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リベンジ

 テレポートした先には、やはり廃墟と化した街並みが広がっていた。


「おぉ。やっぱり結界の外はどこもこんな感じなんですね。魔物いますかねー」

大和はあたりを見渡した。


「あ、いますね」

そして鹿の魔物を発見した。


俺は大和の様子を不思議に思った。


「なんか大和思ったより結構余裕ありそうな感じでゴザルな。もっと緊張するかと思っていたでゴザル」


「この前から結構鍛えてきましたからね。コレクトについての理解も大分深まりましたし」



 ここ何日かで大和が唯一使うことができる魔法、コレクトについて新しく分かったことがいくつかある。


コレクトは使う魔力の量によって効果が変わる。


そもそもコレクトがどういう魔法かということを改めて思い出すと状態異常を治すというものだった。


つまりこの魔法のゴールは対象を正常な状態にするということ。


それに必要なだけの魔力を使わなかった場合、コレクトした対象は「完璧に正常な状態」にはならない。


なんていうか中途半端に正常になるのだ。


例えば今テレポートで日向が消費した魔力を大和がコレクトで回復させるとする。


その時大和に日向の魔力を全快させるだけの魔力が残ってなかったら、日向の魔力はある程度までしか回復させることができないということだ。


そして消費する魔力の量は正常な状態に対して使用した場合はゼロで、あとはコレクトした時点の状態との絶対値に比例するらしい。


要するに、ちょっとボロイかなくらいのものに対してコレクトするのと、めちゃくちゃボロボロなものに対してコレクトするのとでは後者の方が消費する魔力が多いということだ。


さっき絶対値と言ったのは、何度も言うがあくまでもコレクトは状態を正常にする魔法であったからだ。


どういうことかというと、仮に大和が自分に対してコレクトするとして、その時の大和の体調が悪かったならば通常の状態にまで回復する。


これは想像通りのことだろう。


しかし、大和の体調がすこぶる良かったとしても、同様に通常の状態になってしまうのだ。


つまりバフもデバフも消してしまう魔法だということであり、これは考えようによっては結構厄介な性質かもしれない。


数日前にこんなことがあった。



 大和の修行の休憩中。


天姉が大和に

「あー喉渇いた。コレクトしておくれ」

と言った。


「いいですよ」


「あーそういやコレクトってそういう喉渇いたーとか腹減ったーとかも治せるんやったな。やっぱ変な魔法やなー」

「んじゃいきますよ」


大和が天姉の肩に手を置いた。


「よく考えたら私コレクトされるの初めてだ」

「そうでしたっけ」


大和は魔力を込めた。


「はい終わりましたよ」

「……え」

「ん? どうしました?」


天姉は自分の手のひらを見つめた。


「身体強化の魔法が、解けてる……」

「は? ……ほんまやな」


このことから大和のコレクトには弱体だけでなく強化も消してしまう効果があることが判明した。



 鹿の魔物と対峙した俺は例の黒い刀を構えた。


相手は前足で地面を引っかきながら俺をじっと見つめている。


俺は警戒しながら徐々に距離を詰める。


突如、相手の手前の地面がうねるように隆起して、円柱状の土の塊となってこちらに向かってきた。


「くっ! 重い、けど!」

刀を使ってなんとか受け流すことができた。


すぐさま距離を詰めるために走り出す。


しかし右から左から土の塊が次々に襲い掛かってくる。


俺はそれをギリギリで躱しながら前に進む。


正面からきた土の塊をスライディングで避けた時、車のサイドミラーが転がっていたので拾った。


そしてすぐさま立ち上がってサイドミラーを抱えたまま鹿の魔物に向かって走る。


あと少しで間合いに入るというところで左から土の塊がきた。


「そりゃあ!」


俺はサイドミラーをそれに向かって投げた。


手を離れる直前にサイドミラーに対してコレクトしたことによりサイドミラーが元の姿を取り戻し、土の塊と俺の間に車が現れた。


ガッシャーン!


土の塊は車に激突し、せっかく元通りになった車はぐしゃりと潰れてしまったが、車がクッションになって土の塊は止まった。


これがコレクトの新しい使い方だ。

折れた木刀を直すのと同じように、物の破片などをコレクトすることで元の状態に戻す。


それを防御に使ったり攻撃に使ったりする。


例えばビルの外壁の一部を隠し持っておいて、いざという時にそれに対してコレクトすることで目の前にビルを出現させる、みたいなこともできるのだ。


まぁ流石にそれは必要な魔力が多すぎて今の俺にはできないと思うけど。


「よし! いける!」


再び鹿の魔物に向かって走り出そうとしたその時、俺を円で囲むように地面から土の壁が生えてきた。


「なんだこれ!? ってあれ?」


次の瞬間、目の前の景色が一変した。

隣に恭介たち四人がいる。


こうやって視界に映る景色が急に切り替わる体験は最近結構している。

テレポートだ。


「あ、日向が助けてくれたんですね」

「危なかったからな」


日向が指差した方には先ほどまで俺を囲っていた土の壁があった。


直後、それは中心に向かってぐしゃりと潰れた。


「うわぁ……あん中にいたら死んでましたね。いや〜やっぱ魔物つえー。一瞬いけると思ったんだけどなー。結局勝てなかったか。リベンジ失敗ですね」


鹿の魔物はこちらに澄まし顔を向けている。


「でも結構良いとこいってたよ? ちゃんと強くなってるんだねー」


天音が俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。

おまけ

「セノルカトル老人会」


勇者の剣が消失してから二日が経過した。


歴史資料館の館長であるミヤネルはようやく落ち着きを取り戻していた。


勇者の剣の消失が発覚した日は一日中発狂していた。


「ホッホッホ。勇者の剣が消えている? ホッホッホ。……あいつか? いいや、あいつである可能性が高いとかじゃない。絶対間違いない。こんなことできるのはあの野郎しかいねぇ! あのクソガキがぁぁあああ! またあのクソガキが余計なことしやがったのかクッソがあぁぁあああ! おのれ小野寺桜澄ぉおおぉぉぉぉおおおぁぁあああああぁぁ!」


一日中叫び続けたせいで声が枯れて出なくなった。


冷静さを取り戻したミヤネルは気分転換のつもりで近くの公園に行くことにした。

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