第9話 お弁当
西園さんと同じクラスだった。これは一体どういうことなのか。西園さんそんなこと一回も言ってなかったんだけど......。まぁ俺もクラス替えのことなんて話題に出さなかったし、すでに忘れ去られていたとしてもおかしくはないのか......?同じクラスとはいえ、西園さんも急に話しかけてくることもないだろうし。
しかし、本当に人気者というか、顔が広いというか。クラス替えしたばっかだというのに、まるでずっと同じクラスだったかのように会話をしている。西園さんもすごいけど、他のみんなもすごい。
それに対して俺はクラス替えをした今、一年の時の他クラスには仲のいい人なんていなかったから絶賛ぼっちである。だが俺にはスマホがある......!スマホには様々なソシャゲがある。これさえあれば俺はなにも......。そんなことを考えていると横から声がかかる。
「おはよっ、綾斗くん」
この声は......と思い声がする方を見ると、そこには見慣れた親友の顔があった。髪の毛は青く、男の子だけれど肩にかかりそうなほど長い。目はぱっちりしているが、どことなく大人しそうな雰囲気を醸し出している俺の親友「東条 蓮」だ。ぱっと見女の子に見えるので、今度女装でもさせてみたい。
「お、蓮。おはよう」
「綾斗くんの席ここなんだね。僕の席とは結構離れちゃってるや」
新クラスの最初の座席は無難に名簿順だ。一之瀬である俺は黒板に向かって左側、一番窓際の前から三番目だ。
「連の席どこ?」
「僕は真ん中の列の後ろから二番目だよ」
「めっちゃいいじゃん。授業さぼれそう」
後ろの席ってマジでいいよな。授業中スマホ見ててもバレないし。まぁ逆に監視されやすい説もあるけどね......。
そんなことを話していると若めの眼鏡をかけた先生が入って来た。
「おーい、もうチャイムなるから席につけー」
その声と同時くらいにチャイムが鳴る。さすが先生だ。ていうかあの先生なんて言う名前だっけ。
「あ、じゃあ僕行くね。またあとでね」
「おう、またな」
そう言い手を振りながら席に戻る蓮。なんとなくその姿を追いかけていると、蓮の後ろの席に座っていた女の子が目に入る。
「えっ」
思わず声が出てしまった。だがそれも仕方がない。だって連の後ろには西園さんが座っていたのだから。
*
朝のホームルーム。先生が点呼を開始する。ほとんど知らない人なんだけど、これ俺が教師陣にいじめられてるとか、そういうのじゃないよね?あ、ちなみに先生の名前は岡田っていうらしい。下の名前は忘れた。
「ホームルームが終わったら昼まで復習テストをやる。昼食をとったら体育館で新学期の全校集会だ。午前中は入学式やってるから、体育館にはあんまり近づくなよー」
うちの学校は新学期初日から復習テストがある。初日から長時間も机に拘束するのはやめてほしい。とはいえ普通のテストとは違い、春休み中の課題がそのままテスト範囲となっている。内容も簡単で時間も短い。科目数も多くないのでわりと早く終わるのだ。でも全校集会を含めると午後になってしまうため、お昼ご飯の時間をとるらしい。でも短いとはいえテストは本当に嫌だ......。
テストの内容は本当に簡単だった。時間もいい感じに短く、早く終わってしまって暇という時間が少なかった。おかげで気づけばテストは終了し、すでにお昼の時間になっている。テストの時って、一日終わるのめっちゃ早く感じるよね。
「綾斗くーん。テストどうだった?」
お弁当の袋を手に下げながら蓮が近づいてくる。
「おー、まぁめっちゃ簡単だったわ。余裕でございました」
俺もリュックからお弁当を取り出そうとして、気が付く。
「やっぱそーだったよね。緊張して損したよー。......綾斗くん?」
リュックに手を突っ込んだまま固まる俺を不審に思ったのか、蓮は俺の名前を呼んでくる。まぁ普通に考えたら不審な奴だよな。そのまま俺は何も手に取らずにリュックから手を抜く。そのまま「なんもないよー」なんて適当にごまかした。「そう?」と言いながら蓮はお弁当を広げている。
「綾斗くん、ご飯は?もしかして忘れた?」
「え...!?いや忘れてないよ?」
もちろん忘れたわけではない。忘れたのなら購買で買えばいいだけなのだが、そうはいかない。今俺のリュックの中には西園さんが作ってくれたお弁当がある。俺は今までコンビニで買ったものを食べていた。もちろん蓮はそれを知っているし、俺が料理ができないのも知っている。もしお弁当を出そうものなら驚かれるに違いない。......だがしかしせっかく作ってもらったものを食べないというわけにはいかない。ええい、仕方がない。俺が作ったということにしよう!なんとしても嘘を突き通すのだ!
「えっ、綾斗くんがお弁当」
「ふっ、まぁな。俺も変わろうと思ってさっ。作ってきちゃったのさっ」
なーにかっこつけてんだ俺は。人が作ったものをあたかも自分が作った感出して自慢するの、恥ずかしくないのか?
「えーすごい...!料理できるようになったんだ...!」
なってません。全然なってません。嘘ついて本当にごめんなさい。
「......ま、まぁな?」
動揺を隠しきれない返事をしてしまったが、蓮は気づいていないらしい。俺は震える手をなんとか抑えつつ、お弁当のふたを開ける。お弁当独特のにおいが広がり、彩り豊かなおかずたちが姿を現す。地味な色にならないように緑や赤がしっかりと加えられており、非常に理想的なお弁当だった。
「おぉ、美味そう」
「え?」
つい感想を述べてしまった......!これは俺が作ったことになっているんだった。バレる訳にはいかん......!
「あー、作った時はなんとも思わなかったけど、時間が経って改めて見ると、結構よくできたなと思って...」
「確かに!これ男の子が作ったとは思えないくらい上手に出来てるもん」
「だ、だろ~??」
こいつ、鋭い......!?バレたかと思ったわあぶねぇ......。
にしてもほんと良くできたお弁当だな。そう思い俺はなんとなく西園さんを探す。案外すぐ見つかったのは西園さんは席を移動してなかったからだろう。だが一人というわけではなく、周りに人が集まっているのだ。女の子数人に、男もいる。さすがだな、と思っていると西園さんと目が合う。なんとなく気まずさを覚えた俺は、すぐに目を逸らしてしまった。
*
ご飯を食べ終えた俺たちは現在、全校集会をするために体育館にいる。全校といっても一年生は入学式が終わり、簡単なホームルームを行った後帰ってしまったので、集まっているのは俺たち二年生と三年生だけだ。......てか話長い。先輩らしく~とかいろいろ言ってらっしゃいますが、あんま頭に入ってきてないっす。
だるい全校集会がやっと終わった。今日の日程はこれにて終了。帰りのホームルームを終えたみんなは解放されたかのようにはしゃいでいた。さて、帰るとしますか。
「ねー西園さん、今日どっか遊びにいこうよー」
これが今までの俺だったら気にも留めない会話だったと思う。だがしかし、今の俺にとっては気にしてしまう会話になっていた。とはいえ止めることではないので、帰りが遅くなるのか、程度にしか思わなかったのだが。
「えー、俺らも一緒に行っていー?」
なん、だと......!?女子だけで話している、しかも遊びの話をしているところに男二人が混ざっていった......。すごい勇気だなおい。俺には一生かかっても出来ない気がするんだけど。
「斎藤と真野じゃん。いいよどこ行く?」
「カラオケでいーんじゃね?」
斎藤と真野か......。こいつらは数少ない一年のころ同じクラスだった奴らだ。正直苦手である。
てか高校生ってすぐカラオケ行きがちだよな。俺も蓮とは何回か行ったことがある。まぁ行きやすいしな。それくらいしか娯楽がないともいえるが。
「綾斗くん、帰ろー」
「お、蓮。よし帰るか」
俺の元に蓮がやってくる。一緒に帰ると言っても学校を出たらすぐそこが蓮との別れ道になってしまうのだが。だからこの一緒に帰る、というのは、一緒に昇降口まで行くという意味合いが強い。俺は蓮と共に西園さんの横を通りぬけて昇降口まで向かった。
*
「じゃあ、また明日ねー」
「おう、また明日」
学校を出て、蓮と別れた俺はゆっくりと歩き始める。今日のお弁当美味しかったなぁ。......あ、そうだ。最近近くのショッピングモールに新しくケーキ屋さんが出来たってなんかで見たな。今日はそれでも買ってお弁当のお礼をしよう。
帰り道からは多少ずれてしまうが、そこまで遠くないので問題はない。西園さんは遊びに行って帰りが遅くなるだろうし、俺も少し寄り道をしていこう。確か読んでるラノベの新作が最近出たような気がする。発売日に買うほどではないと思っていたためまだ買ってなかったが、ちょうどいい機会だし買って帰ろう。
俺はスマホで発売日を確認し、そのままショッピングモールへ向かった。
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