第6話 初日
急に西園さんから何かしよう、という提案。初日だからと言って特にすることもないと思っていた俺だが、そういわれてしまうと、何かしなくてはならないと思ってしまう。だが何をする...?この家でできそうなものは...。
「...あ、じゃあゲームでもします?」
ゲーム。俺はゲームが好きである。FPSも好きだし、RPGも好き。PCのゲームもやるし、コンシューマーゲームだってやる。まぁ幅広くやってる分、何かに特化してるわけじゃないから浅いんだけどね...。そんな俺の家には様々なゲーム機がある。女の子でも楽しめそうなゲームももちろんあるためこの提案をしたのだ。
「ゲームか、いいね~。何あるの?」
「うーん、マ〇オパーティとかどうです?」
とりあえず特別な技術があまりなくても無難に楽しめるゲームを提案した。あれ何歳でも楽しめちゃいそうなのすごいよな...。これならきっと楽しんでくれるはず、そう思ったのだが、西園さんの反応はあまりよくなく、顎に手を当て、少し考えるようなポーズをしていた。
「う~ん...。それもいいけど...。ス〇ブラとかないの?」
「えっ、あ、あるけど...」
予想外のことを言われて俺は驚いてしまった。ス〇ブラ?まさかそのゲームの名前が出てくるとは思わなかった。だって西園さんとは程遠そうなゲームだもん。
「ほんと?ならやろうよ~。私あれ得意なんだよねぇ」
西園さんがス〇ブラ得意!?ゲームとは縁がなさそうなあの西園さんが!?あれか?彼氏とたまたまやった時、手加減してくれたことに最後まで気が付かずに自分は才能があると思い込んでるタイプの子か!?......西園さん、彼氏いたことあんのかな...?
まぁいい。俺は別に彼氏でも何でもないし、手加減などする必要なんてない。初日から悪いが、いや、初日だからこそ格の違いを見せておかねばならぬ。覚悟しな、西園さん。今日、君の無敗伝説を終わらせてあげよう!!...無敗かどうかなんて知らないけど。
*
「...え、なんで...?」
悔しさを隠しきれないかのように言葉を発したのは西園さん...ではなく俺の方だった。俺は西園さんに負けた。何回も負けた。俺がやりたいことは止められ、なのに俺は西園さんの攻撃を受け続けていた。途中から悟った。いやむしろ初手の動きでなんかおかしいと思ってはいた。だって初心者の女の子がする動きじゃなかったもん...。彼氏に手加減されてたわけじゃなかったんだな...。
「いや、西園さん強すぎませんか...。てっきり彼氏に手加減されてることに気づいてない系の人だと思ってました...」
「なにそれ、ウケる。私彼氏いたことないんだけど~?新手の煽り~??」
つい変なことを言ってしまった俺に、絶妙に笑いかけながら答える西園さん。やだ、すごく怖い。
「あ、いやごめんなさい...。てっきり彼氏の一人や二人、余裕なんだと...」
「一之瀬くんは私のことなんだと思ってるの~」
冗談だ、と言わんばかりの笑顔に、機嫌を損ねてしまったわけではないと安堵する。西園さんみたなタイプの人が怒ると多分、一番怖い。ていうか、彼氏がやってたからって理由じゃないんだな。ゲーム全然興味なさそうな西園さんがここまで強くなるまでやってるなんて驚きだ。
「で、でも本当に強いっすね...。なんでこんなに強いんですか」
「まぁずっとやってたしねぇ。私の友達ゲームやる人いないから、わいわいやるより上を目指してゲームしてたって感じかなぁ。...家でも一人だったし」
「...あ、なんか、ごめんなさい...」
寂しそうな表情をする西園さん。なんだかあまりよくないことを聞いてしまった気がする。西園さんが家で一人だったということは知っていた。確か最初に言っていた。自分から言っていたので触れてほしくない話題というわけではないのだろうが、でもなんだか申し訳ない気持ちになってしまう。どうしよう、こんな時にかけるべき言葉なんて思いつかねぇよ...。あぁ神よ、どうか私に慈悲を...。
「ん?なんで謝るの?今は一之瀬くんがいるし、ゲームもやってくれるし、私はこれからが楽しみだからもう昔のことは気にしてないよ~」
「そっか、ならよかったです。ゲームならいくらでも付き合いますよ。...負けたの悔しいですし...」
「やった」
俺は西園さんの言葉を正直に受け取ることが出来なかった。この数日間では一度も見たことがない表情。本当に昔のことを気にしてないならなんであんな寂しそうな顔をしたんだ...。まぁ俺がいるとは言っていたがまだ初日だ。忘れるには時間がかかるだろうし、俺はとことんゲームを付き合ってあげよう。
「...てことでもう一戦...!勝てないまま終わるのは男としてのプライドが...!」
「なにそれ~。ま、いいけどね。絶対負けないよぉ」
結局夜までやった俺たちだったが、結局西園さんに勝つことはなくその日は終わった。
*
「あ、そういえばご飯の材料とか、何も買ってない」
「あっ」
時刻はすでに九時を回っていた。どんだけゲームしてたんだ...。てかご飯どうしよう。あるものなんてこの間西園さんがオムライス作ってくれた時に余った材料くらいなんだけど。...仕方ない、今日はコンビニでも行くか。
「俺、コンビニでも行ってきますよ。何買ってきましょうか?」
「えっ、いいよ私も行くよ」
「あ、いやでも...前も言ったけど、やっぱり二人で外出するのは...」
ごめん西園さん...!一緒についてきてくれるのは嬉しいけど、やっぱり二人はちょっと...。
「ん~、一之瀬くん気にしすぎじゃない?たまたま同じコンビニで知り合いに会うことも少ないと思うんだけど」
え、俺気にしすぎなの?いやそんなことないよね?西園さんが気にしなさすぎなんじゃないの??俺がおかしい??
「まぁ、念には念を、ということで...」
「...う~ん、分かった。じゃあ私は...」
そこまで言って西園さんは何かに気が付いたようにハッとした。え、どうしたの?
西園さんはまるで何か大変なことをしてしまったかのような表情で口を開く。
「...私、一之瀬くんのメイドさんとしてこの家に来たんだった...。なのに私、ゲームして、料理のことも忘れてて...。ごめん一之瀬くん、せっかく雇ってくれてるのに。...私が買いに行ってくる...!」
急にそんなことを言い出し立ち上がり、財布をもってリビングを出ていこうとする。
「いや、ちょっ!?待って西園さん!落ち着いて!」
俺は慌てて西園さんとリビングのドアの間に立ち、止める。
「なっ、なんで止めるの...!?」
いやそりゃ止めるだろうよ!?誰だって止めるだろこの状況!確かに西園さんはメイドさんとしてここにやって来た。でもメイドさん以前にこの人はただの女の子だ。この暗い中一人で外に出すわけにはいかない。
「いやもう外は暗いですし...。こんな時間に一人で外には出せませんよ...!俺が行ってくるので、ここで待っていて下さい」
不服そうな顔で西園さんは俺のことを見上げてくる。...やば、かわいい。
「...もし、そういうことが気になるなら、明日からお願いします」
「...分かった」
まだ不服そうな顔をしているが、今回はなんとか引き下がってくれたようだ。俺びっくりしたよ...。
「...ところで何買ってきます?」
「...サラダなら何でもいいよ」
西園さん、何でもいいっていうのが一番困るんです。今回はサラダっていう括りがあるからいいけど、なんの括りもない「何でもいい」はやめてくださいね?まだ話すようになって少ししか経ってないんです。好みとか全然分かんないんです。俺、悩みすぎて死んじゃいますから。
遂に同居開始!よかったらブックマークなどお願いします!!