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ep2 公爵さま、ぐいぐい来るのですが?

読んでいただいてありがとうございます。

相変わらずご都合主義続きます。

ネイサン→アヴァの片思い状態

「遅くなりましたぁぁぁ!」


バンッと扉を開け大声で入店する


「アヴァ!あんたまたっ!もう!遅刻の常習犯よ!何でそんなにマイペースなのよ!」


朝から深夜までのこの飲食店は孤児の私を雇ってくれたありがたい食堂

ここの店主も女将も口調こそ強いが父母のような温かさを持つ人達だ

だからこそほぼ毎回、遅刻する私を根気強く雇い続けてくれている


「顔洗ったのかぃ?私が伝書飛ばさなきゃまたどうせ寝続けて昼の出勤になってただろうね。この子はほんとに…。」


ため息とともに優しく、ほら準備してきて頂戴。店が混みだしたんだよ。と背中を押される。


アヴァはよく遅刻する。

元々のんびりした性格の女性だ。

あまり怒ることがない温厚な人物

のんびりしすぎて、店で口説かれているのにまったく気付かず、口説き落とせない男共が何度肩を落としていったか。

よく皿も割る、配膳を間違える

客を「お父さん!」と呼ぶことさえある。

失敗続きの娘だ

そんな本人、落ち込みながらも相変わらずのほほんとしている、所謂、天然だ。

そんなアヴァだから憎めないここの店主達は雇い続けてくれるのだろう


原作では棄てられてしまうアヴァも容姿は良い方だ

服では隠せないそれなりにふくよか胸は男性を刺激する

容姿も、ストレート過ぎるほどの真っ直ぐなライラックの色合いの髪は陽の光に当たるとキラキラと輝く

キリッとした目元に小さくある黒子は、色気さえ感じさせる。

プクリとした桃色の唇も形が良い

貴族であれば悪役令嬢ぴったりだろう


(貴族じゃないけどね。二人の邪魔者になるわけだからどうしても容姿もこうなるのかしらね。)


そう思いながら、白いエプロンを身に着け髪を一括りに結ぶ


前世社畜のあたしは仕事と聞くと何故か、やる気に満ち溢れる

社畜で死ぬほど辛くても、結局“働いている自分”が好きなのだ。


「よっしゃ!やるか!」


あたしの記憶では、飲食店なんてやったことないけど…。

大丈夫、私自身、アヴァの記憶はちゃんとある。

やる事はわかる。

おまけに自分がやらかしてきたことも…


あたしがした訳ではないのに無性に申し訳なく、恥ずかしくなる仕事の黒歴史


穴があったら入りたい


店に出ると、テキパキと仕事をこなす

あまりに見慣れない店主は客のオーダーを間違えるし、女将は“何か悪いものでも食べたのかぃ!?店のことは気にしなくて良いんだから、あんたのペースで仕事してくれて良いんだよ!!”と心配している。

同僚は何度皿を割ったか…。


(記憶戻る前の私、相当やばいな…)


周囲の反応を見て、確信した。

アヴァは仕事ができない。出来なさすぎるが、キャラクターとして許されるタイプの子だ。


昼休憩を挟み、戻って来ると丁度混雑も一段落したところだ


「休憩、ありがとうございました〜…っ!?」


声をかけながら裏口から食堂へ戻ると女将が誰かと話している

見覚えのある誰かとー…


(あいつ!?)


黒髪の美形男子なんてそうそういない。

女将は、頬を上気させ時折「いやだぁ〜」と黄色い声をだして対応している。

全力で女を出す女将に店主が嫉妬してしまうのではと恐る恐る見やると、何とも言えない奇妙なものを見たと言わんばかりの顔で女将を見ている。

なるほど。

恐らく一緒になって既に40年近くなる夫婦ともなると嫉妬は少なくなるのか。


ハッと我に返った店主は、徐ろに女将とその男の傍に行く


(何だかんだ言っても奥さんが他の男にデレデレしてるのイヤよねぇ)


なるほどと一人納得し、その様子を見守る。


「うちのやつが気色悪い声で、すんませんなぁ…。年甲斐もなく浮ついてるみたいで…。」


何となく申し訳無さそうにペコリと男に対して頭を下げる


「気色悪いって何よ!?あんたっ!」


この店はかかあ天下。

女将の地雷を踏み抜いた店主は胸ぐらを掴まれている


「年甲斐なくって何さ!あんたも年甲斐なく、飲み屋のリリィちゃんに鼻の下伸ばしてんだろ!」


店が休みの時に、鬼の居ぬ間に何とやら…。

どうやら店主は女将の寝ている隙を狙って飲み屋のリリィちゃんの元へ足繁く通っていたらしい

もちろん、楽しく飲んで騒いでおしまいな為、それ以上の事はないのだが、若くノリの良い娘に、鼻の下を伸ばしデレデレと酒を飲む


(そりゃあ夫が他の女に鼻の下伸ばしてたら…)


やりとりを見ながらぼんやりと考える


「今月、あんたの酒代凄いことになってんだから!いい加減しなっ!!」


(そっちかぃ。)


思わず心のなかで突っ込む

なるほど、どうやら長年連れ添うと嫉妬以上に思う所があるようだ

そんな事をぼんやり考え言い争う二人を見ていると

いつの間にかすぐ傍に来ていたネイサンに腰を攫われた


「!?」


驚いてネイサンをみると相変わらずニコニコとした何処となく嘘っぽい笑顔を貼り付け


「女将と話をつけました。暫くは結婚準備休暇を取って良いとのことでしたので、迎えに来ましたよ。」


「はっ?」


想像もしていなかった言葉

今日だけで色々ありすぎてもう頭の処理が追いついていない


「アヴァ、こんな好い人いたなんてね!おめでとう!店の方は心配いらないから暫く旦那さんとゆっくり過ごしなね」



(あんた、何言ったよ!?)


思いがけず女将が賛同している事に驚く

話の内容は聞き取れていなかった店主は今の会話が唐突すぎて理解できないのだろう、固まっている。


「ありがとうございます。それでは失礼致しますね。」


ニコリと微笑み呆然とするアヴァを連れ出すネイサン

そのまま公爵家の馬車に押し込まれる

乗合の場所しか乗ったことがない私には、驚くほどの乗り心地に驚く


「さて、アヴァ。」


名前を呼ばれ、本人を睨みつける


「今から行くのは私の家だ。君には今日から私の家に住んでもらいたい。」



「お断りしますとお伝えしたはずですが?」


驚くほど冷ややかな声が出た

ネイサンは少し考えた素振りをした


「確かに。でもまだ君からのお礼を貰っていないしね。それに私自身も好きな子を簡単には諦められないんだよ」


その言葉に鼻で笑う


「私を好き?冗談やめてください。一目惚れなんてあるわけないんだから。」


大体、原作の平民と公爵の結婚自体普通ありえないのだ。何をどうしたら結婚できるのだろうか。

あたしはその理由を読む前に消えたからわからない。



大体女に対して常に冷血な視線を浴びせると噂のネイサン

今の彼は、ニコニコと温厚な笑みを(アヴァから言えば嘘くさい)貼り付けているためそんなふうに見えない。


「おかしいなぁ…。すぐに承諾の返事が聞けると思ったんだけど。」


(なんでやねん!?)


心のなかで思わず突っ込む

この公爵の心からの自信は一体何?


ふと朝からのやりとりを思い出し気付く


「…あの。私って名乗りました?」



彼の顔を見て前世を思い出し、思わず私が彼の名前を呟いたのは覚えている

だが、私の名は…


「うん?どうだったかなぁ?…あ、アヴァ。もうすぐ着くよ。」


明言を避けられ、話をすり替えられる

指をさす方をとりあえずみると、なるほど。

公爵家の立派な門を通り過ぎるところだ

長い屋敷までの道に貴族らしくないデイジーの花が一面に咲いている


「あ…」


デイジーは前世のあたしも、このアヴァも好きな花だ

前世のあたしが好きだったから、無意識にアヴァもこの花を好きになったのかもしれない。

それにしても二度言う。貴族らしくない。

薔薇の花とかのイメージだったのに。


「アヴァが好きだった花だからね。いつでも見れるようにね。」


「そうですか…って、え??」


何で私が好きな花を知っているのか

ますます気持ち悪さに拍車がかかる

若干、ひいた目をしていたのか。


「そんなあからさまだと傷付くなぁ〜」


ネイサンは対して傷付いていなさそうなのほほんとした素振りで返してきた


そんなやり取りをしている間に屋敷の入り口に馬車が止められ戸が開けられた

優雅に降りたネイサンは優しげにこちらを見つめ手を差し出してきた


「どうぞ。ようこそ、アヴァ」


だから住みませんって…そう思いながらも差し出された手につい己の手を差し出してしまった。

馬車を降りると沢山の使用人が頭を下げている


「彼女はアヴァだ。私の妻になる唯一無二の人だ。丁重に扱ってくれ。」


その言葉に使用人はにこやかに礼をとる

流れる様に“妻”と言い出すこの男に対して、驚きに加え、自分の名や好みまで把握している恐怖や気味の悪さが追加された

それでも何処か理解していて当然と思うのは短いながらも原作では夫婦だったのを知っているからなのだろうか。

原作を読んだといっても序盤の方しか読めていないのだが…。

それでもあまりにも違いすぎるイメージに困惑と混乱が増えていく


本当にこの世界はあたしが知るラノベの世界なのだろうか?

本当にネイサンは本人なのだろうか?


「結婚にあたって君には、とある伯爵の養子になってもらうよ。身分制度がこの時代厄介だね、本当に。伯爵の義娘になってもらった後、僕と結婚をしてほしい。あ、君の懸念している女よけなんてするつもりはないから安心して嫁いできてくれて良いよ。」


客間に通され温かな紅茶を出された

ふかふかのソファに座らされる

目の前にいるネイサンは長い脚を組んでいる


「はぁ。」


自分の想像以上の間抜けな返事が出た


「嘘だと思ってる?君をはじめて見た時に、本当に忘れてた感情を思い出したんだよ。今度こそ君に声をかけ、一生を添い遂げようと私は決意したんだ」


そんな一人で惚れられ

一人で一生添い遂げようなんて決意されても…。


そう思いながら出された紅茶と、目の前にある茶菓子を一口頬張る。


「…それとも、もう好きな人いるのかな?」


先ほどよりも1オクターブ程低い声で、予想外のことを質問され思わず嚥下しかけた紅茶で咽せ込み、それに慌てた私は、カップを派手に落とした


「熱っ!?」


仕事用の白いエプロンと、明るいベージュのスカートが紅茶の色にじんわりと染まっていく


あーやっちゃった。本当に、あたしならやらないようなミス。私は、そそっかしいから多いんだよなぁ。

なんて考えていると


「アヴァ!?大丈夫!?」


ガタンと激しい音を立てネイサンがこちらに回ってくる

ガバっとスカートを持ち上げ、大腿を晒される



「…っ!?」


あまりの急な事に声が出ずぴしりと固まる

あたしならビンタの一つでもくれてやるのに。


「良かった。火傷はしてないね。」


ネイサンが人差し指を立てくるりと円を描くと

ふわりと落ちたカップがひとりでにテーブルに戻ってきた

そうして床に溢れた筈の紅茶がふわふわと雫となり徐々に水球の様な形になり紅茶に戻る

それを呆然と眺めているとネイサンは今度は人差し指と親指でパチンと鳴らす

同時にどこからか“チリン”とベルのような音がした



コンコン…


音に対して反応したのか先程まで下がっていた使用人がやってくる


「アヴァの服が紅茶で、汚れた。着替えを。後、溢れた紅茶だから変えて。彼女は猫舌だから火傷をしない程度に温めてだして。」


んな過保護な。

着替えなんて良いです。 

あれ?あたし猫舌って言ったかな?


思わず突っ込もうと口を開けた瞬間、ふわりと自分の体が持ち上がる


ネイサンが横抱きにしたのだ


「ついでに君の部屋へ案内するよ。そこで着替えてね」


あたしの部屋!?


結婚の承諾もしていない中で、既に嫁の部屋を作るなんて驚いた

その後、使用人に対して断りを入れるもあれよ、あれよと言う間に着替えさせられ、何故か着飾りー


気付けば私は、落ち着いた淡い水色のドレスを着ていた。平民の私からしたらダンスパーティーでも行くのでは!?と思う程豪華だが、公爵家ともなれば恐らくこれは日常着だろう。

髪は綺麗に結い上げられている


そうして再び案内されたのは


「しっ、、寝室!?」


二人の寝室だという部屋

…の横にあるサロンだ。


「うん、いつかはね。一緒に眠れると良いなぁとここは二人の寝室にしたよ。その後ベッドで語らうも良いけど、何気ない会話をここでも出来ると良いなぁと思って…」


作っちゃったーと屈託なく笑う彼は本当にネイサンなんだろうか。

原作では感情がないはず。それなのに目の前にいる彼は“よく似合う。可愛いねぇ。もう食べちゃいたい”と鼻の下を伸ばしている。


色々早まり過ぎだろう

そんなふうに思う

だが、いろいろ良くしてもらったのは事実なのでとりあえず借りた服に対して礼を伝える


「素敵なドレスを貸していただいてありがとうございました。」


「…君のだけどね。」


“貸して”が納得いかなかったのか少し不貞腐れたような表情を見せる


あぁ、と彼はそのまま私の姿を見て暫し思案する

そのままパチン!とまた指を鳴らす


「これが足りないね。僕が渡したかった花だよ」


そう言って花束と深紅の宝石がついた小ぶりのネックレスが現れた


「君と一生を添い遂げたい。今度こそ。どうか結婚してほしい」


ぽかんと何処からともなく現れる物質

異次元空間でも存在しているのだろうか。


私の様子にあぁ。と納得するネイサン


「身分が上に行けば行くほど、魔力も多いからね。こんな程度は朝飯前だよ」


この魔術で仕事もしているしね、と笑っている


当たり前のように受け入れていた


この世界では身分が高ければそれだけ魔力保有量も多い。

平民にも魔力持ちが産まれることはあるが、女将の様に伝書を飛ばす程度ものだ。

べッドフォード家は、魔力、武力、共に他家に比べ秀でている家柄なのは平民でさえ知っている程有名だ

ネイサンの父も隠居する前は、魔術師団長だった

能力が高いからこそ、多忙を極める

父は仕事で母との時間を削られた。それはもう母が嫉妬で狂う程に。

仕事、仕事で家を空ける旦那に対し、浮気しているのでは…など不安の蓄積した母は着飾ることで繋ぎ止めようと必死になる

父が現役の頃は、結婚後殆ど家に寄り付かなかったそうだ、否、帰れなかったそうだ

これでは彼女の心が離れてしまうと、息子が成人した頃合いにさっさと爵位を譲り、自らは母との領地で隠居する事にした。

結局のところ父も母のことを愛していたのだとネイサンは言う



「我が家は、欲しいものは何としても手に入れるんだよ、私は君が欲しい。」


一見真摯に見える瞳で見つめられる


「私の妻になれば、公爵夫人としてのお付き合いも最低限で良いし好きな物を好きなだけ買えるよ。」


「…私は平民ですので、貴方様の妻はつとまりません。」


ありがたい申し出ですが…とやんわりと断りを入れる

どんなに条件が良くても殺されるのだけは御免被りたい。


「大丈夫、知り合いに頼んでるよ。さっきも伝えたと思うけれど、君は伯爵家の養子として入る事で、養女として僕に嫁ぐんだよ。」


…なるほど。原作でもそうやって結婚したのか。

合点がいく。

それにしても何でこんなに積極的なのだろうか…


「このネックレスは絶対に着けていてね。厄除けだよ。絶対外してはダメだよ」


いつの間にか背後に来ていたネイサンにあっという間にネックレスをつけられた

そのまま何かつぶやいた後、ネイサンはネックレスの着脱部に手を添えた

温かい光と感覚が一瞬感じられた後、すぐに消えた


「え?」


何事?と振り向くとニコニコとネイサンが笑っている


「え?外れないようにしておいたよ。その方が僕は安心だからね」


“何か問題でも?”と言いたげな表情で問いかけてくる


「いや。何でですか!?外してくださいよ、これ」


あからさまにネイサンの瞳の色のネックレスを首に装着され、ぐいぐいと引っ張ったり着脱部位を触るも一向に取れる気配はない


「だから、厄除けだって。アヴァに何か起きてもすぐにわかるように。いざとなったら君を守れるようにおまじないかかってるから」


“君の居場所だってわかるからね!”


そうニコニコにと言われてしまうと溜息しか出てこない。

 

誤字脱字あればご連絡いただけたら嬉しいです。

2024/12/17 誤字編集

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