後半:夢に散る権現山城合戦
空架橋のスマホがなる。非通知とある。
ーー誰だろ? トモダチいないのに……。
と不信し、無視。スマホが留守電に誘導すると、相手が流暢な京都ことばで話した。
「あーもしもし、上田蔵人はんよね? ワシやワシや、伊勢宗瑞や。蔵はんあんた籠城中やろ。ワシ、今から五千の援軍を率いて小田原を出たところなんや。なるべく早く助けに行ったるさかい、持ちこたえときや。ほななー。ガチャ。プープー……」
「え、えーっ!? てか、上田黒うどんって誰? 伊勢雑炊って何?」
架橋は、状況が何が何だか全く把握できない。架橋は走って土塁を上り、北側を確かめると、城の外では小川を境に、何万人もの敵がこちらをにらんでいた。その敵は人とゴブリンの混成だった。皆、異世界アニメらいいいでたちでいる。対する味方は数百、人とエルフだが、こちらは日本の戦国合戦らしい。エルフの陣笠姿が似合わないが。
架橋がビビって動揺している間に、敵が一斉に小川を渡った。いくさが始まった。
ーーこわい、こわい、こわい……。
夢なら早く覚めてよ。いや、これ、どう見ても夢だよね。なのに、なんで覚めないの?
ビビりまくる架橋の元でも、容赦なく、前線からの報告が飛び込んでくる。
「敵ドワーフ隊、浄龍寺砦を攻撃!」「敵魔術使い隊、宗興寺砦に攻撃!」「本覚寺砦がドラゴン部隊の被害を受けてます!」
等々。その都度架橋は怯え、縮こまる。
「ど、ど、ど、どうすればいいのよ? 勝てないよ……」
しかし、味方は意外にも強かった。敵の猛攻には苦戦しているものの屈せず、むしろ、退けていた。この報告が次々ともたらせると、架橋は正気を取り戻し、土塁に登って確かめに行った。
撃退は事実だが、壊滅までさせていない。
味方にもドラゴン部隊がいた。城の西の本覚寺砦から、人に操られた十数頭のドラゴンが上空へ高く飛んでから、急降下。口から火炎を放ち、敵を焼き殺している。反撃開始だ。
「が、が、がんばれぇ」小声で震えながら応援する。
しかし敵のドラゴン部隊の方が現れ、数で圧倒される。味方ドラゴンが次第にやられる。
この時、架橋の甲冑胴体部に突如、あの蛸のお面が描かれた風車ベルトが装着されていた。驚くことに、その蛸面ベルトが架橋に話をしてきた。
「ワシはこの鎧の妖精、槍の又左じゃ。いいかよく聞け、虹の名を持つおなごよ。我が鎧をまといし者は、我が力を得るなり!」
ここで架橋の目の前に、黄金の槍が現れた。風車ベルトになった槍の又左が教えた。
「変身ポーズののち、その槍を持ちながら高くジャンプすれば、パワーが何十倍にも膨らんで、戦国最強なワシの力が使えるようになるのじゃ! 便利だろ」
「は、はい……」
架橋はその言葉を疑うも、黄金の槍をつかんだ。武器を持ったら、怖くても戦わなければいけないと、思いが複雑となる。とはいえ、やるしかないのだ。
「へ、変身って? 恥ずかしいけど、まあ夢だし、変なのいっぱいいるし、まあいいや。ともかく槍の又左さん、私が戦えば勝てるんよね!」
「当たり前田のクラッカー……じゃなくて、利家じゃ!」
「なにそれ? つまんない」
「え、そう? まあ、無駄口はいいから早く飛ぶのじゃ!」
「そ、そっか。うにょうし。やったるど!」
架橋は、変身ポーズに疑問は沸いたが、とにかく腕を回せばいいやと回した。そして空高く飛んだ。
その時、蛸のお面に風圧がかかり、架橋の全身がまるでスーパーサイヤ人のように光った。人見知りの性格まで真逆のように豹変した。
架橋は突進する。味方の砦を襲うドラゴンの中から、一番高度を高く取ってる奴から狙う。刹那の早さで前進し、槍を振りかざしてからドラゴンめがけて叩くと、ドラゴンの胴体が真っ二つに割れて落ちた。
架橋は、自分の力に震える。架橋は最強の勇者、いや、武将となった。次第にワクワクが膨らむと、好きなドラマの決め台詞を放ちたくなった。
「よし、やられたらやり返す。倍返しや!」
ここから架橋の無双が始まる。空飛ぶ敵ドラゴンの半数なぎ倒し、退散させる。そうなると腹が減ったので、一口加賀カレーを出して食べる。腹が膨らむと攻撃再開。魔術隊の魔術は、朱槍を回して防ぎ、突進してなぎ払い、追い払う。また腹が減ると、一口治部煮を食べた。次に浄龍寺砦へ飛べば、黄金槍の百突きでドワーフ共を軽々倒していった。
「これって実は、雑炊の援軍いらなくね?」
架橋は調子に乗った。
ここで架橋の前に、一人の、大鎧をまとう大男が、勝負を挑みに前に出て怒鳴った。
「ワシの名は木曽義仲、お前、石川県民の前に津幡町民だろ。何故ワシを推さんのや?」
「え?」
「役場あげて、ワシの大河ドラマ化に熱心ではないか。前田のタコ野郎はいいから、こっち来い」
「でも貴方、余所者でしょ?」
「あっちだって同じじゃないか!」
「前田公は百万石の誇りと、お城と、最高に美味しい和菓子を今にもたらした。文化貢献半端ないよ。貴方にそれ、ないでしょ」
と、義仲に向けて舌を出した。
義仲は顔を真っ赤にして怒る。
「言わせておけばこのお河童娘っ、とっ捕まえてワシ推しに変えてやる!」
二人の一騎打ちがはじまる。怪力の義仲に対して、架橋は互角に渡り合った。さすがは前田利家の力、架橋は、工夫次第で勝てると思えた。
しかし架橋の横から、義仲を助けに割り込んだ真っ赤な鎧武者が、架橋に斬りかかる。架橋は間一髪避けて確認すると、それは巴御前だった。
巴は拳で義仲のほおを拳で殴り、叱る。
「あんた何やってるの? 相手が若い女だから鼻の下伸ばしてるでしょ!」
「ば、馬鹿野郎。ワシはお前一筋八十年だぞ!」
「あほ、人を牛丼屋みたいにいうな! てかさぁ、私が八十だったらアンタも八十やろ!」
「いやいや、生まれる前からって例えじゃ」
「ふん、どうだか?」
架橋は青ざめた。
ーーあ、あ、あの義仲を手玉にとってる。さすが巴御前……。
巴がいきなり突進し、架橋と一騎打ちを挑んできた。
架橋は対応しながらも、ジリジリ後退する。
「あれ、前田公、さっきより弱くなってね?」
と、ベルトを疑うと、答えた。
「ば、馬鹿野郎。そうではない。女には決して刃を向けてはいけないと、ラブラブな妻から言われてるだけだ!」
「私だって女の子なんですけどーっ!」
ついに架橋は巴の攻撃を防げず、巴の長刀を受け止める間に、巴の蹴りが風車ベルトに命中。ベルトは粉々に壊れ、架橋は腹から吹っ飛ばされる。
架橋はそのまま力尽きて、空から地面に落ちた。
「もしもし、もしもし、大丈夫ですか?」
舞岡市治の声で空架橋は目を覚ますと、ベンチから落ちていた。市治は心配で、反応があるまで同じ声がけをする。
架橋は起き上がるも、以外と、痛みは感じなかった。架橋はやっと、小声で答えた。
「あ、あ、大丈夫です……」
「よ、よかったですわ」
市治はホッとし、架橋の服についた砂を払い落とす。架橋は市治の親切に赤面するも、
「あ、ありがとう……」
と感謝する。
市治は架橋の衣服に砂が付着してるのを見たので、その小さな手で、優しく撫でるように振り落とす。
架橋はホッコリし、思う。
ーーこの子、優しいなぁ。ちっこいなぁ。綺麗だなぁ。礼儀正しいなぁ。和むなぁ。頭なでたいなぁ。妹にしたいなぁ……。
客観から主観、親近感、そしてショタ感へと心が移り変わる。でも、恥ずかしいから言わない。架橋が暫く市治を見ると、市治のスケッチブックに目が入り、描かれている絵が夢で見た背景そのまんまだった。架橋は驚き、市治のスケッチブックを取って凝視する。
「あ! これ、私が夢で見た景色だ!」
「え?」市治は首をかしげる。
「わー、すごい。こんな奇跡、ある? あ、そうだ。私ね、夢の中で、桜咲くこのお城の主になって敵と戦って勝ったのよ!」
架橋は興奮すると、ここでスマホが電話で鳴る。架橋は親戚からだと取り、話した後、
「急用ができたので、じゃあね!」
と言って、市治と別れた。
お互い、自己紹介はなかった。
市治は見送るも、少し不思議に思った。
「確かに永正七(一五一〇)年、ここでいくさがあったことは確かですが、お城が落ちたのは旧暦の七月十九日ですよ。新暦に直したら八月の終盤か九月ですよ」
と、桜の季節の合戦ではないとささやく。
でも、古戦場でもあるこの公園で、その戦いに、夢であれ参加した架橋が、うらやましく思えた。しかしその中身が史実無視のメチャクチャのうえ、負けていることは、知るよしもない。
そういえば、名前を聞いてなかった。でも、
「ま、仕方ありませんね」
もう合わないだろう。残念だが仕方ない。
新横浜に戻った空架橋。新しく入る社員寮の最寄りは、北口ではなく篠原口だったが、
「あ、とーちゃんの言ってた新横浜だ……」
と、津幡駅以上の殺風景に、何故か安心した。
篠原口側の風景はこの何十年、ほぼ変わってない。
キャラクター紹介②空架橋 (きのした かけはし)
〜横浜生まれ横浜育ちのはまっ子、但し石川県津幡町の横浜〜
別名:そら
年齢:22。大卒直後
性別:女
誕生日:9月10日
血液型:非公開
身長:160
株式会社キノシタフーズ勤務、新卒
人柄:人嫌いではないが人見知り。
方向音痴を自覚しながら知らぬ道によく入る。
よく食べる。よく寝る。身のこなしが軽い。
なんとなく天然。
普通免許持ってる。
歴史は地元にゆかりの高い前田利家と木曾義仲倶利伽羅峠合戦しか知らない。
他人の趣味に自分を合わせられる子。
バランスよい体型はよく褒められる。
石川県津幡町の横浜 (加賀側)出身。実家はカフェ経営。
金沢美術工芸大学卒業
北横浜にある叔父の会社に就職 。その為秘密だがコネで入社してる。人見知りで面接試験がダメなのが目に見えていたから。本社兼工場はかなりでかい。通勤は会社の送迎バス。
父の実家は津幡相窪で農家。
母の実家は加賀市出身で片山津温泉の有名旅館で働く。
新横浜駅に近い港北区篠原町坊海道 (ぼうがやと)にある社員寮に住む。