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好き

作者: 林代音臣

****


 目的地として向かったコンビニで、今まで気にかけたことも無かったお菓子を手に取ってレジへと運ぶ。

 かなり昔からあるらしいおせんべい。そういえば、おばあちゃんの家で見たことがあるかも知れない……かも知れない、だけど。

 しお味、醤油味、のり味。三種類あって……一番惹かれないのり味を買った。

 だってのり味じゃなきゃ、このお菓子を買う意味が無い。


 帰り道にソワソワと、さっき買ったばかりのおせんべいの封を開ける。

 個包装されたそれは……なるほど、正しくおせんべいと言った見た目だ。

 そもそもおせんべいを食べるの自体何年ぶりだろう? 何せ思い出せないくらい久しぶりだ。

 小袋を開けて、おせんべいを手に取る。のりが生地にも練り込まれたそれは、緑がかった色をしている。

 ……手に塩がついてジャリジャリする。そうだ、おせんべいってこういうものだった。

 歯を立てて、一口。思ったより食感は軽い。

 パリパリと小気味のいい音。薄い塩味。うん、思っていたより美味しい。

 もう一口。噛んだ拍子におせんべいから、小さな小さな欠片がポロポロ落ちる。

 擦り潰していくと、歯の隙間という隙間、窪みという窪みにおせんべいが詰まっていく。

 ……多分だけど、道端で食べるものじゃなかった。部屋でゆっくり……熱いお茶とかと一緒に食べるべきなんだろう。

 残ったおせんべいは、大袋に入ったままトートバッグに仕舞った。帰って……そうだ、ゲームしながら食べようか。

 手が汚れるかな。あ、でも……いい話題になるかも。


 いつもは部屋の中で聞く夕方を知らせるチャイムの音が、隔てる壁も無いから大音量で聞こえた。

 暗くなって来た空には薄っすらと、透けるように星が見える。

 この様子だときっと明日は晴れるだろう……良かった。


 まさかゲーム大好き引きこもり人間の私が、こんな時間に外に居るなんてなぁ。

 それも食べたこともない、興味の欠片も無かったお菓子を買いに行くなんて。我慢出来ずにそれを道端で食べるなんて。

 出かける予定も一切無い明日の天気を……気にすることになるなんて、思わなかった。


 おせんべいが好きらしい。それものり味の。

 明日は前から楽しみにしてた野外のイベントがあって、それに行くらしい。


 もうログインしているだろうか。

 今は……デイリーミッションをこなしている頃かな。

 今日のデイリー面倒くさいでしょ。あのエリア苦手って言ってたから、きっと今頃ブーブー文句言ってるね。


 おせんべい食べたよ、美味しかったってチャットで伝えたら、喜んでくれるかな。

 星が見えたから、明日は天気が良さそうって伝えたら……あぁでも、どこに住んでるか知らないや。そっちは天気が悪いかも。

 ……もしかして、そんな話を振ってみたら……教えて、くれるだろうか。

 どこに住んでる? 他にはどんなお菓子が好き? 普段は……その、ゲーム以外はどんなことしてる?

 ……特別な人は、いる?

 いやいや! そんな話……気味悪がられたらどうするんだ……。


 とにかく! 今日会えたらおせんべいの話をしよう。

 教えてくれたおせんべい……たまたま、たまたま。本当にたまたま……他の用事で入ったコンビニで見かけたから買ってみたよって。

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