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闇夜の淵で兄妹は【おひさま】を希う  作者: 睦月稲荷
第三章 戦火の始まり
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3‐2 【報告完了】

「——ってな感じでわたしとリヴィが終わらせてきたから。ひとまずは大丈夫だと思うよ」


 ギルドの奥にある応接室。

 焦茶のテーブルを挟みライラと門番キルケ、シャーリーが向かい合っていた。

 既に【福音教】との戦闘報告は終了。しかし、終わってみればその表情は対称的。ライラは苦笑しキルケの顔は引き攣っている。シャーリーはいつも通りのニコニコ顔だった。


「ま、まさか俺たちが対策を講じている間に事を終わらせてくるなんて……。しかも銅級を連れてだなんて……。これが【称号持ち】の力……」

「あなた、存在を教えたのもそうだけどリヴィを殺したいんじゃないでしょうね……?」

「まさか!! 大切な仲間にそんなこと考えると思う!? それは失礼ってもんだよライラ!」


 頭を抱え、ため息を吐きながら苦言を呈するライラにシャーリーは軽く憤慨。昨日今日会った間柄だが、シャーリーにとってはもうリヴィとアンリはかけがえのない仲間。軽んじられるのは許せなかった。

 それがライラにも伝わり、彼女は謝意を示した。


「ごめんなさい。あまりにも色々と予想外すぎたのよ。なにせ、【称号持ち】が関わる様な案件に彼が間に入ったんだから……」

「そうは言うけどね、ライラ。安心していいよ。アンリちゃんにも言ったけど、リヴィなんてアルケティアを一撃で破壊出来るくらいめちゃくちゃ強いんだから。そんな心配するだけ無駄無駄」

「【黒忌子(ニグラス)】が!? 嘘だろ!?」

「あ゛?」


 シャーリーの言葉が予想外すぎたのか目を見開いて思わず立ち上がるキルケ。

 そんなキルケに対してシャーリーは極熱の視線をぶつけ、一言声を振るわせた。

 キルケにとっては無意識のことだろうが、それでもまた仲間が貶されてつい本気の怒りが露わになってしまった。

 事実である以上、自分たちのことを自分たちで言うのは構わないが人から言われるとムカつくあれだ。


「こら、キルケ」

「す、すみません。ついうっかり……」


 ライラもそれに気付き、キルケの足を肘で叩いて落ち着かせる。

 人類平等を謳うギルドだ。世界にこびりついている蔑称を使うことを許してはいない。ルールとしてそれは定められており、ライラはそれを心の底から遵守していた。

 けれど、彼女の場合はルールが無かったとしても使っていないだろう。そういう心根の持ち主だ。

 そしてキルケも正されたらすぐに直せる心は持っている。


「シャーリーさんも、この場にいないアイオーツ兄妹にもすみませんでした」

「……まぁ現実としてリヴィの悪評とかはあるし仕方ないとは思うけどさ。仲間が馬鹿にされるのはムカつくからもうやめてよね」


 座って深く頭を下げるシャーリーは軽く手を振って許す。

 そうして場が一旦落ち着きを取り戻すと、おもむろに立ち上がって立った。報告は完了したのだから、あとはリヴィ達と合流して【月霊祭】を楽しむだけ。それが楽しみなのか、顔はニマニマと緩んでいる。

 ただ、クロークの裾を軽く払って去ろうとしたその時、鋭いまなざしで二人を見下ろした。


「シャーリー?」

「一つ言い忘れたことがあった。今回の一件は先走った奴の行動だったけど、ここの居場所が特定されたことに変わりはないからね。ヤツらが来る前に警備とか防衛力は揃えておきなよ」

「勿論、言われなくても分かっているわ。ギルド長から既に、【福音教】がいつ来ても良い様に避難経路の熟知、誘導の方法、人員などをちゃんと見直す様にと言われているもの」

「そ、なら良かった。じゃあ、わたしたちはゆっくり【月霊祭】を楽しませてもらうよ!」

「ええ。今年は出店とか見世物とかかなり力を入れているから存分に楽しんでちょうだい」

「うん! じゃねっ」


 にぱっと快活に笑うシャーリーに優しく微笑むライラ。

 それを見てシャーリーは部屋から飛び出した。

 報告も憂いもなくなった今、あとはジャンブル中が【月霊祭】を楽しむだけ。

 まだ本祭が始まってもいないのに既に街中は賑わっており、ギルドの奥にまで屋台の美味しそうな匂いや人々の楽し気な声が聞こえてきている。

 それを感じる度にシャーリーの心は楽し気に昂揚し、進む足が自然と弾んでいくのだった。

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