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*5*

 きららは有理香に、高校受験対策の勉強も、そうではない雑多なことも、たくさんのことを教えて話した。

 時には、きらら自身の経験も有理香に語った。

 きららの“指南”は目に見えて効果を発揮しており、12月になる頃には、有理香はたくさんのことに目を輝かせるようになり、笑顔も増えていた。

 しかし。

 不思議なことに、いつまでたっても有理香の部屋は殺風景なままであった。

 ――きっとうまくいっている――

 ――きっと有理香さんは素敵なものを見つけてくれる――

 そんなきららの希望に満ちた予感は、ある日突然断たれてしまう。

 ある日。いつものように有理香と優海の自宅に来たきららを迎えたのは優海であった。

 ……その顔からは『歓迎』などというものは感じ取れず、『拒絶』しか見つからない。

 きららは絶望しながら、全ての点が線で繋がって冷静に優海に対峙していた。

「石英先生。本日付で貴方との契約を取り止めます。……帰ってください。」

「そうですか。このことを有理香さんは知っていますか。」

「あの子の意志は関係ありません。私が決めたことです。さあ、帰ってください!」

「じゃあ優海さんに聞きます。今後の私のために、どこがいけなかったか、ご満足いただけなかったか教えていただけますか?」

 あくまで丁寧に、事務的に対応しているがもう答えなどきららにはほとんど見えている。

 きららが求めているのは答え合わせだけだった。

「あの子は勉強だけしていればいいのです。そうすればあの子は幸せになれますから。それを、今までうまくいっていたのに、貴方が邪魔を!」


 やっぱり!

 すべての元凶は優海さんだった!

 だから有理香さんはあれほどまでに、強迫観念のように勉強だけに固執して、頑なに他のものへ興味を持とうとしなかった!

 私は優海さんに雇われた、有理香さんの家庭教師に過ぎない。

 有理香さんではなく優海さんに対して出来ることなど限られている。

 有理香さんが楽しそうに、明るくなっていって、豊かになってくれれば。

 有理香さんを通じて優海さんも変わってくれれば。

 そんな希望はたった今、潰えたのだ。

 ああ。せめて。


「あの。優海さん。せめて最後に有理香さんともう一度」

「駄目です! 帰ってください!」

 優海にぴしゃりと突き返され、きららにはもうどうすることも出来なかった。

 ――駄目だったんだ――

 ――私は有理香さんを救えなかった――

 絶望に押しつぶされながら、きららはとぼとぼと帰宅した。

 何か食べなきゃとストックしてあったカップラーメンを食べたけど、味は何もしなかった。


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