第4話 手料理
「本当にそのメイド服でやるの…?」
現在、俺の部屋にメイド服を着た西園さんがいる。スカートが短く、太ももが多少見えているため、非常に目のやり場に困る。この状態で片付けなんて出来るのだろうか...。
「そだよ。だって私、一之瀬くんのメイドさんだもん」
一之瀬くんのメイドさん…。こう、なんかくるものがあるな...。動揺してしまった俺は、言葉に困っていた。だがどうしたものか。これでは俺の方が片付けに集中できないではないか。
仕方がなく、西園さんとは少し離れたところの片付けをしていると、西園さんが声をかけてくる。
「一之瀬くん、これってどーする?」
振り返ってみると、西園さんはとんでもない格好をしていた。
四つん這いになっており、俺とは逆の方を向いていたため、顔だけを後ろに向けている。そのため、俺の方から見ると、手前側に脚があるのだ。スカートが短いためギリギリ見えないが、非常に際どい。際どすぎる。見えていないのが奇跡のようなものだ。
俺は絶対に見てはいけないと思い、すぐに顔を背けた。
「にっ!西園さん!あの、ちょっと危ないんで、気を付けてください...」
西園さんは今、自分がどういう状況なのかやっと分かったらしく、顔を赤くしながら正座になった。
「あ...ご、ごめん...」
お互い気まずい時間が流れる。こういう時、場の空気を変えられるような話の話題があればいいんだけど...。まぁでもそんなものは俺には求めないでくれ...。
「と、とりあえず掃除に戻ろっか...」
「そっ、そうっすね」
まぁ掃除をしていればこの気まずい空気もなくなっていくだろう。そう思い片づけを再開すると、西園さんも何事もなかったかのように再開し、途中で話しかけてくれた。でも西園さん、気を抜くとすぐ見えそうになるんで本当に気を付けてください。
片づけを始めてからどれくらい経ったんだろう。自分でも驚くくらいに集中できている。俺は片づけの才能があるのかもしれない。ポケットからスマホを取り出す。時刻は13時をちょっと過ぎた頃。そろそろお腹が減ってきた。
「もうこんな時間だねぇ。ご飯にしよっか」
俺の心でも読んでいるいるのか、と思うくらいに完璧なタイミングで声をかけてくる西園さん。神ですか。
「そうですね。僕お腹空いてきました」
「だよねぇ、私も。よし、じゃあご飯作ってくるね。...あ、ご飯って炊いてあったりする?」
「うん、炊いてある訳がなくてごめんなさい。ちなみに調味料とかもほぼ何もないです」
こいつは一体どうやって生活してるんだ、と言われてしまうようなキッチン。でも西園さんが来る前はもっといろんなものがあったんですよ。...ゴミとか。
「だと思った~。よかった、必要なもの全部買ってきておいて~」
「いや本当に申し訳ないです...。お金はちゃんと払うんでレシートを...」
「いやいいよ。私がやりたくてやるんだし。それに今日買ったものはこの家に置いておくから、よろしくねぇ」
一体何がよろしくなのか分からなかったが、部屋から出ていく西園さんに続いて、俺も自分の部屋を後にした。
ベランダで服についたほこりを払ってきた西園さんは、ぱっぱと料理の準備を進めている。手際がいいこと...。俺は手伝うと言っても何もできる気がしないし、むしろ迷惑をかけそうなので、おとなしくリビングのソファに座って待つことにした。何を作るのか聞いたところ「内緒だよ~」と言われてしまったため何を作るかすら分からない。でも西園さんの料理なら何でも美味しそうなので、気分は限定キャラが確定したガチャを引いているみたいだ。
「一之瀬君って、本当に料理しないんだね」
キッチンの方から声がかかる。
「本当はしないととは思ってるんですけど、なかなかやる気になれないんですよね...」
「でもいつも買ったものばっかじゃ体に悪くない?お金もかかるし」
「分かってても出来ないのが僕なんですよね。お金はほとんど遊びに行かないんで、ほぼ食費以外の出費がないんですよ」
言ってて悲しくなるが、俺は友達が少ない。いや、いない訳じゃないんだ。でも、なんていうんだろうか、学校では話したりするような人も、学校外で会うかと言われたらそうじゃない人が多い。学校内だけの友達とでもいうのだろうか。ほぼそういう人なので遊ぶ人がいないのだ。なので友達が少ないわけではない。ここ、重要。
「てことは、これからは私が基本作るわけだし、遊びにいくのにお金を使っても大丈夫だね」
まぁそういうことになるのだが、一体誰と遊びに行けというんだ。いないことはないんだけどさ...。てか同級生がご飯を作ってくれる生活ってなに?俺前世でなにしたんだろ...。
たまに会話を挟みつつ、遂に料理が完成したようだ。俺はソファから立ち上がり、ダイニングテーブルまで向かった。椅子に座って料理を待つ。ソワソワしちゃうっ...。
キッチンにいた西園さんが料理を持ってくる。ふわっとした黄色いところに赤いなにかがかかっている。これは...
「はい、一之瀬くん専属メイドの愛情たっぷりふわふわオムライス~」
なんだって?俺専属メイドさんが愛情込めてくれたオムライス?俺、本当に前世でどんな徳を積んだの??
こう、the・かわいい声!というわけではなく、若干だるそうな声の持ち主である西園さんがこういうことを言うと、なんだかギャップがあるような感じがして、とてもいい。でもケチャップがハートじゃなく、普通にかかっているだけだったのがなんだか寂しい。まぁこのオムライスを食べれること自体が奇跡なので高望みはしないが。
「うわすげぇ、マジで美味そうぅ...」
思わず変な声が漏れてしまう。だってたまごがふわふわだよ?初めて見たよこんなの。西園さんも自分の分を持ってきて座る。
「ねぇ、ちょっとさすがに食べづらいから着替えてきていい?」
「もちろんいいですよ」
「ありがと!」
早く食べたいこの気持ちを抑えて西園さんの帰りを待つ。...あ、戻って来た。はやいな。
「お待たせ~。じゃあ食べよっか。いただきま~す」
「いただきます...!」
まず一口。...美味すぎる...!これはあれだ、オムライスを超えた先にある何かだ。その辺のオムライスを完全に超越している。
「マジで美味いですね...。感動しちゃいました」
「感動するほどおいしかった?なら作ったかいがあったよ~」
美味しすぎて俺は多分、息をすることを忘れていた気がする。気づけばもう食べ終わっていた。
「まじで美味しかったです。ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした~」
西園さんも食べ終わったようで、食器をもってキッチンへ向かおうとしていた。俺もお皿をもってキッチンへ。よし、ここからは俺の仕事だ。洗い物は任せてもらおう。
「洗い物は僕がやるんで、シンクの中に入れておいてくれればいいですよ」
「えっ、一之瀬くん洗い物できるの?」
...西園さん、さすがに俺のこと舐めてませんかね?
*
洗い物を終えた俺は西園さんがソファに座っていたため、カーペットの上に座った。さすがに西園さんの横に座る勇気はなかった。
「よし、じゃあ再開しよっか」
「え?」
「え?じゃなくて。片づけ。やっちゃわないとでしょ?」
そうだ。オムライスのせいで忘れていたが、今日は片づけをしに来てもらっていたんだ。正直ご飯を食べたせいでやる気が下がってしまった。だが西園さんに来てもらっている以上、やらない訳にはいかない。重い腰を上げて西園さんと部屋に向かう。
「あれ...」
「どうしたの?一之瀬くん」
「こんなに進んでなかったっけ...」
西園さんがやっていた場所は大分片付いている。でもなぜだろう。俺がやっていたところが全然進んでいない。
「一之瀬くんがやってた場所、あんま片づいてないね~」
俺は絶望してその場で崩れてしまった。
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