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前半:結成&初陣です!

 富士山を遠くに眺める丘は一面のキャベツ畑。舞岡市治と家政婦の綿内(わたうち)みほは、朝早くから農作業に精を出す。キャベツは今年も玉が平たく締まり、葉のつやもよくて、持てば重そうだ。来月の収穫が楽しみである。

 脇道から小学生達が登校してきた。見知る子供たちは微笑みいっぱにして、二人に両腕をいっぱいに振って挨拶してくれる。

 市治もみほも、掌を優しく振って応えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




挿絵(By みてみん)

 (きのした)架橋がキノシタフーズに入社してからわずか数日で、路上販売を任される。

 出社は早く、朝の七時には送迎バスに乗って本社兼新横浜工場に出社し、八時から早朝パートさん達と共に弁当を作る。

 午前十一時、架橋は北新横浜にある本社兼新横浜工場から社用ワゴンを運転する。ここからは架橋の独壇だ。


ーーひとりでできるもんは初めてだよ。肩肘上がるけど、ビビリな私を社会人にしてくれた叔父さんだ。頑張らねばねー。


 亀甲(かめのこ)橋から鶴見(つるみ)川を越え、指定された新横浜レンガ通りでワゴンを止める。講習で習ったことを思い出しながらテーブルを出し、四種類で合計百個の弁当を置き、準備した。

 接客は初めてではないけど、緊張でいっぱいになる。周りを見渡せば、架橋のような路上店が結構設営されている。飲食店の外売りも、いくつか確認できた。ぱっと見十件ほどもある。この中心街は、横浜でも屈指のビジネス街である。


ーーもし、売れなかったらどうしよう……?


 そうネガティブに思うと、気がついたら、目の前にはすでに購入者が整列をしていた。架橋が驚く間もなく、客があれくれこれくれと殺到し、売買がはじまる。


 一時間後に一段落すると、架橋が我に返る。


「の、残りふたつだけ。やった。うれしい……」


 そうなると、心の中でも少し余裕が出る。


「ひとつだけ、今日のお夕飯にしようかな?」


 ならば今、店じまいしようと思うも、左右から二人の女性が大急ぎで現れた。


「すみませんお弁当ください!」


 口をそろえて指でさすと、お互いがぶつかり、お互いが持つ本を落とす。


「も、申し訳ございません」


 謝るときも二人同時だ。かといって知り合いでもない。これだけならコントで終わりそうだが、問題は、二人が落とした本まで全く同じだった。

 架橋は横から除いた。


ーーよ、横浜に伝わる戦国時代のイラスト集?


 無論、知らない本だ。タイトルも地味だし、ニッチとも思えた。

 二人は弁当購入後、一緒に食事をしようなどと会話し、意気投合して立ち去った。


ーーへえ、こんな出会いもあるんだな。


 架橋は感心する。自分には出会いはないけど、ともあれ架橋は弁当完売を達成した。




 午後四時、架橋は仕事を終え、送迎バスに乗って新横浜駅北口に着く。

 JR横浜線の改札口まで足を運んだ。


ーー社会人生活初めての花金♪


 架橋は、オシャレな喫茶店巡りが大好きだ。一人でコーヒーとスイーツ片手にのんびり、大好きなラノベ読んで過ごしながら、一日の疲れを癒やしたい。窓から風景が眺められれば、尚良い。大学時代は城下町金沢でよくやっていた。ただ、どの店員さんから常連認定はされなかった。

 この新たな地でも喫茶店を沢山みつけて和みたい。そして、一店舗でいいから常連認定されたい。観光ガイドブックはみんな、ミナト辺りのオシャレカフェを見つけては載せている。架橋はワクワクしてきた。


 そんな思いにふけていただけで一時間がゆうに過ぎる。仕事あがりのサラリーマンが目立ち始めた。

 架橋はふと思った。


ーーい、いや違う。ミナトは明日にしよう。近くの篠原(しのはら)に社員寮がある以上、まずはシンヨコのカフェを制覇したほうがいいかも。


 遠出は後回しで、先ずは近所からだ。街歩きは手堅くがいちばん。架橋は改札口に入らず反転し、ペデストリアンデッキを渡って探し回った。先ずは新横浜を象徴する円筒形ビル、プリンスホテルの中に見つけたが、行列が出来ていたので避けた。次に横浜アリーナの近くに見つけても、架橋の入店タイミングで一足先に店に入る男女がいた。これだけでも小心な架橋は、入店を避けてしまう。

 全ては人見知りのせいだ。普通に入店すればいいのに、人やタイミング次第でためらってしまう。

 架橋はため息してから、気合いを入れた。


ーーつ、つ、次は入るぞ!


 アリーナ通りをふらふら歩くと、マリノス通りの交差点で、なんとなく良さげな喫茶店を見つけた。客は、見た目七割ほど入ってる。行列もなければ先に入ろうとする者もいない。架橋は恐る恐る入店し、適当に席を選んで座った。


ーー入れた! 普通に入れた。やった。


 少し普通ではないけど、架橋はやっとホッとできた。


 架橋は注文が終えると、向かい席の客に呼ばれた。


「あの、貴女、お弁当屋さんですよね?」


 と、おっとり口調の女性に言われた。架橋は驚き、硬直するも、頷いた。


ーーあ、お昼の二人だ。もう友達になってる。


 コミュ力の高さがうらやましい。

 もう一人の女性が架橋に手招きし、フレンドリーに言われる。


「おお、本当だ。新任の姫カットちゃんだ。で、何時ものおばちゃんはどうしたの?」


 初めてなのに馴れ馴れしい。何時ものとは架橋の先任か。しかも常連さんだと分かる。

 架橋は教えた。


「あ、ああ、出世して管理のほうに……」


 架橋はここで会話を終わらせようとするも、そのまえに馴れ馴れさんから、


「ねえ、こっちに来なよ」


 と誘われた。架橋は少し怖かったけど、来る者拒まずでいいかと思い、席を移った。

 二人は架橋に名刺を渡した。架橋も慌てて名刺入れから出し、渡した。




 馴れ馴れさんのほうは寺家(じけ)育美(いくみ)。株式会社ノブニカの営業係長で、ペロブスカイト太陽電池に関する仕事に携わってる。年齢は、今年の何処かで二十代を終えるらしい。好きな歴史分野は城郭、とくに石垣に萌えるという。

 この会社、半導体では日本一のシェアを誇るという。

 最年長とはいえ「拘束時間外はタメ口オーケー」と使い分け、気さくさがある。


 おっとりさんは新治(にいはる)英々子(えいこ)。松能研本部の企画に所属している。この会社、私塾の世界では最大手と言われている。大学卒業から三年ほどここで講師をやり、今月からは企画に異動し、テキスト開発を行ってる。好きな歴史は強くて賢い戦国武将で、人数集めたら戦国時代の基礎部分は網羅できる、と、個人の感想として信じてる。

 顔も口調も穏やかで、育美より少し年下なのに、発想がどこか昭和方面にずれた子らしい。


 ちなみ架橋のキノシタフーズの主力は、新横浜では意外と数多い、緑のコンビニでいつも目にするお弁当をメインに作ってる。路上販売は、創業時が個人経営の弁当屋だった名残であり、会社の原点を大切にする社長のこだわりでもあった。




 英々子は架橋をじっと眺め、褒める。


(きのした)さん体型いいよね。ダブル浅野(あさの)みたい」


 育美は苦笑いする。


「それ昭和じゃん。せめて米倉(よねくら)涼子(りょうこ)だろ」


「いや、同じ米倉でも、みゆにしなよ」


 英々子は今風の例えできた。架橋はそんな有名人たちに例えられて嬉しいけど、顔を真っ赤にして両手で顔を隠した。でも、否定はしなかった。


「小中学校の頃にアルゼンチンタンゴの教室通ってたからかな? とはいえ近所付き合い程度だし……」


 英々子は感心するも、


「おお、夜明けのタンゴ!」


 と言うので、育美も架橋も頭の中が「?」だった。


 架橋は顔を真っ赤にしても、不思議と嬉しかった。慕われていることが肌で伝わってる。そうなると自分を知ってもらおうと思える。少し勇気がいるが、架橋は自分を正直に語った。


「い、いや、でも、それで体が疲れて、次の日、学校に遅刻しそうになったりで……」


 育美も英々子も笑った。育美はいう。


「なにそれ、もしかして食パン咥えた?」


「は、はい。たまに……」


「あはははは! キミは一体どこの学園漫画の主人公だ! 面白すぎて可愛いぞ」


 育美は架橋の頭をなでた。

 ここで架橋の下に注文したコーヒーが来る。しっかりドリップした良い香りだ。架橋は飲もうとすると、育美が架橋と英々子を誘ってくる。


「ね、せっかくだし、今から三人で城跡めぐりしない? 初陣だよ、初陣!」


「え?」架橋はコーヒーを味わいたい。


 英々子は大賛成だが、時間が問題だ。


「いま五時四十分だよ。小机城は隣の駅だよ」


「いや、篠原城な。ここからなら歩いて十五分くらいだから、日没前に攻められそうじゃん」


 架橋はハッとした。篠原は社員寮がある町名と同じだ。その寮も徒歩十五分くらいだ。それを育美に尋ねようと思うも、英々子に先を言われた。


「日没が六時九分か。急げばギリセーフ?」


 架橋は二人の勢いに押され、断れない。


「え、ま、まあ……。行くだけなら。あ、あの、篠原って、シンヨコの裏ですか?」


 育美が答える。


「いや、篠原が表だよ。私、新駅が出来るまでは、出勤するとき篠原口のほうが近いから利用してたし。城跡もお寺もあるし。北口の方が街としては若造なんだよ」


 天邪鬼みたいな答えだが、妙に納得してしまう。

 育美は勢いよく立ち上がる。英々子も立ち上がる。


「れっつらごー!」と声を揃えた。


「あ……、は、はい」


 架橋は一気飲みしてから、慌てて立った。




 篠原城跡に着いた。

 立入禁止の看板が三人を固く拒んだ。

挿絵(By みてみん)




「聞いてないよーっ!」育美は嘆く。


 英々子は不服でも、口調はほのぼのしてる。


「まさかの難攻不落だとは、残念でしたね」


 育美が改めてググると、理由がでた。


「成る程、地主が何人もいるからか。こりゃ仕方がないわ」


 架橋は、冗談っぽくいう。


「わ、私たちの初陣、敗退だね……」


 英々子は冷静に分析する。


「ほんと、リサーチしてから行くべきだったね」


 ここで架橋は提案する。


「あ、あの……。こういう時は、おいしいご飯で気を取り直したほうがいいと思うよ」


 英々子は喜んだ。


「おお! 名案だよ(そら)ちゃん!」


 架橋は"そら"と呼ばれて嬉しかった。幼い頃からずっと友達から呼ばれて、慕われていたあだ名だからだ。

 育美がタブレットを出して調べる。


「お、近くに武将っぽいとこあるぞ!」


 と、この城跡から徒歩約十五分だが、行きのように新幹線の高架はくぐらない。篠原町内なので架橋の社員寮から近い。着けば、暖簾に三階菱の釘抜紋がある。これは最近、織田信長以前の天下人として絶賛再評価中である、三好(みよし)長慶(ながよし)の家紋として有名だ。そしてその店名が”長慶”。

 とはいえお店と三好長慶の関連は分からないが……。

 最近できたような目新しい建物の寿司屋でも、ネットのグルメ評は高かった。

 三人は、お手頃価格と、上品かつ優しさがある寿司の美味さに、初陣敗退の嫌気など一気に忘れた。


キャラクター紹介③寺家育美 (じけ いくみ)

〜お城大好きネット&アクティブ系なシンヨコの姉御系歴女〜

あだ名:てらちゃん(さん付けしてもいい)

年齢:29

性別:女

誕生日:7月19日

血液型:-

身長:157

体重:-

人柄:物事ははっきり言い威勢は良いけど詰めが甘い残念レディ。

株式会社ノブニカ所属。

戦国史オタ歴は小学校からと長く、面倒見がいい。

歴史好きのきっかけは、お城大好き。特に石垣は目を輝かせる。天守もすき。通った小学校が城跡だったことから。

戸塚区岡津在住。岡津城址のちかく。稲荷谷。

新横浜へは、新駅ができてから徒歩で相鉄線緑園都市から西谷経由で。それまでは東戸塚までバス。そこからJR。

岡津小学校→岡津中学校→清泉女学院高校→東北大学。大学まで城跡で学んできたのが自慢。本人もかなり意識した。城跡つながりで金沢大学を受けたが落ちてる。ま、金沢はお城の外に移転したし、育美個人的には良かったかなw

使用携帯はiPhoneなので、タブレット端末はiPadとなる。

昔tvkで放送されていた「中島卓偉のお城へ行こう、せーの、キャッスル!キャッスル!」は神番組という。

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