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手がかりは遺した言葉




「いやです、俺、茜と一緒にやるなんて死んでも嫌です!」


「ガーンっ…………。琥珀〜、そこまで言わなくてもぉ……。」



 死んでも嫌です、の一文が相当刺さったらしく、しっかりとセルフエコーをかけながらいかにもショックそうに膝から崩れ落ちる茜。そんな様子を目にしても俺は氷室に向かって頭をブンブン横に振る。


 どんなお題を入れ込んでくるかわからない、ましてやあれだけ祐先輩に危惧される茜と一緒になんて何をしでかすかわからないのだ。ただでさえ予測しづらいのに、慣れない演技の面じゃもっと予測しづらい。


 氷室はそんな俺の考えを読んだかのようにこう言った。



「今回やるエチュードだけじゃなく演技って予測できたらつまらないと思うよ。演劇におけるアドリブって人によって何が起きるかわからないからこそ、面白いんだ。だいたい、相手がどう出てくるか読めないと言うリスクは初めてやる琥珀くんに取っては誰が相手でも等しいと思うけどね。」


「でも、普段から何やらかすかわからないのに……。」


「いやあ、それほどでも〜。」


「……悪いけど一ミリも褒めてないぞ。」



 茜が勝手に照れてニヤニヤとしているなか、氷室は「そう、それだよ。」と頷く。



「茜くんに対してはそう言った危機感が他の人よりあるよね。さらに言ってしまえば僕たちや先輩には多少の遠慮や配慮があるけど茜くんにはない。けれど、それは茜くんと琥珀くんにはある程度の信頼関係があるということにもなる。」



 そうきっぱりと言い切る氷室。クラスも違う上、特段俺とたくさん話す方でもないのに俺と茜の関係性をとてもよく見ていることに驚く。



「おそらく先輩たちや糸音、くるみや僕が相手だと役じゃないのに無意識に敬語出しちゃったり、遠慮がちになってしまうと思うんだ。普段から扱い慣れてる茜くんに対してなら、多少手荒な真似をしても大丈夫だよ。」


「うーん、そうなのか?」


「うん。なんならいつもと同じような感じでいいと思う。何馬鹿なことしてるんだろう、みたいな。気負わずに自分が思ったこと、考えたことをひとまずは素直に出してもらえればそれで良いんだ。」



 それに、と一息入れてから氷室は言葉を続ける。



「僕からしたら一番読めないのは琥珀くんだよ。他の人たちは、こういう傾向がある、みたいなサンプルがあるけど琥珀くんがどう自分の考えを体現してくるかは僕にもわからない。だからどこまでやって良いのか考えてしまう、変に萎縮してしまう相手よりも、まずは、普段の自然体な琥珀くんを見せてもらえた方が観客としても面白いからね。」



 確かに氷室の言葉は一理ある。演技自体初めてな俺が一番読めない存在であることには変わらないし、俺もわからない。ならまずは試しに、普段と同じ感じから入ってみようという考えに特に反論はなかった。


 そしてそれはいずれ、慣れない人たちと組むこともあるという暗示でもあると捉えられた。


 今は自分のままでいいけれどいつか自分ではなく与えられた役としてどうすべきか考えて演じなければならない。相手が例えば茜だった場合、茜ではなくその役として見なければならないということだ。


 演技をするのにまだ乗り越えなくてはいけない壁がいくつもあることを思い知る。遊びだとか息抜きだとか言えるのは、そう言った基本的なことができてからだ。とにかく今は、俺にできることで全力を尽くさなければ。


 そう考えていると、俺と氷室の会話を聞いていたであろう茜が我慢ならないとばかりに口を開く。



「……あの、氷室さん。なんかあなたもオレに対して当たり強くないですか!?」


「そうかな?ちゃんと茜くんのこと信じてるからこそ言ってることだよ。」


「……。」



 黙ってしまった茜を気にも止めず「とにかく、琥珀くんのことよろしくね。」と言い残し、氷室はすでに相談タイムに入っていた他の2組の様子を見に行った。


 残された俺と茜。これからどうしようかと頭を悩ませていると、隣から「へへ、えへへ……。」と聞くに耐えない照れ笑いが聞こえてきてギョッとする。隣を見ると茜は何故か目をキラキラと輝かせていた。



「氷室もオレのこと信じてくれてるんだって〜。えへへ。」


「えへへって、気持ち悪……。」


 

 俺が包み隠さずに怪訝な顔をしても、上機嫌にくねくねとし続ける茜。なおさら気持ち悪い。


 褒められた(?)だけでこんな状態になってしまうなんてあまりにも単純すぎる。そんなだから扱いやすいと言われても何も文句は言えないのだ。俺はそんな茜の様子を見て、こいつとペアでやることに改めて不安しかなかった。


 





「ひとまず、打ち合わせといっても何をどうすればいいんだ?」



 俺がそう切り出すと、茜はぴょんっと机の端に腰掛け、満を持して口を開く。



「基本的には2パターンだな。お互いにお題を明かしておくか、明かさないか。まあ、もちろんお題はお互い知らない方が面白いっちゃあ面白いけどー。」


「完全、ノープランってことか?」


「そうそう!相手がどうしようか大慌てしてるところ見るの面白いんだよなぁ〜。」


「……お前、正気か?」



 つまりはぶっつけ本番がスタンダード。即興で考え動くことに慣れていない俺がそんなことできるわけがない。


 俺の顔からどんどん血の気が引いていくのを見たのか茜は慌てて訂正する。



「流石にいくらオレでも初心者にはやらねーよ!?」


「だよな、よかった……。ならお題は教えてくれるんだよな。」


「もちろんだ!オレのお題は、これだー!」



 そういって茜はドヤ顔で、お題の書かれた紙を俺の眼前、本当に目に入りそうなくらいの近さまでずいっと突き出した。俺は慌ててのけぞり、距離を取ったところからお題を見る。



(……食パンを口にくわえながら走る、侍?)



 俺と同じぐらいカオスなお題に、一瞬思考が停止する。


 俺のお題はミレミラに変身してしまった男子高校生。侍と高校生を掛け合わせるだけでも一苦労しそうなのに、さらに厄介な前置詞のおかげで混乱しそうなのは明白だった。


 というか、なんでこいつはこんなとんでもないお題引き当てといてドヤ顔なんだ。



「琥珀は……、ほうほうほう、ミレミラに変身しちゃった男子高校生ね……、ふむふむ。」



 俺がげんなりとしている間に俺のお題を見たらしい。茜は頷きながら何か色々と考えている。


 そんな茜を横目に俺はスマホを取り出す。



「俺ミレミラ全然わかんないんだけど、調べるのってあり?」


「あぁ、それは全然いいぜ。ちなみにそのお題書いたのオレな。」


「……は?」


「いい感じにお題が事故ってくれて嬉しいぜ〜♪」


「茜、お前あとで覚えておけよ。」



 なんで女児向けアニメ作品をお前がお題にするんだよ、とキレそうになるが今は調べるのが優先だ。ここは一旦堪える。


 一口にミレミラと検索しても、シンプルに白黒な初代から音楽、お花、スイーツ、宇宙、魔法使い、お母さんなどなど様々なモチーフをテーマにしたものまで、歴代のシリーズがわんさか出てきてどれを参考にすればいいかが定まらない。



「なぁなぁ、琥珀。迷ったら最新作の決め台詞言ってくれよ〜。」


「最新?どれだよ?」



 茜は慣れた手つきで最新作のページを検索し、俺に見せてくれた。



「名探偵ミレミラ……、どんな謎も淑女的に解決?」



 探偵がテーマだという今作は探偵である主人公たちのみならず、敵方にもそのヒロイン戦士、ミレミラがいるらしい。最近の戦隊モノはシリーズが続くにつれ飽きないように、かなり工夫が凝らされているんだと驚かされる。



「てかなんでお前そんなこと知ってるんだ。見てんのか?」


「見てたら悪いのか!?戦隊モノと仮面のヒーロー見るついでに見ちゃうんだよ!それに今回は主役のミレディ・ミスティック/明咲エルメ(あかさきえるめ)役をオレの推しである緋坂結月(あけさかゆづき)さんがやっててーーーーー。」


「……あー、はいはい。そうですね、大変お詳しいようで〜。」



 大きいお友達の無駄、いや長話が始まった。この場においては聞き逃さない方がいいのかも、とも思ったりしたが設定などは公式ホームページを見た方が早いだろう。いつも通り右から左に流す。


 ひとまずその“ミレミラに変身してしまった”の部分に必要そうな知識は得ることができた。問題は男子高校生が変身する流れをどうするかだが、これは茜がどう出てくるかによって大きく変わってくるだろう。どうにかして男子高校生とわかるようにしなければ。


 俺が思い悩んでいる間も茜は「どうしよっかなぁー、拙者、食パンくわえながら走ったことないでござる〜。」と何だか楽しげだった。気楽に、と言われても考え込んでしまう。



「じゃあみんな!そろそろ始めるよー!前の方ステージにして、集合〜。」



 とうとう相談タイム終了のようで、有栖川先輩から声がかかる。茜は、そういえば、と話を切り出す。



「基本ぶっつけ本番で始めるけど、流石にどっちから仕掛けるか決めておいた方がいいな。」


「仕掛ける?何を?」


「最初の一声だよ。どっちかが何か始めなきゃ物語は始まらないだろ。」



 確かにそうだ。今の俺がみんなの前に出てもオロオロして終わるのが目に見える。ここは茜に一任するのがベストだろう。



「……俺はどう始めたらいいかわからない。だから、茜。頼んだ。」


「もちろんだ!ちゃーんとオレからのパス受け取ってくれよな!」



 もうこいつを信じるしかない。そう覚悟を決めて親友を見ると、とても得意げな笑顔で頷いて拳を突き出してきた。俺は同じように拳を出してコツンと軽く突き合わせる。


 ……茜も信じてくれている、気がする。だったらもう全力でやり切るしかない。









 どのペアからやるか、それも俺にとってはかなり重要だった。


 俺と茜のペアは氷室の温情(?)により最後にしてもらい、残った2組でジャンケンをした結果、一番手は黒木&白鷺ペア、二番手が有栖川先輩&祐先輩のペアとなった。



「さ、やるわよ。」

 

「こはくんにお手本見せてあげよ〜。」



 2人とも気合いは十分だ。俺らは空きスペースに椅子を自由に配置し、見守る。



「じゃあ、くるみちゃん、糸音ちゃん準備はいいかな?3、2……」



 1は言わずその間を取り、キューの合図を手を差して伝える。有栖川先輩の一言で第一戦は始まった。


 まず行動を起こしたのは黒木だ。何故か爬虫類並に低い四つん這いの姿勢でステージとなっているスペースの真ん中まで出てきて、手を広げた状態で時折腕を左右に振って何かをよけているようにも見える動きをする。これだけでは場所も分からず何をしているのかは全く推測ができない。(ちなみに今日は動くことを想定して運動着になっているのでそこは安心して欲しい。)


 あの姿勢をキープできるのも不思議だが、何も言葉を発さないところを見るに、人間ではなく本当に爬虫類か何かだと俺は予測する。そしてそんな黒木の様子を見て隣に座っていた茜が「そういうことか、あいつ……笑笑」と必死に笑いを堪えていた。



(……茜にはこのお題がもうわかったのか?)



 現時点で俺も先輩方もピンとくるものはない。


 もう一度よく目を凝らしてみる。よくよく見れば手の動きが独特な気もする。しかし想像力の乏しい俺はその動きの答えを見つけることができない。

 

 そうこう考えているとその場に白鷺が入ってくる。白鷺は椅子を持ってくると恐る恐る上に乗って、辺りを見回す。こちらも何やら下を見て怯えている様子だった。



「あ、アニョハセヨ〜、くるみ、いむにだ〜。」



 自撮り棒を持っているかのような仕草に口を開いたかと思えばいきなり韓国語の挨拶。

 

 とりあえず喋ったことで人間であることに安堵する。常に笑顔で周りをひたすら気にしていて、持っているものに向かって手を振ったり、はたまた周りに向かって投げキッスしてみたり、時折見た目を気にするような動作をすることから有名人か何かかと思っていれば急にうずくまる。



「こんな高いトコロ飛ぶの怖すぎるヨ〜。湖の中で泳いでる子たちにも悪いネ〜。」



 気にしているのはおそらくカメラだろうか。韓国だから韓国人、有名どころだと俳優かアイドルと予想をする。

 

 問題は状況だ。お題に書いてある単語を出してしまうわけにはいかないから濁しているところを見るに、単純に橋の上からバンジージャンプをする、とかでもあり得そうだ。


 そこでふと気がつく。白鷺のいる位置が地上ならば、さらに下にいるはずの黒木は湖、水中で暮らしている生物なのかもしれない。



(水中で暮らす、爬虫類……っぽい、もの?)



 爬虫類っぽいものというと、結構限られてくるが俺の中ではパッとトカゲとかイモリぐらい出てこない。


 白鷺は“高いところが苦手な韓国の有名人”とみれるが、黒木がわからない。“水中を泳いでいる爬虫類”だとしたらお題的にシンプルすぎるような気がする。


 そこで物語は動き出す。



「あ、あぁ〜っ!」



 急に手元を滑らせたようで、下の湖に持っていたカメラを落としてしまったようだ。



「最新機種……、せぶんてぃーん高かったのに〜。」


 

 そう項垂れる韓国人白鷺を横目に、上から落ちてきたものを爬虫類黒木が見つめ続ける。

 

 床に落ちたと見るや否や黒木はその落ちてきたものを見て、右手でその場所をべしべしと叩きながらかくかくと首を動かしている。



「…………。」


「あ〜、お願い壊さないでぇ〜。」



 そしてその落ちたものに興味がなくなったのか首を傾げて、ふいっとその場から去ろうとする。どこか見て見ぬ振りをしようとしている感じだ。


 俺はその動きのぎこちなさに見覚えがあった。


 自分が悪いとわかっていながら全力で回避しようとする親友(あかね)はよくこんな感じだ。悪いことをしてしまったが素直にいうと怒られるから言いたくない。全身から罪悪感をオーラを感じるから、嫌な予感を察知してしまうのだ。


 この場合、白鷺が持っていたものはカメラ、自撮り棒に取り付けられるタイプで、しかもせぶんてぃーんと呟いていた。せぶんてぃーんとつくカメラ機能を備え自撮り棒につけられる媒体。一つしか思い当たらない。


 そしてさらに壊さないでという言葉、これはもしや。



(もしかして、どちらかが俺の書いた“スマホを壊してしまった”を引いたのだろうか。)



 だとするとどっちがこの場合当てはまるのかが重要になる。白鷺が水に落として壊してしまったのか、それともその媒体が気になりすぎて黒木が力技で壊してしまったのか。


 もちろん似たようなお題で“水没させた”もあるかもしれないが、そうなると白鷺にしか当てはまらなくて黒木の状況がますますわからなくなる。だからーーーー。




「はい、そこまで!」




 有栖川先輩の声がかかり、意識が一旦戻される。



「はー、疲れた。この体制きつかったのよ。」


「かむさはむにだ〜、いとちゃん♪」



 若干疲れているもののやり切った表情の黒木と楽しげな様子の白鷺。


 一方のこちらはまだまだお題についての確信が得られていない。この状況で推測タイムが始まるのか。



「じゃあ、2人にお題の予想がついた人は自由に発言をどうぞ。」



 そう氷室が促すと、みていた俺、祐先輩、有栖川先輩は口を開く。



「多分白鷺さんは高いところが怖いんだよね、挨拶が韓国語、だから韓国人だとみていいのかな。」


「カメラ持ってたからインフルエンサーかなぁ、自撮りスタイルだったし。」


「俺も概ね同じです。けど、黒木の動きに確信が持てなくて……。」


「それは俺も。水中で暮らす四つん這いの生物だとある程度限られてくるんだけど、何をしてるかわかんなくてさ。おそらく恐れていた事態のどちらかが起きている。」


「恐れていた事態、ですか?」


「あぁ。」



 難しい顔の祐先輩に同意をするようにうんうんと頷く有栖川先輩。恐れていた事態とはなんなのか、首を傾げていると祐先輩が説明してくれる。



「エチュードでは意思疎通がうまくいかないパターンとして2つある。一つは無理難題すぎて表現が難しい。このMBC方式だと特に頻繁に起こる事象で、単純に演者側の実力不足とも言える。もう一つは、観客、つまり受け取り側である俺たちの知識が不足しているがゆえに理解ができないパターンだ。」



 かけあわせると事故が起きるからあまり難しいお題は書かないでくれと言っているんだけど、と嘆く祐先輩。


 その説明を聞いて俺は、まるで、探偵が推理小説の王道であるダイイングメッセージを紐解いているみたいだと思う。



「この場だけではなくて、演技というのは伝わらないと意味が無いからね。たとえどんなに演者の演技力があっても観客の理解が追いつかないと伝わらない。前説やストーリー説明のない中、レベルの差を埋めるというのは、このエチュードにおいてはなかなか難しい操作だよ。」


「まるで遺言書みたいだよね〜。せっかく残してくれても分からないと納得できないし、頑張って書いたものが無効になることもある。」


「……有栖川にしては言い得て妙だな。」


「たまには、先輩らしいこと言いますよ?」



 遺言書。確かにそう言われても納得する。演者はその物語の中でしか生きられない人物を必死に演じ、観客は舞台上で表現される登場人物の生きている瞬間を見て何かを感じ取るわけだから、遺した言葉が理解されない、意思疎通ができないと悔しくなるだろう。


 とはいえ、さすがにありえないお題をいかに上手く伝えるかに特化したエチュードに関しては、伝わらなくても仕方ない気がするが。そもそも面白半分でふざけたお題を書く茜とかが悪い。


 とりあえず、一旦話を伝わらない要因に戻す。



「それで、今回はどっちのパターンなんですか?」


「俺の予想だけど、どっちも起きているんじゃないかと思う。決して白鷺さんと黒木さんの演技が悪いわけじゃない。ただ喋らないところを見るにおそらく黒木さんのお題は水中で生活する生物な上、おそらくその生物には表現が難しい状況のお題なんだと思う。そしてその生物の特徴を捉えられず、その特徴を持つ生物を思いつかない俺たちも今回難航している理由になってるんだ。」


「でもエチュードは何をしているか分からないところも含めて面白いんだよ?糸音ちゃんが四つん這いで歩き出した時はどうしたかと思ったし、韓国語の挨拶しか知らないくるみちゃん可愛すぎたでしょ!」



 このままでは埒が開かない。そう考えていると俺たちの話し合いを聞いていた茜が元気よくハイっと手を上げて発言する。



「白鷺は多分“バンジージャンプが怖いKPOPアイドル”で、黒木は“物を落とされて不機嫌なウーパールーパー”!」


「……ウーパー、ルーパー?」



 茜の口から出てきた生き物の名前に唖然とする俺。



「なんでウーパールーパーだと思ったの?」



 そう氷室に聞かれると茜は自信満々に答える。



「まあ、なんか動きが?ウーパールーパーみたいだなぁって?」


「遠山くん正直に言いなさい、このお題書いたのがあなただからピンときただけでしょう?」


「アハハ〜、バレマシタカ。」



 黒木にピシャリと棘を刺され観念する茜。しかし俺の隣では「確かに。」と祐先輩がなにやら調べながら頷く。



「今ウーパールーパーと聞いて思い出したんだけど、白鷺さんが湖って単語を1度出したんだ。池でも川でもいいのになんでだろうと思ってたけど、野生のウーパールーパーが住んでるところは海外のとある湖などに限られているらしくて、さらにいえば水中でしかあの姿は維持できず生活はできない、だから地上に出てこようとしなかったんだね。」


「そうです!祐先輩の言う通りです!」


「……見苦しいぞ茜。」



 そう俺が刺すとうぐっと項垂れる茜を横目に、祐先輩が調べてくれた情報を聞いて、俺はあの可愛いウーパールーパーに色々と知らない情報があったのにびっくりする。伝わらなかった要因は俺たち観客側の知識不足が影響しているようだった。


 むしろ白鷺と黒木は調べてここまで盛り込んできたのか、その事実に感心する。



「はいは〜い、なんで私のお題はKPOPアイドルだと思ったの?」



 続けて白鷺がそう聞くと、こちらは打って変わってパチンと指を鳴らしながらキメ顔で自信ありげに答えた。



「それはもう単純明快!韓国の有名人で、たくさんファンサする人!アイドルしかいないっしょ〜。」


「確かにそうかも〜。私としてはインフルエンサーの予想だったけど、韓国語で挨拶して、ファンサを振り撒く人と言えば一番に出てくるのはグローバルに活動するアイドル。結構難しく考えてたけどシンプルに考えるならそれが一番しっくりくるね。」



 少し難しめに考えちゃった、と反省の有栖川先輩に満足げな茜。相変わらず感情の変化が忙しい。


 有栖川先輩の予想も聞いてそっちかと納得しかけていたけれど、どうやら考え込みすぎるのもよくないみたいだ。

 

 有栖川先輩は、その人物がどんな行動をとることが多いかわかっているからインフルエンサーという答えを出したけど、世間に疎い俺は、韓国語を喋る人といえばアイドルか俳優の認識だった。どんな状況なのか伝える、ということを念頭におくエチュードにおいて、意外とシンプルに伝わるように演じてくれていると考えていいのかもしれない。

 

 しかし、演者2人の顔を見るに茜の答えが全て一致しているわけではなさそうだ。



「人物は合ってるんだけどどっちも状況設定が惜しいのよね……。」


「あと一言、って感じなんだけどなぁ〜。」


「え、オレ正解じゃないの!?」


「惜しいんだよね〜、あと一声!」


「……えーっと、俺の予想言ってもいいですか。」



 ここまできたなら当ててほしい、と書いてありそうな2人の顔を見て、俺は意を決して口を開く。

 

 

「バンジージャンプが惜しいなら、白鷺は高いところが怖い“高所恐怖症のKPOPアイドル“で、黒木の物を壊したが惜しいなら、“スマホを壊してしまったウーパールーパー”かなぁと。」


「その心は?」



 氷室の見透かすような目線にドキドキしながらも、自分の考えを続ける。



「なんかシンプルに考えた方がいいかなって。白鷺のは飛ぶっていうよりも怖がってる様子が印象的だったし、バンジージャンプなら飛ぶところまで演じてくれそうな気がして。黒木のは、その、ウーパールーパーだったからわかりにくかったんだけど、白鷺に”壊さないで“って言われながらも叩いてるところとか”最新機種”、“セブンティーン”とか言ってるところを見るに、某りんご社製のスマホを壊していたのかなぁと。あとは壊したら逃げようとする様が、ちょっとやばいことをしたら目を背けようとする茜とそっくりだったんで。」



 オレは常にまっすぐ生きてますけど!?と方向違いのツッコミをする茜はさておき、肝心の2人の反応は。



「え、すごい、こはくん正解だよ〜!」


「そこまで予想ができるなら次からも心配はいらないわね。」



 どうやら合っていたようで安心する。俺の答えに祐先輩も有栖川先輩も納得の表情で頷いていた。



「とか言って、オレと同じでお前が書いたお題があったりして〜。」


「……実は、“スマホを壊してしまった”は俺が書いたんだけど。」


「ほーらやっぱり!琥珀がこんなにすらすら当てるなんておかしいなと思ったんだよ!」


「いや、お前と違って自分が書いたからわかった、なんてメタいことは言いたくなかったからちゃんと根拠まで示しましたけど?」



 俺と茜が言い争う中、演者2人、特に黒木から何やら鋭い視線を感じる。


 恐る恐る視線を向けると、白鷺は変わらずのにこにこな笑顔だったが、黒木は「よくもやってくれたわね。」と言わんばかりに目で訴えていた。



「つまりあのお題は藤倉くんと遠山くんの合わせ技だったということね。」



 なるほどねぇ……、とこぼす黒木から何やら復讐の炎が見えたのは俺だけだろうか。



「……次からも頑張ってね、琥珀くん。」


「なんで俺もターゲットにされなきゃいけないんだよ。」



 その様子を察したのか氷室が労い(?)の言葉をもらう。


 ひとまず自分が書いたお題だから、と言う理由で安直に指摘するとエチュードの意味がないことを悟ったのでそのような答えかたはやめようと心に決める。これなら当たらなくても、ある程度大喜利感覚で答えた方が面白い気がした。


 にしてもエチュードがこんなに頭脳戦だとは思わなかった。正直分析するのに頭を働かせすぎて疲れたし、次からがとても心配だ。


 自分の番まで、体力と気力が持つだろうか。



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