プロローグ
びゅう、と強い北風が吹いた。腰に剣を佩した男は風で飛ばされないようにフードを目深に被った。そして目の前にある建物を見た。分厚い雲に覆われた鉛色の空を背負って、小さな聖堂が建っている。国の北端にある寂れた漁港近くの丘の上に建つ聖堂だ。
それは随分と古い聖堂だった。その古びた扉を押せば、ぎいっと軋んだ音を立ててゆっくりと開く。
聖堂の中には、修道女がひとりいた。男に背を向けている。けれど、扉が閉まる音と同時に修道女はゆっくりと振り返る。そして男を見て、頭を下げた。
「申し訳ございません。司教様はご不在なのです」
「……知っている」
男がこの聖堂に来る途中、丘の下の酒場で漁師たちと呑んだくれている司教を見た。
しかし、男は司教に用はなかった。フードの奥の瞳を鋭くさせて、まっすぐに修道女を見る。それから口を開いた。
「人を探している」
「人探し、でございますか」
男の言葉に修道女はまばたいた。そんな修道女の様子に男はフードの奥で目を細め、再び口を開いた。
「ある女を探している。話を聞いてくれないか」
男の言葉に修道女はそうっと微笑みを浮かべる。それが答えだった。