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名もなきファンタズマ  作者: 佐藤華澄
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最大の理解者

 片想いしている幼馴染に、好きな人ができたらしい。

 相手は勿論、僕ではない男。正直、大好きな幼馴染からの恋愛相談は、苦痛以外の何物でもなかった。けれど、嫌われたくなかった。恋人になれないにしても、最大の理解者でいたかった。だから、必死に相談に乗った。彼に話しかける方法とか、もっと可愛くなる方法とか。僕じゃない誰かのために努力する幼馴染を、僕は応援し続けた。

 その甲斐あってか、遂に幼馴染は意中の男と恋人関係になった。電話越しでありがとう、あなたのお陰だよ、と幼馴染は泣きながら繰り返した。僕は、ちゃんと幼馴染の理解者であれたらしい。

 そのあとも、幼馴染の相談は絶えなかった。デートの服装だとか、誕生日プレゼントは何がいいだとか。幼馴染の理解者であろうと心掛け、一緒に頭を悩ませ続けた。その度に、ありがとう、助かったよ、という幼馴染の言葉が聞ける。やがて彼女は結婚して、地元を去っていった。これでいい、と何度も自分に言い聞かせた。たまに幼馴染から連絡があれば、それで充分だった。

 けれど、やはり徐々に、連絡の頻度は減っていった。同時に、たまに来る相談の内容も、どんどん変わっていった。今日も叩かれちゃったの。嫌われちゃったかもしれない。捨てられたくない。受話器の向こうの嗚咽に寄り添いながら、僕は幼馴染と一緒に、彼の心を落ち着かせ、機嫌を取る術を考えた。別れた方がいい、の一言が言えなかった。幼馴染が彼に嫌われることを恐れるように、僕も幼馴染に嫌われるのが怖かった。ただでさえ減ってしまった連絡頻度を、これ以上落としたくなかったのだ。きっと彼は君のことが大好きで仕方がないんだよ、とアドバイスしたのを最後に、しばらく連絡が途絶えた。

 音沙汰のないまま三か月が経過したある日、僕はたまたま、朝刊の端に幼馴染の名前を見た。動悸を抑えながら、恐る恐るその記事に目を走らせる。長期にわたるDVに耐え兼ね、二日前に首を吊って自殺。僕はスマートフォンを一瞥した。二日前。連絡は、なかった。更に記事を読み進める。遺書の内容が、一部掲載されていた。

『誰にもわかってもらえなかった』

 僕は、幼馴染の理解者にすらなれていなかったらしい。

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