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みんなの木

作者: 有璃香

ある場所に、美しい緑色の短い芝生の生えた小高い丘がありました。

そこには一本の大きな木が立っています。

その丘にはその木がたった一本立ってあるだけでした。

樹齢約数千年、とても古い木です。

誰が見てもとても年のとった木だと思える木です。

この木の特徴は立派な枝がたくさんある事でした。

春には誰も見た事のないような花が沢山咲き、夏にはぎっしりと新緑でいっぱいになり、

秋、冬と寂しく散って行くのですが、枯葉が全て落ちた頃には、どこからともなくと色んな鳥達が集まり、この木の枝、一杯に鳥達が止まって越冬をするのです。

それを見た人達は皆、口ぐちに、

「今までこんな木、見た事がない。」とか、

「集まった鳥達の羽の色が本当に鮮やかでそれが花の様に見え、又、新しい違った冬に咲いた一本の木に見える。」

など言われたりしていました。

最近になり、この木の辺りには寂しい雰囲気が漂い始め、木全体に生命力が感じられなくなって来ています。

実はこの木を今になって、切り倒してしまおうと言う噂が流れて来ていたのです。

その気配をこの木は感じとっていたのでした。

とその時、一匹の白い犬が遠くの方からとことこと歩いて来て、木に近づいて来て、少し離れた所で止まり座りました。

そして今度は木の根元まで行き、片足を上げて自分の縄張りにしょうと思いましたが、1m離れた所で走って引き返してしまいました。

実はこの犬、何度もこの木に対して試みているのですが、木がとても嫌がっているので今日も引き返してしまいました。


「先生知っていましたか?」

「何をです?」

「あの木が切られるって言う噂。」

ある先生が帰る準備をしていて、机の上の教科書やノートなどをトントンと整えたりしています。

「ええ、知っていましたよ。でもまさか。あの木はだいたい数千年ぐらい前からずっと生きてるんですよ。もし切られたりしたら祟りか何かバチが当たりますよ。」

「そ、そうですよねぇ。」

「ん?三島先生は不安定な返事・・。」

頭をかきながら、

「いやぁ僕は普段から気が小さい男ですから。」

「ははは、だから時々生徒達にからかわれるんですよ。まぁ、まだはっきりした情報がわからないからそれまで待たないと。」

整えた本やノートを鞄に入れました。

「さぁ私はこれで。何かあったら、あの木をあの場所に残せるように私達も行動に移しましょうよ。あんな素晴らしい木は残して置くべきです。」

そう言うとすっと立ち上がり、職員室から足早に出て行きました。

藤掛(ふじかけ)先生はかっこ良いなぁ、この小さな小学校で人生終わってほしくないなぁ。」

出て行った職員室の出入口を見つめ、首を傾げました。

「あっ、俺、今何て言う事を・・。だからこそ、この小学校には、あーゆー先生がいてほしいって言う事なんだ。」

三島先生も机の上を整理しています。すると、

「トントン」

ドアをノックする音が聞こえ、1人の6年生の生徒が入って来ました。

「あれ?まだ残っていたのか。君は生徒会長の・・」

須永(すなが)です。ちょっとお聞きしたい事が・・・。」

「何だ?あっ!もしかして。」

「あの木が倒されるって本当ですか?ご存知の通り、クラスでとても噂になっています。」

「うん、確かにな。しかし噂は噂だ。」

先生は立ち上がりました。

「ま、何か新しい情報が入って来たら教えてくれたまえ。君も早く帰った方がいいよ、この辺は田舎だし暗くなってくる。」

「そ、そうですね。」

「じゃあ又明日。」

先生は軽く手を振り、歩きだすと右足が椅子に当たり、少し痛い表情しながらも足早に職員室から出て行きました。


藤掛先生は自宅に戻り、自分専用の部屋で1人机に向かい座っていました。

「僕は昔、俳優になりたかった。しかしどういう訳か教師の道に。僕の通っている小学校は1クラスずつしかない、1年から6年まで6クラスしかない学校、だから噂なんかはすぐ広まるし・・。」

目の前にある窓を開けました。

「ここから、あの木が見えるなぁ、不思議な木。誰かがただ、いたずらで流した情報だったらいいのに。今は春だけど、冬に集まって来る鳥達を見てると本当に素晴らしいからな。」

そう話していると眠くなって来て両腕を机につけて眠ってしまいました。

すると、その不思議な木に止まっていたそれはそれは小さな真っ白い小鳥が飛び立って、藤掛先生の窓に向かって飛んで来ました。そして窓から入って来て机の上に乗ると、くわえていた花びらを机の上に置いて素早く部屋から出て行きました。

木に戻ってくると、白髪で顔中白い髭だらけの白い着物を着た痩せた小柄なおじいさんが、ニコニコしながら木の天辺であぐらをかいていました。

「誰じゃ、おかしな噂を流している子は。」

大きな声で話しているのですが、普通の人には聞こえません。

「お蔭で3千年の眠りから覚めたわい。」

すっと立ち上がり、木からピョンと飛び降りるとゆっくりと地上に降りて来て、両手を後ろに組んで、木の周りを歩き始めました。

「だいたい分かっているのじゃが・・それともう1つ、あの犬、わしゃ嫌いだなぁ。」

木の周りを歩いています。

「木の精ともなると、いくら歩いても疲れん。早くあの噂を止めないと嫌な意味で人がやって来る。わしはこの地域に人を呼びたくて、冬には色んな珍しい鳥達を呼んでいるのに気づかんのかなぁ。この木を早く観光名所の1つにしてくれんと、3千年も生きているとわしゃあ退屈で。」

ぴょんと軽くジャンプすると、あっという間に木の上に。

「そろそろ寝るとするか。あの若い教師にでも協力してもらわんとな。」

大きなあくびを1つすると、体が透き通って行く感じで姿を消してしまいました。

そして翌朝。


「先生、おはようございます!」

「あっ、おはよう!」

みんな元気に登校しています。

「今日も可愛い生徒達に正しい勉強を教えないとな。」

藤掛先生は1年生担当です。車が1台通れるほどの道に、1~6年生までの生徒と先生が通っている道です。藤掛先生は突然、何かを落としました。定期入れです。

それを後ろから走って来た三島先生に拾われました。

「あっ!落としましたよ。」

拾ってあげると、定期券と一緒に1枚の花びらが入っていました。それを三島先生が見つけてニヤっと笑うと、

「先生はロマンチストなんですね。」

「あっいや昨日の夜、考え事をしていてね、椅子に座ったまま朝まで寝てしまっていたんですよ。朝起きると机の上にこの花びらが。何の花びらだと思います?あの不思議な木の花の花びらなんですよ。ここまで風に乗って来たんだなと思って。」

「へぇ、そうなんですか。」

「先生、早く行かないと僕達も時間危なくなってしまいますよ。」

走って学校の門をくぐりました。


お昼休み、昼食を終えた藤掛先生は廊下を歩いていました。

すると新聞部の生徒とすれ違い、声をかけられました。

「先生。」

「新聞部か、新聞部は5~6年生限定だもんな。君は確か谷内(やうち)君・・。」

「良く覚えていますね。」

「ははは、小さい小学校だからね。」

「実はこの辺に小さな公園が出来るって言う噂、知ってますか?」

「初耳だな、どの辺りに?」

「あの木の近くですよ。」

先生は体の向きを生徒の方に向けました。

「木はあのままか?」

「わかりません、まさか倒される事はないでしょう。あっ先生、時間もない事ですし、この辺で。」


その夜、藤掛先生は考えていました。学校全体でアンケートをとってみようと。

そして翌日。


「先生の案はとても良いと思いますが、教師達もアンケートをとらせるんですか?」

「ええ、ここまでするんだったら先生達もどこまで知っているのかなって。」

「でも名前は書かないんでしょ?字を見たらだいたい分かるのでは。」

「それもそうですね、暗黙の了解ということで。よし、出来た。これを朝1番に配って下校時刻ぐらいに、学校の門の所に回収用の箱をおいて置きましょうよ、三島先生も協力してくれますね。」

「OK!」

三島先生がそれぞれの教師に、生徒と教師の人数分のアンケート用紙を手渡して行きました。

誰も嫌な顔をする人はいませんでした。

「うーん、みんな良い人だな。明日が楽しみだ。」


翌朝、実はアンケートボックスは藤掛先生が持ち帰り、徹夜して結果を出していたのでした。

「噂を知っていたのは7割で3割が知らないと・・かぁ。無難な結果だな。1人、おかしな事書いていた子がいるぞ、何だこれは?3年生担任の三島先生のクラスの子だな。あっ、来た来た、三島先生、先生!」

「何ですか?朝早くから。」

「これを見て下さい。」

1枚のアンケート用紙を差し出され、じっと見てみると、

「えー何々、あの木のそばに行くと変な大きな声が聞こえる時がある。それによく考えると不思議で不気味な木。『3千年間、わしは退屈じゃぁ』と。早くどこかへ移すか切るかしてほしい。嫌だ、声が僕んちまで聞こえるんだ、早く切って。」

三島先生はこれを書いた生徒が分かると呼び出し、詳しく話を聞くと、少しずつ噂を流していたらしい。

「僕、変なのですか?」

「いや、君には少し特別な能力が備わっているだけで、変じゃない。大丈夫だよ。」

「この事は新聞部には知らせないで下さい。先生は新聞部担当でしょ?あそこはとても情報に敏感だから・・。」


時は流れ、冬になりました。

どこからともなく鳥達が集まって来て、それは鮮やかな一本の木になり、近所の人達も集まって来ました。藤掛先生の案で木の前に全校生徒を集め、新聞部に頼んで写真を撮る事に。

この日は快晴でした。

「よーし、みんな集まったかー、谷内君、上手く撮れよー。」

木に止まっている、沢山の鳥達は不思議と逃げませんでした。

「じゃあ撮りまーす!」

何枚か写しました。

「藤掛先生、上手く撮れたら本当の新聞社に送って良いですか?」

「良い考えだな、そうしたらきっとこの辺は賑やかになるぞ。」


翌日、

「先生、藤掛先生!この写真見て下さい!」

「ん?何だこの写真?この顔中髭だらけで白い服着た爺さん誰だ?木の真ん中の枝に座ってVサインしている・・。」

「先生、違う写真は写ってないから、そちらを送っておきます。」

先生はそのおかしな写真を手に持って上に上げて、じーっと見つめ続けました。

この話は年齢に関係なくお読み頂けると思います。

フィクションで小学校を舞台に、不思議なそして、少し喜劇的な所を加えました。

初めてインターネットで投稿してみました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 久しぶりに童話を読みました。作品の、のんびりした雰囲気にほっとするような暖かい気持ちになれました。ただ、気の精が写った写真を新聞社に送らないと言う箇所が、少々唐突な感じがしました。
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