情現象の森
僕はとある森探索に出かけた。あまりに広過ぎて、自殺者しか来ないと言われる樹海である。
たまたま知り合いに、中腹部まで行って戻って来たという冒険家が持ち出して来たテーマだ。彼が狂っているとは思ったが、心配な事もあり同行した。
入口から見ると、よく見渡せない。それだけ悍ましさも感じて、圧倒された。いくつの人を呑み込んだのだろう。
僕と彼と、探索家の二人。計四人で行く事になった。僕以外は探索のエキスパートだった。だから、この樹海をスリルに感じているのだろう。
それだけ難解なダンジョンである事は明白だった。僕に誘いを出した彼が先頭に歩き出した。そのペースは何かに取り付かれた様だった。今日はよく晴れた昼の光も、樹海の中では薄暗かった。
ほぼ直線に進み、木の幹に切れ込みの印をつけながら歩いた。よく見れば古い痕も確認できる。つまり、帰って来た時と同じ通路を歩いているのだ。そして、キャンプ等で野宿をしたりして三日目。始まった。
三人がバラバラの方向に歩き出したのだ。特に問題があるはずでは無い。自分を取り残して彼等は去ってしまった。僕は忘れ去られたのか?
僕は必死で叫んだ。心持ち一瞬減速し、また走り出した。僕の声を聞いたのに、無視して物凄い速さで駆けて行った。
気付けば、自分の担いで来た食料が無くなっていた。彼等はそうして初心者に荷物を持たせて、見捨てて、楽して探索を繰り返したのだろう。
日が暮れる。辺りが見えなくなる。僕は、歩くしかなかった。後ろでは無く、前に。それは、ついさっきまで僕を導いて来た彼等の呪縛だった。道を外れたら、もうどこに行けば良いのか分からなくなる。戻れば跡を辿って抜け出せるのに、怖くて戻れなかった。自信が無かった。後ろから人の顔が白く浮かんで見えた。しかし、錯覚だった。
仕方が無いから、誘い出した彼の行った通路を探った。その時は既に夜だった。でも、前が明るい…。月明りが密集して、神秘的な空間が出来ていた。
しかし、それを見た僕は空腹な腹から胃液を吐き出してしまった。彼が泥鉄骨となり、横たわっている。顔の皮膚が、体が溶けだしている。何故こうなるのか?
しかし、ピクリとも動かない。様子を窺い、荷物を拝借しようとした。生きるのに欠かせない物を手に入れる為、仕方が無かった。仰向けの彼の背中の荷物を取る為に、上体を起こそうと近付いた。
途端に彼は喉を磨り減らした声で雄叫びをあげ、骨だけの腕で僕の首を締め付けた。僕は立上がって振りほどき、彼の肘関節が外れて横に倒れた。
僕の手に持った彼の両方の腕を地に落とした。その彼の腕は手の平で地を這い、鼠の様に暗闇へと入って行った。彼の胴体を残したまま…。あまりにショックだったのもあり、気が遠くなる。
気を失っていたのか、目を覚ます。森に入る時のメンバーは、何故だろう?三人揃っている。しかも二日目の夜のようだ。会話を聞いてるうちに分かった事だが、僕は途中で倒れたらしい。
火を囲んだ三人が、楽しく談笑している。しかし、その話は酷かった。僕の荷物から必要な物を抜き取り、はぐれた事を装い置いて行くという話だった。冗談めいたその会話は、僕を孤立させた。
どうする?さっきのはただの夢だ。しかし、夢の一部が鮮明に浮かぶ。置いて行かれた孤独感。僕の声に気付き、振り向かずに立ち去った彼等は…
彼等が介抱してくれていた事も忘れて、疑心暗鬼に陥っていた。しばらくして彼等はそれぞれ寝袋に入り、寝息を立てていた。
僕は1人、立上がり夜中の道を帰りだした。彼等から逃げたかった。来た道の印を確認し、音を消し、一歩一歩歩いた。2時間程歩いて、その道が間違いである事が分かった。
遺骨があった。切れ込みの印は途絶えてある。恐らく、彼がつけてきた痕だろう。僕の脳裏には引っ掛かりがあった。生き残りたい、つまり、切れ込みの印をつけてきた人が死んでいる…?僕は命の危険を感じ、急いで引き返した。
『僕』は確認しなかったが、探検家の遺体のそばには詩が残されていた。煤けて見えなくなっていたが、この部分は鮮明に見える。
「…冗談は 責任無くして 言うべからず」
なぞり書きになっている。遺体には怨念が残り、今も同じフレーズを書き続けている。三人の僕を呼ぶ声が聞こえる。捜してくれていたのだろうか?助かった。そう思った。
でも、助からなかった。だって、みんな疑心暗鬼になっていたから…。
人物の精神程度は低いものですが、逃避現象や搾取をイメージしました。しかも出来心が全ての発端です。勝手な(無責任な)行動で思わぬ返し技に填まる。そう、『勝手な…』がいけない。行動は必ず自分に返って来ます。人は見てます。それを考察して、現代社会で嫌われない・損をしない人になって下さい。そんな訳で…若造ですが、語らせていただきました。最後までお読み頂き有難うございます。