聖女の豊穣の力で命を削って祈り続けたら、髪が真っ白になって捨てられた件 ~エド皇帝の甘い言葉に騙された私ですが、聖王様の元で癒されて新しい恋が始まりそうです~
なんてご立派な皇帝陛下エド様。
私はこの方の為なら、命を削ってヘル帝国の為に祈りを捧げるわ。
金髪碧眼のエド皇帝は凄い美男だ。
歳は28歳。若き皇帝は帝国の日の光と呼ばれ、帝都の広場には銅像が立ち、人々に崇め奉られていた。
だから、帝都の孤児院にいたヘレンティアナは聖女の力を持つものとして連れて行かれ、城でエド皇帝に、
「お前は私の側妃としてこれからは仕えて貰う。聖女の力を持っているそうだな。私の為にその力を存分にふるってほしい」
そう言われた時に、とても光栄に感じた。
帝都民皆が崇め奉っているエド皇帝のお役に立てるのだ。
ヘレンティアナは長い金髪に緑の瞳のまだ16歳の少女だったが、頭を深く下げて、
「皇帝陛下の為に精一杯仕えさせて頂きます」
光栄で光栄で胸が震える。
側妃として褥に呼ばれて、その身体を捧げた時も、とても嬉しくて嬉しくて。
美しいエド皇帝は、ヘレンティアナを褥でとろけさせるのも上手かった。
「愛しいヘレンティアナ。私の為に役に立っておくれ。なんて可愛らしい」
「エド様の為なら、何でも致しますっ」
胸がドキドキして、本当に幸せで。
エド皇帝の胸に縋って、ヘレンティアナは喜びの涙を流した。
でも、初めての褥の翌日から、ヘレンティアナは帝国の為に祈りを捧げる事を命じられた。
後宮にある祈りの間で、一日、二時間、祈りを捧げるのだ。
聖女が持つ豊穣の力。
ヘル帝国が潤いますように。
ヘル帝国全土に心を飛ばして、広げて、作物が良く実りますようにと祈りを捧げる。
祈った後は凄く疲れた。
この疲れる祈りを毎日毎日、二時間ずつやるのがヘレンティアナの仕事だと言われた。
エド皇帝が望んでいるのだ。
どんなに疲れてもやらねばならない。
エド皇帝には正妃である皇妃アデリーナと、五人の側妃達がいた。
彼女達はヘレンティアナに対して、冷たく当たった。
皇妃アデリーナは、
「平民のくせに、聖なる力を持っているからって、自惚れない事ね」
他の側妃達も、
「ああ、何だか臭いわね。平民の女の匂いかしら」
「本当本当、嫌だわ」
ヘレンティアナの部屋にはメイドもいない。
誰も平民だからって仕えたがらないのだ。
ただ、食事だけは運ばれてくる。
一応、豊穣の力を持つ聖女だ。
死なれたら困るのだろう。
サビシイサビシイサビシイ。
エド皇帝しか話す人がいない。
数日に一度、褥を共にする。
毎日祈りの後はごっそり疲れる。
いつの間にか、長い髪に白髪が混じるようになり、痩せて来てしまった。
それでも、エド皇帝に、褥で抱かれながら優しい言葉を囁かれる。
「愛しているよ。ヘレンティアナ。私の為にこれからも祈っておくれ」
「私もエド様の事を愛していますわ」
愛しさがこみ上げる。
ヘレンティアナはエド皇帝の為ならば、祈りを頑張ろう。そう思ってしまう。
愛してる愛してる愛してる。
こうして抱かれている時だけが幸せだ。
「エド様。貴方の子を産みたいわ」
こんな痩せた身体で子が産めるなんて思えないけど、彼の子が欲しかった。
エド皇帝はヘレンティアナから離れて、
「子はすでにいるから、お前が産む必要はない。これからも私の為に祈っておくれ」
そう言うと、背を向けて部屋を出て行ってしまった。
何かまずい事を言った?
怒らせるような事を???
何だか最近、身体が怠い。
祈りを捧げれば捧げる程、疲れてしまって。
日に日に体調が悪くなる。
髪も真っ白になり、さらに痩せて歩くのもふらふらで。
自分の祈りの力が弱って来ている。それを感じてしまって。
そんな中、新しい聖女という女が連れてこられた。聖女ミーナ。
下位貴族の令嬢だというこの女。
私が役に立たなくなってきたから?
新しい聖女を?
ヘレンティアナは聖女ミーナを誘って、
「一緒にお茶でも飲みませんか?」
「喜んで。私、不安だったの。貴方が聖女ヘレンティアナね」
この女が来たから、自分は捨てられる。
一生懸命、エド様の為に祈って来たの。
愛しているから。抱かれている時、幸せだった。
だからだからだから‥‥‥
お茶に毒を入れた。
ミーナが苦しみだした。
「苦しいっ…誰かっ」
血を吐いて倒れた。
使用人達が部屋を開けて飛び込んで来た。
苦しんでいるミーナを慌てて、外に運び出す。
エド皇帝が何事かと飛び込んで来た。
近衛騎士に、ヘレンティアナを拘束するようにと命じる。
「ミーナを殺そうとしたな?」
「だって、私はいらないのでしょう?もう力が弱まってきたから。エド様。私を捨てないで。頑張って祈るから。私、エド様の子が欲しいの。エド様にずっと愛されたいの」
「汚い平民の癖して図々しい。聖女だから、甘い言葉を囁いていただけだ。私と褥を共に出来た事を光栄に思え。連れていけ」
牢に入れられた。
冷たい後宮にある地下牢。
寒い寒い。寒くて仕方ない。
涙が零れる。
寒い寒いわ。
このまま、私は死ぬのかしら。
死ぬ前に、最後の祈りを捧げよう。
帝国の作物が枯れますように。って。
祈ってもいいでしょう。
その時、牢の前に白銀の鎧を着た銀髪の青年が歩いてきた。
彼の顔に見覚えがあった。確か彼は‥‥‥
「久しぶりだな。私は聖騎士デリウス。聖女ヘレンティアナよ。その祈りは破滅の祈りだ。祈ってはいけない」
「ああ、遠い昔に貴方に会った事があるわ。私は捨てられた。聖女の力がないからって。私はエド様を愛していたの。一生懸命お祈りした。でも、新しい聖女が来たからいらないって。もう身体も弱って力が出ないの。死ぬ前に最後の祈りを‥‥‥帝国を破滅させたい」
「辛かったな。苦しかったな。だが、忘れてはいけない。私と出会った時に見たあの景色を。お前は忘れているのではないのか?」
遠い昔、孤児院に居た頃に、デリウスに会った事がある。
彼は丘の上に馬で連れて行ってくれた。
帝都の景色を見せてくれて。
「素晴らしい景色だろう。夕焼けに染まった帝都。この景色を忘れるな。この帝都の中に沢山の人達が住んでいる。一人一人が生きている。皆、幸せを夢見て一生懸命、足搔いているんだ。その事を忘れるな」
「何故?私にこの景色を?」
「そなたはまだ幼い。だが、16歳の歳になった時に、聖女の豊穣の力が出現するだろう。その力は帝国を富ませる力。だが使い方を誤ると破滅させる力。私はヘル帝国を破滅させたくはない。いいな。この景色を忘れるな」
そう言われた事を思い出したのだ。
ヘレンティアナは涙を流して、
「忘れていたわ。貴方は私に忠告をしてくれたのね。ヘル帝国の人達には罪は無いわ。私が破滅を祈って、帝国が滅びてしまったら沢山の人達が苦しむことになる。有難う。私を止めてくれて」
「ヘレンティアナ。我が聖国に来るがいい。聖王様が救って下さるだろう」
「聖王様が?」
「ああ、そなたのような聖女を救うのが聖王様だ。だが、その前にそなたは償う事があるはずだ」
「新しい聖女様の命を取ろうとしたわ。だって、エド様の傍にいられなくなると思ったから」
「聖女ミーナは苦しんでいる。そなたの盛った毒で。毒を吸い出してやるといい。まだ残っているその力で」
デリウスに連れられて、ヘレンティアナは後宮のミーナの部屋に行った。
いつの間にか、牢から、後宮のミーナが寝ている部屋に立っていたのだ。
ミーナの手をそっと握り、残っている力を注ぐ。
ミーナに向かって謝った。
「私のした事は許されない事。でも、取ろうとした貴方の命、全力を使って、癒すわ」
癒しの力は得意ではない。
でも、気力を振り絞って力を注ぐ。
毒を吸い出して、その命を留める力を‥‥‥
苦しそうに寝ていたミーナの寝顔が安らかになっていく。
ヘレンティアナはほっとした。
もう、聖女ミーナは大丈夫だろう。
ヘレンティアナはデリウスに、
「エド様に会ってから、聖国に行きたいわ」
デリウスは頷くと、ヘレンティアナの手を取った。
いつの間にか、エド皇帝が皇妃アデリーナと茶を飲んでいる部屋に立っていた。
エド皇帝は驚いたように、
「牢に入れたはずだ。いつの間に」
デリウスが進み出て、
「聖女ヘレンティアナは我が聖国で預かります。聖王様の元で暮らすことになるでしょう」
エド皇帝はデリウスに、
「この女は聖女ミーナを殺そうとした。処刑する事になっている」
ヘレンティアナは、
「エド様。愛しています。エド様。私はエド様の事が」
皇妃アデリーナが、
「汚らわしい。平民の分際で。聖女でなければ後宮に住ませなかったわ」
エド皇帝も、
「聖女だから、褥も共にしてやった。側妃にしてやった。力のなくなったお前など。
処刑するつもりだったが、聖国が乗り出してきたのでは仕方ない。もう二度と顔を見せるな」
悲しかった。
好きだったエド皇帝陛下。
命を削って、一生懸命祈ったのに。
いらないと言われた。二度と顔を見せるなと言われた。
涙がこぼれる。
デリウスが優しく手を握って、
「さぁ行こうか」
青くて綺麗な瞳のデリウス。
そうね。憎んではいけないわ。
エド様の事を忘れて行かなくては。
城の外に出た。
門の前で振り返った。
誰も見送りに来ない。
荷物だってほとんどない。
せいぜい着替えが少しだけだ。
それでも‥‥‥
好きだったな。今も好き‥‥‥
エド様が好き。
デリウスが、肩に手を置いて、
「さあ聖国に行こうか」
そっと目を塞がれた。
涙がこぼれる。
多分、一生忘れない。
さようなら。エド様。さようなら帝国。
憎しみを捨てなくてはならないわ…‥愛しさも…‥
さようなら。
とある酒場にて、銀髪の美男の男性二人がカウンターでワインを飲んでいた。
「という訳で、ヘル帝国に屑の美男の皇帝がいるぞ。といっても、さすがに屑の美男をさらう変…辺境騎士団でも皇帝はさらわないな」
聖騎士デリウスの言葉に、変…辺境騎士団情報部長のオルディウスは、ワインを手に、
「確かに。だがそちらの聖王様はお怒りだろう?」
「聖女ヘレンティアナは、聖王様が特別に加護を与えた聖女だ。聖王様の神罰が下るだろうよ」
一月後、庭で鍛錬をしていたエド皇帝は雷の直撃に合い、亡くなる予定だった。
そう、聖王はエド皇帝の破滅を祈っていた。
祈っていたのだが、いきなりエド皇帝は行方不明になった。
怒り狂った聖王の雷は後宮の庭のエド皇帝の銅像に直撃して粉々になった‥‥‥
ヘレンティアナは、今は、聖王の元で、身体を回復させ、聖国の人々の幸せを祈っている。
他の聖女様達もとても優しくて幸せだ。
聖騎士デリウスが時々、訪ねて来て気を使ってくれる。
「ヘル帝国は新しい皇帝が立ったそうだ。エド皇帝は‥‥‥変…辺境騎士団がさらっていったらしい。聖女ミーナは立派に豊穣の聖女の仕事をしているよ。無理しない範囲でね」
「そうなの。よかったわ」
心から安堵した。
デリウスはヘレンティアナに向かって、
「今度、聖都の景色を見に連れていってやろう。丘の上から見る聖都はヘル帝国の帝都に劣らず美しいぞ」
「有難うございます。きっと綺麗なのでしょうね」
「その時に、渡したいものが‥‥‥」
胸がドキドキする。
新しい恋をしてもいいのかしら……
デリウスの訪問が最近、待ち遠しくて。
彼と話しているのはとても楽しい。
「エド皇帝の側妃だったのよ。私。それでもいいの?」
「ああ、構わない。最近は綺麗な金髪になってきたね。少し、ふっくらとしてきた。安堵しているよ」
そう言われて手を握られた。
もうすぐ春なのですもの。
新しい恋をしても?
デリウスが両手でヘレンティアナの手を握って来る。
その温かさにヘレンティアナの心は幸せに包まれるのであった。
とある変…辺境騎士団
「結局、さらってきてしまった」
「ヘル帝国の皇帝だぞ。大丈夫か?」
「なんかあったら騎士団長がなんとかしてくれるさ」
「さっそく三日三晩だな」




