表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/15

ep.5 大切な人

ネイサン少し先走りすぎですね。

「ネイサン様、おはようございます・・・」


いつもの時間にすでに着替えているはずの主の寝室へ伺う

本来は主人付きの侍女があるはずだが女嫌いの主人のおかげで執務の整理や身の回りの世話

屋敷の使用人の管理など多くの業務がある

それでも給金が破格なこと、何より幼い頃から見ている主人の為に辞める気がおこることはない

老体に鞭打って本日も主人の為に働く


既に着替えているはずの主人は未だベッドの上で座り呆然としている

珍しい光景だ

唯一無二と言われたアヴァ様が来られてから随分と表情豊かな主人となった


「おや、お坊ちゃま。珍しいですね。如何致しました?」


主人の呼び名をあえて幼い頃のそれにして声をかけた


「・・アヴァに大切な人がいるそうだ。」


なるほど。いつもなら“お坊ちゃまと呼ぶな”と言われるがこれは蛻の殻だ


「アヴァ様に?」



「私が大切な人ならどんなに良かったか・・」


事の経緯を知っている私としては是非言いたい


「アヴァ様からしたら知り合って数日の人物を大切な人にするのは大変難しゅうございます。焦らずこれから知って貰えば良いのですよ」


じとっとした目で睨まれる


「影の報告をまずは待ちましょう。」


幼い頃から見ている主人のその目は人生経験豊富なこの老体には何のダメージもない



のそのそと起き上がり着替えを始める主人の傍で果実水を用意する







いつもより鈍間な主人の動きをフォローしつつ朝食の席へ案内する

既にアヴァ様が座っておられた



「おはようございます。」


主人を見ると席を立ちあがり礼を取る

平民で孤児とは聞き及んでいたが、愛想も良くある程度の礼儀は分かっていらっしゃる方だ


「おはよう。」


ぎこちない笑顔で答えた主人は本日は向かいに座る


「あの、本日から暫く忙しいと伺いました」


食事が運ばれてくる間、アヴァ様から声を掛けられた


「あぁ、ちょっと色々あってね。夜は遅くなるかと思うよ」


そう答える主人に対して少し迷ったような様子を見せたアヴァ様


「しばらく公爵様は日中不在とお聞きしました。その間、仕事へ行っても良いでしょうか?」


ガシャンっと主人がフォークを落とした

顔には“絶望”と書いてあるように見えた


「そっ、それは・・商人に会いに行くのだろうか?」


普段なら言葉の駆け引きなど得意な主人が、ストレートに物を言うのも珍しい

その様子に一瞬きょとんとしたアヴァ様は少し考え、破顔される


「それは良いですね!仕事の後に会いに行ってきますね。帰りは少し遅くなります」



墓穴掘りましたね


あ、う・・・そう言いながら言葉にならない主人に対して、了承と思ったのかニコニコと食事を始めたアヴァ様

本当に夫婦になったら我が主人は尻にしかれるのかもしれない







“大切な人に会いに行く・・”


ため息が止まらない

今日の予定の隙は無いだろうか


朝食を終え早々に執務室で執務を始めた

いまいち集中できない








「久しぶりだね!アヴァ!結婚式の準備は進んでいるかぃ?」


数日ぶりに顔を出した職場で女将に声を掛けられた


「結婚するって決まったわけじゃないんです!あの方が勝手に仰っているだけで・・・」


3か月後の条件は言わない方が良いだろう

どちらにしろ断る予定ではいるが、詳細を問われると公爵様にご迷惑が関わるかもしれない


「あんな良い男、もったいないじゃない!」


そういってバンッ!と女将に背中を叩かれた


確かに良い物件ですが、女将さん、いずれ殺されると思うとお断りすると思うんです


そうは言えずに苦笑いする


「女将さん、今日は仕事をしようと思ってきたんですが、人手足りていますか?」


女将がしばらく休みで良いとは言われたが元社畜は働かないと気が済まない


「おや?良いのかぃ?そしたらこれから忙しくなるからね、手伝ってくれるかぃ?」


皿は割らないようにね。そう言いながら快諾してくれた

もちろん、またバリバリと働くアヴァをみて女将も店主も同僚も目を丸くしていた




「お疲れ様でしたー!お先に失礼します!」


すっかり日が落ちた

久しぶりにバリバリ働いてなんだかすっきり

やっぱりあたしは働いてないとね!と嬉しいやら悲しいやらの感情


店が終わった後、すっかり暗くなった夜道を歩きながら目的の場所へ向かう

護衛の人も目立たない様についてきてくれているから普段より心強い気がする

沢山の露店の光が灯っているこの通りは前世でいう屋台村の様なイメージだ

平民らしい店が集結している

ここの露店の一つが食材を卸してくれている

久しぶりに会えるとわくわくしている自分がいる


「こんばんは!!」


露店の暖簾を潜ると顔見知りの店主がいた

背の高い見目の良く若い店主はあたしの姿をみるとにこりとほほ笑んだ


「アヴァ、久しぶりだなぁ!元気?」


そう言ってぎゅっと抱きしめてくれた

この店主も元は孤児だ

アヴァが孤児院に入ったばかりのころ、良くしてくれた兄貴的存在


「うん!久しぶり・・」


抱きしめ返した直後

バキバキと音がした

思わず振り返るとネイサンがつけたはずの護衛の一人が傍にある木をへし折っている


「・・・??」


店主と抱き合ったまま二人とも唖然とする


もう一人の護衛は成す術もなくおろおろしている



「だっ・・・大丈夫ですか?」


「アヴァ?この人たちは?」



同時に声が出た

アヴァはその経緯を店主に伝えた


「すっげぇなぁ。アヴァ、昔から可愛らしかったもんな!」


そういうと先ほどの護衛がいた方からまた、ガッシャンと奇妙な音がする

振り返ると、傍にある別の露店の皿が割れている



「・・・?」


珍妙な動きを見せる護衛が気味悪く感じる



「まぁ飽きられたらこっちにおいでな。俺が面倒見てやるから」


店主はにかっと笑い八重歯を出す

笑って返事をしようとした直後、アヴァの腹回りに何かが巻き付いた


「私が飽きられる事はあるかもしれないが、私が飽きることはない」


顔を隠していた護衛が顔を見せる


「えっ!?」


「話を聞いていたが我慢の限界だ。すまないが、私が自ら彼女を手放すことはまずない。彼女が了承してくれさえすれば一生傍にいるつもりだ。」


鋭い深紅の眼を店主に向ける


目をぱちくりさせた店主はアヴァとネイサンを見比べる


「この方が・・・アヴァの言っていた?」


アヴァに視線を向けて確認の質問をする


「うん」


背後から抱きしめられた気恥ずかしさもあり顔が熱くなってくる


「お偉いさんだね。アヴァが結婚を承諾した際には宜しくお願いしますよ。大事にしてやってください」


そういって二カッと笑う


「パパ!・・・アヴァ姉ちゃん!」


遠くから聞き知った可愛らしい声がして一斉に視線を向けた

小さな少女とおなかの大きい女性が手をつないでこちらに歩いてくる


「アヴァ・・・姉ちゃん?」


言われた言葉をネイサンは繰り返す


「アヴァ、あの方は?」


何となく感じ取ってはいたが、自分のしたことが気恥ずかしくなり違っていてくれと思いながらアヴァに確認する


「あの人は、こちらの店主の奥様と娘さんです。こちらの店主は私と同じ孤児院で育っていて、兄のような存在なんです。」


そう言われ店主を見るネイサン

にやにやとした顔をした店主と目が合う


()を宜しくお願いしますね?お偉いさん。」


本日一番の溜息と恥ずかしさでアヴァの肩に顔を埋めて暫く動けなかった






読んでいただいてありがとうございます。

誤字脱字あれば教えて頂けたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ