第7章 ー現代帰還ー
第7章 ー現代帰還ー
眩しい光が航太の目を覆った。
地面が揺れ、空気が引き裂かれるような感覚――まるで風に巻き上げられる砂粒の中にいるようだった。
「……うっ……」
目を開けると、そこは見慣れた矢吹飛行場跡地の野球グラウンドだった。
白線は消え、土の匂いだけが少し湿っている。
夏の朝、セミの声が聞こえる。
「……夢……?」
航太は膝をつき、手で土を触る。
だが、胸の奥に、昨夜のキャッチボールの感触と、航一の声が鮮明に残っていた。
――生きろ。
――全力で生きろ。
涙がこぼれた。だが、笑顔も混ざる。
孫として、未来に生きる責任を、確かに受け取った瞬間だった。
その時、耳に微かに聞こえた声があったような気がした。
「……航太。頼んだぞ」
振り返っても、もちろん誰もいない。
一匹の赤とんぼが、飛んでいるだけだった…しかし、胸の中には確かに、祖父の温かい手と眼差しが残っていた。
航太は立ち上がり、握った拳を前に突き出す。
「はい、じいちゃん! 約束する。俺は、未来で野球を続ける! 絶対に負けない!」
太陽が昇り、グラウンドの土を黄金色に染める。
どこまでも続く白線。かすかな風。
そして、遠くで野球ボールを打つ音が聞こえるような気がした。
航太は深呼吸をし、ゆっくりとグラブをはめ直す。
あの時代で、赤とんぼに乗って消えた祖父の想いを胸に、これからの人生を生き抜くために――。
野球場の土を踏みしめるたび、航太は確信した。
祖父の命は消えたのではない。
その魂は、未来に生きる自分に託され、これからの一球一球に込められるのだ、と。
夏の光の中、航太は笑った。
涙に濡れた顔を風がさらい、彼の胸に、未来への決意が強く宿った。
そうして、グラウンドに響く打球音と笑い声――
それは、時代を超えた家族の絆と、野球への愛が刻まれた、永遠のリズムだった。