4.闇色猫
いつもと同じように制服に着替え、いつもと同じように自転車に乗り、いつもと同じように学校へ行き、いつもと同じように私は教室へ入った。
誰かに昨日のことを訊かれるだろうとかまえていた私は、逆に誰もそのことを訪ねようとしないため、肩透かしを食らった気分だった。早退の多い私のことだから、と、特に関心を持たなかったようだ。
席に着くと、既に登校していたマユミとモトコが近づいてきて、昨日問題になった雑誌を私の机に広げた。
「この記事、ちゃんと読んだの」
モトコはあいさつもなしにそう切り出すと、“二世の樹”のページを指さした。
「友達亡くして、その反動で物を創ることにすべてを注ぎ込んでる人だなんて知らなくて」
私には返す言葉がなかった。私にとってもそれは昨日知ったばかりのことだったから。
「モトとどうしてカナがあんなこと言ったのかって考えたわ。で、この人、カナの大切な人なんじゃないかって」
大切な人?
「カナエ、藤川君のこと、ホントはあまり好きじゃないでしょ?」
言いにくそうにモトコは言葉を紡いだ。マユミの方を見ると、彼女は床に視線を落とした。
彼女達は一体何を言おうとしているんだろう。あの男は私の心をかき乱す苦手な相手でしかない。
「昨日、初めてカナエの本音を聞いたと思ったの。カナエと付き合うようになって、ずっとあんたの態度に違和感持ってた。藤川君とくっついても、あまり嬉しそうじゃなかったし」
知らなかった。私のつけていた仮面はひび割れたものだったのだ。
いつからひび割れていたのだろう?
もしかして、最初からひび割れていたのかも知れない。
「もっと、自分のこと話しなよ。私達で良かったら相談に乗るよ?」
親切にされればされただけ辛かった。
「……どうして、そんなに簡単に手を差し伸べられるの?」
喉がかすれた声しか作り出してくれない。
「カナさ、私達に言ったよね。あんた達はただダラダラ生きてるだけだって。あのときカナに指摘されて、図星だったからあんな言い方しかできなかったけど」
マユミは顔を上げると真っすぐに私を見た。私に傷つけられて輝きを増した綺麗な瞳だった。
「人にはいろんな生き方があって、私の生き方はあんたみたいな奴でも見捨てないことなんだと思う。人を許すことって、誰にでも簡単にできることじゃないでしょ?」
そう言って、マユミは悪戯っぽく笑った。
「ごめんね、頼りなくて。でも、私、カナエやマユミと一緒に喜んだり、悲しんだりしたいよ」
モトコの真剣そのものの眼差しが、目を逸らすことを私に禁じる。
一つ一つの言葉が針だった。人を疑うことになれ過ぎていた私の心には、真っすぐすぎる彼女達の言葉が痛くて仕方がない。
疑え、という声が頭の中にこだます。と同時に、彼女達の差し伸べた腕をつかみたいという誘惑も沸き起こった。
葛藤に心が乱れる。
けれど、どちらの感情が強いかはあまりにもはっきりしていた。
私は何を求めていたのだろう?
一人で生きて行こうと頑ななまでに心を閉ざしていた。実際、そうしていれば他人に裏切られることも干渉されることもなかった。通り過ぎる人々の姿を、客観的に見ていることができた。
けれど、昨夜シトルフォーンはそのまま闇色猫に会わないように警告していった。
私に足りなかったもの。私が失っていたもの。
その答えを私は知っている。
知っていて、知らないふりを続けようとしていただけなんだ。
マユミ達の言葉に何か返事をしようとしたとき、始業のベルが鳴った。それぞれに「また後で」と呟いて彼女達は自分の席に戻ってゆく。
入れ替わりに町田先生が教室に姿を現した。糊の張ったグレーの背広を着た、四十代半ばの数学教師が教壇に立つ。
この教師は何故教職に就くことを選んだのか?
私だったら考えられない。けれど、それを町田先生は確かに選んだ。
人。
人と人。
人という種。
たとえそれが職業としてただ選んだものだったとしても、教え導いてゆくことを彼は選んだ。人と係わって生きて行くことの難しさを知っているはずなのに。
この教師はそれ以上の見返りを得ているだろうか。私を抱いた教師のように。それとも、見返りなど必要としていないのだろうか。
ぼんやりしている間にホームルームは終わり、教室は元の騒がしさを取り戻しつつあった。
一限目が体育ということもあって、更衣室の中でマユミとモトコと話したことは当たり障りのない話題ばかりだった。特に今朝の話題は出ない。
けれど、私は授業が全て終わると彼女達に何も言わず、逃げるように帰宅した。今まで否定してきたものを受け入れる準備が私にはまだできていなかった。
家に着くと私は荒々しく自転車を降りた。
玄関につながれた飼い犬が、感情的になっている私の様子の変化に気づいたのかいつもよりも甘えてくる。足に纏わり付き私の手を欲し、全身でかまってほしいと叫んでいるのだ。
ワザと邪険にそれを振りほどくと苦い思いが込み上げてきて、私は急いで自分の部屋へ入った。
体がズンと重い。
私はベッドの上に腰掛けると、放りっぱなしになっていたスケッチブックを開けた。絵を描くでもなく、白い画面をただ見つめる。私は取り留めもなく今日マユミとモトコに言われたことを考えた。
私にはエミとヤスコを許すことなんてできない。
私を踏みにじったあの子達。
虫の羽を毟ることを戯れとしか感じない、子供のような残酷さを持ったままの。
彼女達はきっと、その小さな過ちを自分で自分を許して忘れてゆくだろう。
けれど、私にはできない。
忘れることなんてできない。
忘れようとしても心の中に枷が埋め込まれてしまっていて、事あるごとにそれが私の心をギチギチと締め上げる。
死にたいと思うと同時に、彼女達への殺意が芽生えていたことも私は否定しない。
けれど、教師に媚を売ってまで、どうして私は生き延びることを選択したのだろう。生き続けたかったのだろう。
自分で鍵をかけていた扉に、恐る恐る手をかける。振り返るのも嫌な記憶に目を向ける。
父が生きていたころ私は人が好きだった。ヤスコのことも大好きだった。
家も近くて、幼稚園の頃はよく近くの田畑でシロツメクサを摘んだりして遊んだ。夏には一緒にヘチマや朝顔を育てた。秋には数珠草の実を集めてネックレスを作り、冬には一緒のコタツに入ってテレビを見たり。多分、両親や他の誰よりもたくさんの時間を一緒に過ごした。
それはとても幸せな時間だった。その頃のことを思い出すと、未だに輝いて見えるほどに。
認めたくもない事実。
それゆえに中学で裏切られたとき、尋常でない憎しみを抱いた。
人は信じてはいけないもの。
好きになってはいけないもの。
それなのに自分で出した結論に、何故今更裏切られたとき以上の痛みを感じなければいけないのか。
マユミとモトコはエミとヤスコとは違う。
そんな簡単なことが私にはわからなかった。同じ人間という生き物だからと割り切って、彼女達の個性に目を向けようともしなかった。
信じてもいいんだろうか?
僅かな可能性。けれど、それを否定するだけでは何も変わらない。
私は彼女達を受け入れるべきなのだ。
世界は変えられると気が付いたあの瞬間の喜びが胸に舞い戻ってくる。
可能性はみんな自分の手の中にある。玻璃でできた砂粒のように小さなものだけど、キラキラ光って。
私は生き残ることによって自分の手の中にある無数の可能性を選んだのだ。
居ても立ってもいられず、スケッチブックを抱えたまま私は家を飛び出した。
誰かに、今生まれた『何か』を伝えたかった。
厚い雲の垂れ込めた空は沈み行く太陽の光を遮り、幾筋もの天使の梯子を地上に渡していた。徐々に紅に変化してゆく陽光は、大空に青から黄色、橙から赤のグラデーションを描き私を圧倒する。
新鮮な色だった。それは今日を終えようとする空の色ではなかった。
茶店へ向かうのを一時的に忘れ、私は夕空に見とれた。
何よりも雲が美しかった。
まるで滝のように地面に向かって落ち込んでいる、巨大な雲。風に削られたのか、本当に低いところまで足を伸ばしている。
視界のやや右寄りにあるその雲は、夕日の光を吸収して七色に光っていた。これ程大きな彩雲を見たのは生まれて初めてで、私は知らず知らずその雲に向かって歩きだしていた。
不可視の糸に手繰り寄せられるように。ただその雲だけを瞳に映して。
自分を取り囲む景色の変化に気が付いたのは、雲の中に入り込んですぐだった。周りは白い霧に覆われ、足元もふわふわとおぼつかない。けれど、その霧の向こう側からは激しく風のぶつかり合う音が絶え間無く聞こえてくる。
風の渓谷。
ここは風の渓谷と呼ばれる場所だ。
初めから知っていたことのように確信する。道たる道は存在しなかったが、私は今まで進んできたようにただ真っすぐと霧の中を歩いた。
歩くにつれ動悸が激しくなる。耳のそばでドクドクと脈打ち、余計に緊張感が高まった。
「遅かったわね」
柔らかい女性的な声が聞こえて、私はいつの間にか下に向けていた視線を一気に上げた。
そこには小さな公園があった。ブランコと砂場しか遊具のない、本当に小さな公園。中央に設けられた藤棚の下のベンチに声の主はいた。
「あんたが闇色猫」
バスケットボールより一回りほど大きな猫が、座ったまま私を見ていた。闇色猫という名のとおり撫でれば青白い火花が飛びそうなまでに黒く、しなやかな毛並み。金緑色の艶やかな瞳は相手の心の裏まで見透かしてしまいそうに神秘的だった。
「闇色猫ヴィオーリア。そんなところに立っていないで、座ったら?」
面白そうに尾を揺らす闇色の猫。私は素直に従った。
「絵を持ってきたんでしょ? 見せてごらんなさい」
スケッチブックを持ってきていたことを思い出す。
「まだ、完成してないわ」
草色の表紙に目を落とし、私は呟いた。
「完成しているかどうかは問題ではないのよ」
ヴィオーリアはそう言うと私の手に飛びついて、スケッチブックを地面に落とした。ガリリッと、ペンキの剥げた木製のベンチが悲鳴を上げる。地面に落ちた衝撃で、スケッチブックからは小学生の頃の絵が飛び出した。
「ヤスコ……」
「ちゃんと完成してるじゃない」
小学三年生のときヤスコの似顔絵を授業で描いたものだった。正面に向かって、目一杯の笑みを浮かべている。この絵の存在を私はすっかり忘れていた。
「いい絵だわ」
水彩絵の具で丁寧に描かれた絵を見て、私は顔をゆがめた。
拙い筆遣いだけど、そこには当時持っていたヤスコのイメージが余すことなく描かれていた。
本当に、大好きで。いつでも、いつまでも一緒にいたいと思う程に大切な友達だった。
一緒に図書館に行ったり、同じクラブに入ったり。毎日が楽しくて仕方がなかった。
何故、彼女は私を裏切ったのか。
人の見方は様々で、どこかで誤解が生じても気づかなければそのまま時は過ぎてゆく。最初に間違いを犯していたのは、もしかしたら私だったのかもしれない。
ヴィオーリアは器用に爪でスケッチブックをめくってゆき、一番最近の絵を開くとじっとそれを見つめた。
「まだまだ“種”の段階ね、貴女は」
巨大な月の下にポツリと佇む人物を描いたページを指さしながら、ヴィオーリアはニァと鳴いた。
「対象とするものを通して心を伝えたいなら、もっとそのものを知ること。踏み込むこと。深く係わって傷つきたくないのなら描かない方がまだマシよ」
尾がパシンと地面を打つ。
「“樹”には程遠いわ」
猫はニンマリと笑うと、ベンチの上に元のように座った。
「貴女はどうしたいの?」
「私、描きたい。私の手帳には、まだまだたくさんのものが眠ってる。私が愛しいと思ったものを誰かに伝えたい」
体の中に熱が生まれる。熱くてたまらない。
「今選んだものを捨てた時点で、貴女はこの世界を失うのよ?」
「捨てたりしないわ。私はもう、自分から捨てたりはしない」
私はもう見つけてしまったのだ。私が私を支えるために必要なものを。
「次に会う時を楽しみにしているわ」
その言葉を最後に、猫の姿は薄れていった。風の音や周りを押し包んでいた霧もすっかりと晴れ、現実が戻ってくる。
私は“二世の樹”の喫茶店から五分もかからないほど近くにある公園のベンチに腰掛けて、誰もいない自分の隣を見ていた。スケッチブックは開かれたまま、ベンチの前に落ちている。無意識のうちにイメージの世界と現実の世界を行き来していたらしかった。
ヴィオーリアの口にした言葉を頭の中で反芻する。もっと描こうとする対象を知ること。踏み込むこと。
開いたままのスケッチブックに描かれた、黒く細長いシルエット。
私はスケッチブックを拾い上げた。表紙についた砂を払い、パタンと綴じる。
人を信じられなくなってから何を愛していいかわからなかった。だから、人に置き忘れられた、時に埋もれたガラクタばかり集めるようになった。そこに蓄積された人々の想いを拾い集めるように。
自分の道化じみた行動が愛しかった。
私はスケッチブックを片手に持ち替え、茶店に急いだ。
満ちた月が、東の空にうっすらと昇りつつある。
「おい」
と、声をかけられたので、私は顔を上げた。
「今年の次の年が何年になるか、お前知ってるか?」
いつもの黒いロングコートに、やはり黒色の丸いツバの付いた帽子をかぶった“二世の樹”は初対面のときと同じようにおどけてみせる。
「同じ答えを期待してるの?」
苦笑いしながら、私は首を傾げた。
「闇色猫に会ったようだな」
この間と同じ席で。
「何もかも知っていたような口調ね」
まるで本当に時が止まっていたかのように。
「同じようなことが前にもあったからな」
片方の眉だけ上げて、“二世の樹”は自分の胸をひとさし指で指した。
体に蓄積していた感情が転換してゆく。柔らかな感情に。
「あんたが?」
「はたから見てると、危なっかしいもんだよ」
ため息交じりにぼやく男。自分の過去を見つめているのか、視線が優しい。
「それ――絵を描いたのか?」
突然話を現実に戻し、男は椅子の横に立て掛けておいたスケッチブックに手を伸ばそうとした。けれど、私はその手を遠慮なく払った。
「完成したら見せる。だから、モデルをしてくれない?」
都合のいい話。けれど私はもう決めたのだ。本当のことだけを求めることを。たとえそれでどんなに傷ついたとしても構わない。偽りのものほど空ろで哀しいものはないのだから。
「どうせならシトルフォーンにも頼んでみたらどうだ?」
面白そうに提案する“二世の樹”。内に秘められた承諾の言葉に、私は歯を見せて笑った。
「それはいい提案ね」
会話することが楽しかった。こんなに自分がコミュニケーションに飢えていたなんて知らなかった。
普通に話して、笑って。その一つ一つが、こんなにも大切だと感じる。一人のままでいることを選んでいたら、絶対にこんな思いを味わえなかった。
「服も脱ごうか?」
「バカ。調子に乗らないでよ」
「吹っ切れたみたいだな」
不意に涙が零れた。泣くなんて自分でも思っていなかったから、私はひどく戸惑った。
「何か言いたいことがあってここに来たんだろ?」
穏やかな口調の男に、私は頷くことしかできなかった。
「そろそろ店が混む時間だ。こっちに来い」
スケッチブックと私の腕をつかみ、“二世の樹”は私を二階へ引きずっていった。されるがままになっているのに、抵抗する気になれない。
二階の部屋は仄暗かった。幾つかの棚が並べられ、そこには男の作品と思われるものがいくつか飾られていた。けれど、部屋の細部は涙でにじみ、よく見えなかった。
「闇色猫が何か言ったのか?」
私は勧められた椅子に座ると、無言で首を振った。
「俺にどうしてほしい?」
私は顔を上げた。涙で相手の顔がぼやけている。
「甘えさせてやろうか?」
男は笑いながら言った。その言葉で、私は自分のしていることに気が付いた。幼い子どもみたいだ。
「ヤダ」
「ここまで来て逃げるなよ」
引き寄せられて、相手の体温の高さに目眩がした。
「目を閉じろ」
意地でも綴じまいとしていたら、掌で目の辺りを押さえられた。次いで、握っていた掌の中に何かを押し込まれる感覚。
「見てもいいぞ」
「これ」
掌の中には兎のお守りがあった。それは彼と彼の友人をつなぐ絆に他ならない。
「お前にやる。この先、迷わないようにな」
「でも」
困惑したまま白い兎の顔を見つめると、その彫り物は仄かな笑みを浮かべたように見えた。
「いいんだ。シトルフォーンもお前を気に入っている。これからのはなむけと思え」
その声はとても優しく響いた。
「それって、私のこと見ていてくれるってこと?」
「俺と同格になれるかどうかはお前次第だがな」
闇色猫ヴィオーリアの言葉をふと思い出した。“種”は成長することによって“樹”になるのだろう。
「そんなの、すぐよ」
どれだけ隔たりがあるのかはわからない。けれど私は私の可能性を信じる。信じられる。
「あまり自惚れていると足元を掬われるぞ?」
涙はいつの間にか止まっていた。掌を包む温かい存在が、安心感をもたらしてくれるからかもしれない。
「その時は芒が支えてくれる?」
私が本名を知っていたことに、男は驚いたようだった。
「でも、年齢考えたら芒ってやっぱり変態よね」
「ボロクソ言うなよ」
“二世の樹”、芒はからかうように笑った。
「その俺に自分から会いに来たのはどなたかな?」
「そっちこそ、自惚れないでよ」
この人は清も濁も含めて私を受け止めてくれる。何故かそう思えた。
「私、ホントに一人で生きてこうと思ってたんだよ?」
全てに絶望していたから。
「でも、絵に自分の感じたものを表現しようとしたとき、誰かにそれを伝えたかった」
大きく深呼吸をして、私は続けた。
「そう気付いたとき、わかったの。私は一人で生きられるはずがないって。欠けている部分は私一人じゃ埋めることが出来ない」
マユミとモトコの顔が思い浮かぶ。私と彼女達は同じもの。彼女達が持っていない物を私は持っているし、逆に私が持っていないものを彼女達は持っている。
もしかしたらそれはエミやヤスコにも言えた事なのかもしれない。ただ、形が合わなかっただけで。
「だから、モデルの件よろしくね」
それが照れ隠しだと芒には分かったのだろう。無理に掘り返すことなく話を会わせてくれる。
「お手柔らかに」
芒に出会えて良かった。
もし、もう一度生まれ変われるとしても、私はきっと同じ人生を繰り返す。憎しみも悲しみも、そして過ちも、私が構成されるには無くてはならない糧だった。
再びイメージの世界を広げてみる。
月も砂漠も、それ自体が輝きを発しているような金色。透きとおった青い空からは異国の清い音楽が零れ落ちる。
駱駝を率いた旅人達が地平線の辺りを通り過ぎ、風が彼等のターバンを幾度となく閃かせる。
その風景を見つめる私は一人じゃない。もう一人でなくてもいい。
芒がそっと私を抱き寄せる。
心臓が、互いの時間をトクトクと刻みつけるのがわかった。