2『聖女と騎士』
コツリ、足音が大聖堂の廊下に響く。コツリ、コツリと急ぐような足音だ。
騎士団の制服を着崩して身に纏っている黒髪の青年が、その長い足で大聖堂の廊下を足早に歩いていた。
そうして青年はとある部屋の前で立ち止まると、ノックもせずに部屋へと入る。
部屋の中には大きなベッドがあった。その上に真っ白なシーツに包まれたこんもりとした塊がある。
「いい加減に起きろ、コラ!」
大声で叫んだ青年が容赦なくシーツを剥ぎ取る。そうするとシーツの中からゴロゴロと人が転がり出てきた。
「んぎゃうっ」
情けない悲鳴を上げたのは、白銀の長い髪をした年若い女性だ。ネグリジェから生白い足が覗いている。
そうして床に転がっていた女性は、のろのろと起き上がった。
「……うう、ユーリひどいです」
「シュニーがいつまでも寝てんのが悪い。さっさと着替えてお役目行けよ」
ユーリと呼ばれた青年は呆れたように息を吐く。選別の儀の日から七年が経過していた。
ユーリは精悍な青年へと、シュニーは美しい女性へと成長していた。そうして、それぞれが騎士と聖女としてこの七年間を過ごしてきた。
のろのろと着替え始めるシュニーを尻目にユーリは部屋を出る。
これからシュニーはお役目。その間ユーリは大聖堂内の警備を行う予定だった。
この国、神聖フレディア王国は王国と名がつくが人間の王はいない。王とは聖フレディア教が唯一神と崇める愛と豊穣の神フレディアのことだった。
そして実際の政治は、神託の内容を伝えられた大司教が行っている。大司教が従う神託、その神託が下されるのが聖女であった。つまり聖女のお役目とは、神との対話である。
「……神ねぇ」
ユーリは神を信じてはいない。どんなに願ったって神がユーリの願いを叶えてくれたことなど、ただの一度だってないからだ。けれどシュニーは毎日神と対話していると言う。そこだけは唯一、二人の相容れないところだった。
「ユーリ、参りましょうか」
そうして部屋の前で待っていると、純白の修道服に身を包んだシュニーが部屋から出てきた。先ほどの情けない姿とは打って変わって神々しささえ覚える姿だ。
まさに聖女といった姿にユーリは眉根を寄せる。
「はいはい」
「返事は一回ですよ」
くすくすと笑うシュニーの声が大聖堂の廊下に響いた。
基本的に大聖堂には、ユーリとシュニーの他は数人の修道女しかいない。大聖堂の門の外には女騎士が門番として立っているが、あとは神託を聞きに大司教が日に一度訪れるだけだった。
「あんまり遅いと置いてくぞ」
「もう、待ってください」
大聖堂の最奥、神託の間に向かって二人は歩いていく。神託の間には聖女であるシュニーしか入れないが、ユーリは竜の騎士だ。来るべき日が訪れるまでいつでもシュニーの傍にいて、シュニーを守ることがその役目だった。
そうして、二人の変わらぬ一日が今日も始まろうとしていた。