、分かったことがある。なぜか人は駅の近くに駐輪場を作っているのに駐輪場がない駅から少しばかり遠くなっている路上に自転車を放置していたという結果が分かった。これでは駐輪場をいくら増やしたことでどうにもならない。人の心までは操るなんて不可能だ。どうして駐輪場に自転車を止めることをしないのかという心理はその人にしか分からないものだ。
会合は完全に止まってしまった。議事進行の金井氏はこの空気を呼んだうえで私とアイコンタクトを交わした。そして、口を開く。
「ええ、では今日はこの辺で終わりとします。各方々次回の会合までには意見を考えまとめてください」
そう言うと会合は解散した。私も前に置かれていた会長席から立ち上がり帰ろうと支度をする。そこに声がかかった。
「佐藤会長」
「何だ森本君」
私に声をかけてきたのは森本君だった。彼は笑顔で握手を求めてくる。私は特に断る理由などないので握手を交わす。
「流石の佐藤会長でも意見がないことがあるのですね。私実は佐藤さんのファンだったのですよ。昔神奈川3区内の大学に通っていましてその時の選挙演説を聞いて憧れていました」
「そうだったのか。それはありがとう。しっかし君が私のファンだと少し荷が重くなるな。君にはたくさんの女性ファンがいるではないか」
ハハハと乾いた笑いをする。森本君はいやいやと首を横に振る。
「私なんか顔で売れているだけですよ。まだまだ、政治家としては一人前ではありませんから選挙では比例当選ですからこれが私の実力ですよ」
「そんなこと言うなよ。私としては君は成長すると期待しているのだから。君の選挙区である北海道9区は民友党の田島健吾氏の牙城であるのだから仕方ないという面もある。これから頑張れば伸びはあるぞ。ただ、私としてはライバル政党だから君が代表になったら徹底的に戦うがな」
「やめてくださいよ。それに私には代表なんかの器ではありませんから」
お互い与党野党政党間の壁、年齢の壁関係なしにしばらく立ち話をしていた。おそらくは20分ぐらいだろうかそれぐらい会話をしていた。
「それでは時間をいただきありがとうございます」
森本君がお辞儀をする。私も楽しかったと言い連絡交換をしてこの日の用事は終わった。
これが最後の会合の内容だったが結局良い意見が出なかった。できれば選挙前に『脱自動車協会』を納得できるような政策を考えておきたかったがそれはうまくいかなかった。
それにしても、昔からの放置自転車の問題はいざ自分が当事者として対策に出てみると難しいものである。どうにかしたいのだができないのか。
ただ私のやることに変わりようはなくその後も今回の衆議院議員総選挙の投開票日まで自転車選挙をし続けた。街の中特に駅周辺では市民団体『脱自転車協会』の妨害活動もあった。主に演説中の罵倒、ブーイングなどなど。ただ、それらの妨害活動にも屈することなく選挙戦をやり続けた。
私の心の中ではいつか彼らを納得させられるような対策を立ててやると言う密かな決意を胸にしていた。
番外編を作らせていただきました。放置自転車は現代の問題の1つですがいざ考えてみると私はよい意見が思い浮かばなかったので微妙な終わり方をしています。この終わり方には明確にしろよという批判もあると思いますが私個人としてはこの終わり方には私の意見だけではなく多くの意見があるので無限の可能性というものがある。それを明示として終わらせたいと思います。
後々、また自転車について語りたくなったらまた番外編を作ると思いますが今回はこのあたりとさせていただきます。
感想、ご意見お待ちしております。