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ep1 前世を思い出しました

はじめまして。

よくある異世界転生ものです。

ラノベの世界に転生したことに気付いたアヴァ

主人公のネイサンとの結婚を避けるために奮闘します


ご都合主義な設定

カツンカツンとヒールの音を響かせて早歩きで町中を歩く

社畜のあたし。

今夜も終電を逃したわ。

手には今ハマっているラノベのサイトを開きながら

タクシー拾ったらゆっくり読もう。

今日は帰ったら、ビールでも飲もうかな。

あー。でも明日も6時出勤しなきゃ。

仕事が終わらん。


「こんな人生のはずじゃなかったなぁ」


呟きながら歩道を渡る。


何かが光った


あっ…と思うより先に身体への衝撃と同時に私の意識は途絶えた。





ふっと目を開ける

キラキラと窓から光が差し込んでいる


何となく目元が濡れている

手を当てる


「涙?何の夢だったかしら?」


指先が濡れているのを確認し首を傾げた


ギシッと音を立てるベットから起き上がり窓の方へ向かう

ギィっと鈍い音を立てる木枠の窓を開き、外の空気を目一杯、肺に取り込んだ


「ん〜っ。良い天気〜。」


大きく伸びをし、景色を眺める

遠くを見れば雄大な山々が広がる

山だけでなく程良く賑わうこの町並みが私の自慢


開け放たれた窓から金色の小さな光とともに手紙が一通届いた


「すごーい!窓から手紙が…」


感動しかけた所で、ハッと気づく


今更?

毎日のことでしょう?


「私…何でこんな感動して…」


自身の反応に驚いていると、手紙は、ひとりでに開封され、中から便箋が一枚

これまた不思議とぺろりとひとりでに開いた


「いつまで寝ているんだぃ!?遅刻だよ!」


突如手紙の中央から大きな赤く熟れた唇が飛び出し、大声をあげた


「ひっ!?」


しまった!また遅刻!


聞き覚えのある声に、ハッと思い出し慌ててバタバタと着替える

どうせ遅刻するからと昨晩作って置いておいた硬くなったパンを頬張る


賑わった街の中をひたすら走る

すれ違いざまに誰かと肩がぶつかった


「あ!ごめんなさいっ!」


慌てて振り返る

ニヤニヤとした下心たっぷりですと顔に書かれていそうな輩にぶつかった


(運悪っ…)


「痛いなぁ…ねぇちゃん。右肩、いてぇよ。悪いと思ってるなら、俺んちまで荷物運ぶの手伝ってくんない?礼はするからさぁ〜」


私の身体を下から上まで舐めるように見るこの男

ゾワリとなんともいえない不快感が漂う

直後、私の手を握る男

スッとその手を引っ張り、男の側面に回り込む


「っ!?」


静かに男は尻もちをつく


「…急いでいるので、失礼しますね。」


あまりに綺麗な所作に男の方は呆然とする

そんな男を冷ややかな目で見つめつつ、踵を返す


「このクソ女っ…」


去る私に我に返ったのか男が立ち上がり向かってくる足音と気配がした


(うざいなぁ。男尊女卑な思考は時代遅れだっての……ん??)


男尊女卑なんて今まで一度も考えたことなかった

この時代、男性のほうが立場が上なのは当たり前


(なんで…急に…。)


ぼんやり考えていると、罵声を上げながら向かってくる男の鳩尾にでも一発入れてやろうかと振り向いた直後

目の前にひらりと黒い大きなものが映る


「失礼。お困りのようだから声をかけたが…どうした?」


口調は優しげだが冷たく睨みつけるその視線に先ほどの男とは別の意味でゾクリとする

私より15センチは大きいだろう身長

漆黒の髪色

何より、深紅の瞳がとても印象的だ

      

(この人は…()()()は知ってる…)


何処かで読んだ

否、ハマってるラノベだ

『凍える心を溶かせるのは。あなただけ。』と言う今、流行りの異世界転生のラノベ

確か、終電なくして、タクシー拾えたら着くまでの間続きを読もうと思っていたんだった。

主人公の…



「ネイサン・ベッドフォード…」


ポツリと呟いた途端

ブワッと風が吹く

その風はあたしの身体を包み込む

その瞬間、頭が痛くなるほどの膨大な何かの記憶


始発に乗り、殆ど終電を逃す髪の長い女性

サービス出勤、サービス残業は当たり前

超がつくほどの大ブラック企業だ


『ごめん、また今週休日出勤…』


誰かに謝っている

まともな食事もほとんど取れずに日々仕事をする


ああ、辞めたいなぁと何度思ったことか

でも就活する元気ない…

そんな堂々巡りの考えを日々頭に張り巡らせ過ごしている

そんな中で友達がハマっていると言うスマホのラノベサイト


『何も考えなくて、没頭するから何か良いのよ』


なんて言われ試しで読みだしたらハマってしまった。

当時付き合っていた彼に伝えたら


『好きなことが出来たのは良いけど…仕事も忙しそうだし、ちゃんと休むんだよ。◯◯…』


珈琲の香りの彼はそんなこと言ってたかな


あたしの名前…



思い出せない。


あたしを包む風が消え、フワッと目を開けた


私の名前…



(アヴァ·インノチェンテ…)



アヴァもネイサンもラノベの中に出てくるキャラクターだ

孤児だった為に孤児院で育てられたアヴァ

公爵位を持つネイサン

なんの接点もないはずの、本来なら関わるはずのない二人


(今思うとおかしいのよね。どうやって知り合ったのかしら?)


ネイサンは大の女嫌いで有名

一部では男色家なのではも噂されるほどだ


公爵位のネイサンは両親に厳しく育てられた

男性の家庭教師には間違えられればムチで打たれ

泣き言を言えば父は叱咤する

そんな時に母に泣き言を言っても、対して興味は持たれず、抱きしめてくれたことすらない。

母は、父にしか興味がないのだ。

異常なまでに父に執着する。

外で新しい女を囲うのではと日々恐怖心を抱き

父のために綺麗でいることにしか興味はない

彼が12の頃には既成事実を作ろうとした女性の家庭教師に薬を飲まされ、襲われそうになったこともある


(確か間一髪で、執事が見つけ助けたんだっけ)


貞操が守られ良かったわね、なんて今更思う。


そんな事があり女嫌いになったネイサン

彼の女性を見る目は常に冷ややか

それでもその美貌と地位から女性には人気だった

そんな彼の「女よけ」の為の隠れ蓑にたまたま私が選ばれた


(あれ?なんで選ばれたんだったかしら?)


そうして彼と結婚までしたが、後に彼が出会った女性に心を惹かれ、アヴァは捨てられた


(確か、ネイサンの想い人を殺そうとして…)


階段から突き落としそうになった場面をネイサンに見られ、怒り狂った彼にその場で切られ絶命

それが、私。




「大丈夫ですか?」


頭上から低めの落ち着いた声が聞こえ我に返る


「あ…。」


(マジでか…この人に殺されるんか。あたし。)


思い出した。

最悪のシナリオ

あれ?じゃあ…


(マジか。あたし死んだんか…。)


頭を殴られたようなズキズキとした痛み

前世のあたしもたかだか2◯年で死んで

今生の私も若い内に死ぬのか


「無理だぁ。」


その場に崩れ落ちた


頭上の男性が慌てている様子が雰囲気で取れる

そんな事、今はどうでも良い


今生では年を取るまで生きていたい

あわよくば誰か素敵な男性と巡り合い穏やかに生きていたい


(この人と関わるとヤバい)


そう思うと素早く立ち上がり男性の方を見た


「助けてくださってありがとうございます。大丈夫です。急いでいるので、失礼致します。」


ペコリと頭を下げ、ネイサンに背を向ける

そうして歩き出そうとするとー

ガシッと腕をつかまれた


「お怪我がなくて良かったです。しかし、恩人に御礼もなしに去るのはどうかと思いますよ…」


そう言われ振り返ると深紅の瞳と目が合う


「御礼ですか…」


(恩着せがましいわね。)


ため息をつきながら、目の前の恩人をじとりと見る

記憶を取り戻す前なら、御礼に…と何か声をかけだろうが、記憶があれば話は別

自分はこの男に殺されるのだ

関わらないのが一番だ



「ええ、御礼です。…どうです?私と結婚しませんか?」


突拍子もない発言に鳩が豆鉄砲を食らった顔となるのは許してほしい


「はっ…??」


「貴女に一目惚れしました。」



混乱しつつも頭で整理する

なるほど、助けたお礼に女よけになれと。

原作でも、確かに孤児の私がお貴族様に言われれば逆らえないし、見目も良いし…了承したはずだ。

原作の二人は、こうして知り合い結婚したのだ



「…お断りします。」


予想外の答えだったのか今度はネイサンが目をまん丸くしている。


「……なぜか聞いても?」


信じられないと言った表情でこちらを見ている


その顔なら断られないとでも思ってるのか


「初対面の男性に申し込まれても…それに私は孤児です。どんな身分の方か存じ上げませんが、高貴な方であろうと予測はつきます。貴方様と結婚し私が貴族として過ごすのには些か無理があります。」


よし、言ったった。

フンッと鼻息荒く、あたしの中のアヴァに対してか自慢げな私


「……私はネイサン·ベッドフォードと申します。アヴァ、どうか私と共に生きてください。」



(いや、話聞けよ。)


前世を思い出した途端、つい口調も雑になる。


この人、どうやっても私と結婚して女よけにしたいのね。私の人生なんだと思ってんのよ。

身勝手なネイサンにイラッとする


「…お断りします!!失礼します!」


今度こそ強気にしっかり、はっきり断りを入れ背を向け歩き出した


後を追う気配はない。

これでもう私は生きられる。

目指せ、100歳!

思い出した時はショックだったけど、まだまだアヴァとして生きていけると確信をしたあたしは晴れやかな気分だ


「やばっ!遅刻!」


ゴタゴタに巻き込まれ遅刻は確定

社畜のあたしは慌ててまた走り出した。


読んでいただきありがとうございます。

誤字・脱字等あれば、ご連絡いただけると嬉しいです。

連載物なので続きます。

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