Ꮚ・ω・Ꮚメメメー(70:頭テスタ)
狂ったような声をあげ、手元に再び現れたゲイボルグを投射する。
蹴槍ゲイボルグは投射から数秒で手に戻る。
地下壕に籠もったなら、ゲイボルグを作業的に投げ続けることで、地下壕から出られないようにして追い詰め、なぶり殺す。
上手くすれば地下壕そのものを破壊し、生き埋めにしてしまうこともできるだろう。
男を破滅に追い込むような女たちには相応の末路だ。
成し遂げたところでなんの意味もない、逆恨みを通り越し、もはや現実逃避と言ってもいいレベルの復讐心、そんな自分の愚かしさを省みる余裕もなかった。
「そこを動くな。泣いて謝れ。死んで償え……」
そんな台詞を繰り返しながらゲイボルグの投射を続け、距離を詰めていく。
そうして行き着いた地下壕の前に、メカクレ帽の少女の姿があった。
頭テスタのようだが、群馬ダークの姿は見あたらない。
正確には破壊されたスペランカーユニットの姿も消えていたのだが、そこには気付かなかった。
問答をする意味は感じなかった。
約二十メートルの距離から槍衾を繰り出す。
槍衾というのは本来、槍兵の部隊が一斉に槍を構えたり、繰り出したりすることを示す言葉だが、ゲイボルグの槍衾は虚空への一突きで数十本の魔力の槍の穂を散弾のように繰り出す技となっている。
レイドモンスターのグレーターグリフォンには効き目が薄かったが、人間が相手であれば回避不能、必殺の一撃となるはずだった。
だが、槍衾が繰り出された時には、少女の姿は視界から消えていた。
魔力の鋭刃が虚空を撃ち貫いたと気付いた刹那、アイテムボックスから引き抜かれた青いスコップの一撃が、石動新の重鎧の横腹をとらえていた。
打撃というより、砲撃を思わす衝撃が、分厚い鎧を変形させ、エピック級カタフラクトの巨体を真横に吹きとばす。
激しい金属音を立てて地面を転がった石動新は、ゲイボルグを杖代わりにして体勢を立て直した。
「……ま、待てっ!」
思わず、そんな声が出た。
「なんだその攻撃力は!」
エピッククラスのカタフラクトの防御を無視してダメージを通してきた。
だが、メカクレ帽の少女は返事の代わりにスコップを地面に立て、アイテムボックスから銀のマスケットを引き出した。
鎧とゲイボルグだけで渡り合える相手ではない。
移動速度を損なうためアイテムボックスに入れていたアダマントのタワーシールドを出し、正面からの攻撃を受け流すパリィのスキルを発動して攻撃に備える。
その時、
メー ! (よし!)
メエェ! (そこだ!)
メメェッ!(放てっ!)
左右に展開したバロメッツたちが奇妙な声をあげる。
その次の瞬間。
石動新の足下から一本のマンドラゴラがひょこっと顔を出し、耳をつんざく咆哮と衝撃波を放った。
高所から地面に叩きつけられるような衝撃が、石動新の全身を襲う。
足下からの特殊攻撃のため対物スキルのパリィは効果を発揮しなかったが、エピック級カタフラクトの防御・耐久スキルでダメージを殺してやり過ごす。
大きなダメージはなかったが、強烈な耳鳴りが残った。
そして次の刹那。
鎧の背中に、マスケットの銃口が触れた。
目の前にいたはずの、少女の姿が消えている。
マンドラゴラの咆哮の間に動き、背後に回り込んでいた。
ためらわずに振り向き、盾の側面を叩きつけにかかる。
シールドバッシュ。
盾の叩きつけの速度や威力を大幅に向上させ、内懐に入り込んだ相手を叩き潰す打撃スキルだ。
少女が引き金を引き、分厚い鎧に衝撃が走る。
東京大迷宮の防具類は基本的に防弾性能が高く設定されている。重装騎士カタフラクトの鎧ともなればなおのこと。
痛痒は感じなかった。
ゲイボルグを迎え撃った特殊弾だったらわからなかったが、一発きりしか用意がなかったのだろう。
そのままシールドを振りぬこうとしたが、途中で体のひねりが利かなくなった。
重鎧の体幹部の可動域が急激に狭まり、拘束具のようになって動きを阻んでいた。
違和感を覚えたときには、もう遅かった。
腰の入らないシールドの一撃をかわした少女はマスケットをアイテムボックスに納め、青いスコップを再び手に取った。




