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1『運命の出会い』

「くだらねぇ」


 緑生い茂る背の高い木の上から聖堂を見下ろす痩せっぽちの少年が呟いた。そして弄んでいたリンゴを齧る。今朝、八百屋から盗ってきたリンゴだ。

 そうして少年はその金色の瞳で聖堂の中にいる自分と同じ年頃の少年たちを睨んだ。

 聖堂の中では今、選別の儀と呼ばれる儀式が行われていた。今代の聖女の剣となる竜の騎士を選ぶ儀式だ。

 竜の騎士は孤児の中から選ばれる。そのため金眼の少年が暮らす孤児院が併設された聖堂でその儀式が行われていたのだった。


「くだらねぇ」


 竜の騎士になるのだと期待に胸を膨らませる少年たちを見て、再び金眼の少年が呟いた。

 竜の騎士は国中の孤児の中からたったひとりが選ばれる。どうせこんなクソ田舎の孤児から選ばれるわけなかった。そもそも竜の騎士なんてクソみたいなものになりたがる意味がわからない。


「あなたは選別の儀に参加しないの?」


 そうして再びリンゴを齧ったときだった。下から声をかけられた。聖堂から視線を声がした方に向ければ、ひとりの少女がいた。

 一言で少女を表すのならば、白だった。

 美しい白銀の髪をした少女は、純白の修道服を身に纏っていた。真っ白な少女。ただ瞳だけが空を切り取ったような色をしていて、その瞳で少年をまっすぐに見つめていた。


「お前、聖女だろ」


 木の上から地面へと降り立った少年が言う。

 この国の国教である聖フレディア教。その聖フレディア教が唯一神と崇めるのが愛と豊穣の神フレディアだ。そして、白はそのフレディア神に愛されたものにしか許されない色だった。

 つまり、この全身白色をした少女はフレディア神に愛されたもの――聖女としか考えられなかった。


「よく、わかりましたね」


 鈴の音のような声で少女が肯定する。

 少女のふくふくとしたまろい頬は薔薇色に染まっていた。空色の瞳がまばたく。


「でも、どうしてでしょうか。あなたには、聖女と呼ばれたくないのです」


 不思議そうな面持ちで聖女は言う。

 それに、それもそうだなと少年は思った。少年もなぜか少女のことを聖女とは呼びたくなかった。


「俺はユーリ。お前は?」


 七月に聖堂の前に捨てられたからユーリ。単純な名付けだ。けれど誰もユーリの名を呼ぶことはない。だからそれでも構わなかった。

 そんなユーリの問いかけに聖女はゆるく首を横に振った。


「わたしに名はありません。必要のないものですから」


 聖女以外の呼び名は必要ないということだろうか。やはりユーリは少女のことは聖女と呼びたくないな、と改めて思った。

 少女の美しい白銀の髪を見る。まるで雪のような白さだった。


「……シュニー」

「シュニー?」

「お前の髪、雪みたいだから。だから、おれはお前をシュニーって呼ぶ」


 単純な名付けだった。けれど少女は花がほころぶように笑った。それが答えだった。

 それを見たユーリは満足そうに鼻を鳴らす。


「ユーリ」


 シュニーがユーリの名を呼ぶ。自分よりもいくらか背が高いシュニーを見た。

 そうしてユーリは自然とシュニーに跪いた。跪かねばならないとそう思ったからだ。


「ユーリ、あなたをわたしの騎士とします」


 ざあっと風が吹く。シュニーの白銀の髪とユーリの黒い髪が風にたなびいた。

 竜の騎士なんてクソだ。その考えは今でも変わらない。けれどユーリはシュニーの騎士にならねばならないと思った。それ以外のことは考えられなかった。


「……拝命いたします」


 だから、この世で一番の外れくじ。最後には咎人として処刑される竜の騎士になることをユーリは選んだ。

 そうして、選別の儀は成ったのだった。

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